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積み荷のない船

作者: 橋本ちかげ
掲載日:2026/03/22

 旅先のホテルで見た、あの貨物船。

 あれにはもう、積み荷はない、と言う。


 僕はでも、その小さな船が出航するのを今夜、見た。


 その夜に、

 その夜だけ、

 そっと港を出ていく、錆びだらけの船。波止場の光に、防腐塗料の剥げた姿がほんのり赤らんでいる。


 黒々してふてぶてしくさざめく、沖間の浪があやすように洗うのは。


 その夜の、

 その夜だけの、

 まるで夢の中のような船出の姿。


 本当は夢なんだろう。

 やっぱり夢だったのかも知れない。


 人知れず、闇にぽつりと明かりを灯して、どこへと知れず港を出る、積み荷のない船。


 あれは沈んでいくのだろう。

 もう、荷を運ぶことはないから。

 もう、毎日の、その役目が終わったから。

 毎日何気なく見かけたその船が、消えゆく姿を見送るものは、もういない。

 でもほんの偶然、ホテルの窓を開けた僕だけがそれを、そっと見守ることが出来たのだろう。

 他の誰も見ることはなかった場面。

 他の誰も見ようとしなかった場面。

 でもそれも、物語なのだ。

 今は僕だけがそれを知っている。


 小さな夜の寓話。

 小さな夜の物語。


 いつか、小さな子に話そう。


 誰かまた、あの積み荷のない船を見かけることがあるように。


 自分だけが見ていた、

 自分は知っていた、

 そんな物語が誰かに向かって語られることのあるように。


 いつかその日まで。



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《またねの話》
― 新着の感想 ―
お久しぶりの橋本さんの文章!!! 暗い闇の中の海に浮かぶ、船が見えるようです。 うねる波や無骨な鉄の塊。 そして灯る小さな光。 どこかで見たような、どこかで知っていたようなその情景の表現が本当にさ…
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