離縁された元王妃は、国王の死刑を見物する
この国の国王であるルークの斬首刑がとりおこなわれると聞き、たくさんの民衆が処刑場に訪れた。その中に私はいる。6歳になったばかりの幼い息子の手を引いて、最前列で見物している。
三十代半ばの国王ルークは泣きわめきながら押さえつけられ、ギロチンで首をはねられた。
民衆から拍手喝さいが起こる。
革命軍のリーダーがルークの首を掴んで高く掲げ、人々に見せつけた。
おびえて目を閉じる息子に私は言う。
「きちんと見なさい。これはとても重要な歴史的瞬間なのよ」
「なんで国王様は殺されたの?」と息子が私を見上げる。
「それはね・・・」
私は自分の過去について語り始める。
×××
10年前。
公爵家の娘であり、頭の良かった私は、リチャード国王に頼まれて王の息子であるルークと結婚した。当時二十代半ばだったルークは、見た目だけはとても良かった。だがそれ以外は最悪だった。頭は悪いし、性格も悪いし、おまけにロリコンである。
リチャード国王には子供がひとりしかいなかったから、次期国王はルークと決まっていた。しかしルークが国王の器ではないことは明白だった。そこで賢明なるリチャード国王は王都中の女の中から最も優秀なものを息子の妻に選び出した。それが私である。
学業の成績はトップであり、家柄もよく、次期国王の妻として申し分がなかったのだ。
国王の頼みならば断わることはできない。それに両親はとても喜び、友人たちからはうらやましがられた。そのころのルークは内面の愚かさを巧妙に隠していたから、人々は顔のいいルークに好印象を持っていたのだ。
彼が生粋のロリコンだと知ったのは結婚したあとだった。
私がルークと初めて会ったとき、彼はにこりとっもせずに真顔でこう言った。
「僕はおばさんに興味はない」と。
彼の恋愛対象の年齢は10歳前後であり、18歳の私は、彼にとってはもうすでにおばさんだったのだ。
私たちの間に愛情は全くなかった。
それでも私は国王や国民たちのために政治的な知識を身に着け、そういうことを頑張ってやった。もともと頭のいい私は政治的な技術を身に着けていき、宰相が舌を巻くほどの手腕を発揮した。
私に政治的な知識を教えてくれたのは宰相のヴェルサーチだ。彼は30歳ぐらいで知的で端正な顔立ちの温和な人だった。王は彼に全幅の信頼を寄せている。
「エリザベス妃、あなたがルーク殿下と結婚されて助かりました」と宰相ヴェルサーチは私に言った。「あの王子が国王になったらこの国は終わりだと思ってましたよ」
「そんなこと誰かに聞かれたら大変ですよ」と私は言った。
「大丈夫です。みんな心ではそう思ってますから。しかしあなたがいればこの国は安泰だ」
ほどなくしてリチャード国王は病に倒れた。そして王位を息子のルークに譲った。私とヴェルサーチで国を支えてくれと言い残してリチャード国王は死んだ。国民たちは悲しみに暮れ、私は無能な夫の代わりにこの国に尽くそうと心に決めた。
しかしルークの愚かさはリチャード国王や私の想像を超えていた。
国王となったルークは即座に私を離縁したのだ。
「おいエリザベス。お前とはもう離婚する」
「本気ですか?」と私は尋ねた。
「本気だ。お前のようなおばさんにもう用はない。おやじの命令でしぶしぶ結婚していたにすぎないんだ。俺が愛しているのは今度10歳になるマルガリータちゃんだけだ」
「お、お待ちください閣下」とヴェルサーチがルークに言う。
「なんだヴェルサーチ」
「エリザベス殿下は王宮になくてはならない存在です。考え直してください」
「お前、僕に意見するのか? じゃあお前もくびにするぞ」
ヴェルサーチはくびはまぬがれたが便所掃除を命じられた。私はすぐに王宮から追い出され、ルークはマルガリータという9歳の少女と結婚した。
バカなルークに国王など務まるわけはないので、国はめちゃくちゃになった。ルークは自分に逆らうものを片っ端から処刑していき、彼の周りには彼の顔色をうかがうだけのイエスマンばかりが残った。有能な家臣たちは残らず殺されるか、さもなければ自分から愛想をつかして王宮から逃げ出した。
国民たちはそんなルークに反感を抱き、革命軍ができた。革命軍のリーダーは宰相ヴェルサーチだ。彼は毎日便所掃除をさせられるのに辟易してみずから王宮を去り、革命軍を立ち上げたのである。
そしてその革命が成功したのだ。
ルークはギロチンにかけられて死んだ。
×××
「・・・ってことよ」と私は息子に自分の過去を話し終えた。私と息子は広場のベンチで並んで座っている。夕日が空をオレンジに染めていて美しい。
「ルークはバカだね」と息子は言った。「お母様を離縁しなかったら処刑されることもなかったのに」
「あなたは賢いわね」と私は息子の頭を撫でた。
そこに歩いて近づいてくる人物がいた。もと宰相であり革命軍リーダーのヴェルサーチだ。
「お疲れ様、終わったわね」と私は言った。
ヴェルサーチはくびを振って、
「いや、これからが本当の始まりです。国を建て直さなくてはいけません。そのためにはあなたの力が必要です」
「もちろん私は協力を惜しまないわ」
「ねえヴェルサーチのおじさん、国王が死んだら、次の国王は誰がなるの? おじさんがなるの?」と息子が質問した。
「次の国王になるのは私ではありません。あなたです」
「え? ぼく?」と息子は目をぱちくりさせる。
私は息子に説明する。「今まで黙ってたけど、あなたはさっき処刑されたルークの子供なの。今現在、唯一の王家の血を引く者なのよ」
「民衆は血筋というものにこだわります。なので、あなたが次の国王です」とヴェルサーチが息子にお辞儀をする。
「えええ! そうなの!? ぼくに国王が務まるかな?」
「その点なら心配ないわ。私とヴェルサーチがついているから」
私とルークがまだ夫婦だったころ、跡継ぎが必要なために彼はいやいや私を抱いた。そしてできたのがこの子なのだ。
私が離縁され、ひとりでこの子を産んだ後に父親代わりになってくれたのはヴェルサーチだった。
私たちは3人で手をつないで、夕暮れの街を、王宮へ向けて歩いた。




