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胸の穴

ファンタジー色の濃い内容となっていますが、そこまでマニアックな設定ではないと思います。とある森からマンドレイクがチョメチョメの相手を探して旅に出るお話です。

魔物視点の表現は最初だけですが、慣れです、慣れてください。

気軽に読める短編続き物です、それなりに面白おかしく楽しんで頂けたらと思います。

上は暖かく、時に冷たく、時に乾き、たまに潤い、我は揺れる。

世界と繋がるものは我が根と上に伸びるわずかな体のみ。

体が満たされると我は咲き、実を宿す。

それが目的、ただそのためだけに我はある。

しかしごくまれに我へ触れようとするものがあり、わが身と根に触れ、世界とのつながりを引き裂こうとするので、その度に我は叫んだ。

地の底から響き渡るおぞましき狂気の悲鳴。

「しまった!こいつだけ…」

「岩場を背にして!他より根が張ってるんだ!」

「離れろ!に…げ」

この植物はマンドラゴラとも呼ばれる魔力すら宿した薬草で、人の形を持つ種は高い効能を持つが、採集の際に根を引き千切られた痛みからか、周囲の生き物を狂わせ、命すら奪う壮絶な悲鳴を上げる。

この一株はたまたま広く根を張れる環境にあったので、他の同類が引き抜かれていく中で、偶然、たまたま、腐敗した死体からの栄養もあって、かなりの年月を過ごすことが出来ていた。

しかし、岩場を背にして世界の半分はさえぎられ、近くにあった同類は残らず採集されてしまい、せっかく花を咲かせても、めしべをチョメチョメするおしべとの邂逅を、手助けしてくれる虫もほとんど寄ってこない。

するといつまで経っても成熟出来ず、自らの足で新たな生息地を目指すこともかなわず、このままでは矮小な根茎のままで枯れ果ててしまうだろう、それだけは避けなければならない。

根にため込んだ魔力を伸ばすにも限界があり、足元から得られるわずかな養分だけでは、次に花を咲かせることすら難しい…。


見上げる頭上、周囲に生い茂る奴らは、小さき我から暖かな光さえ奪おうとしていた。

日陰で深い絶望に覆われる、そんな時だ。

わずかに振動を感じた。

不規則なそれは背にした岩場から伝わり、次の瞬間、我の目前に大きな影が落ちてきた。

これは見覚えがある、時折我を引き抜きに来ていた二本足の類だ。

「や、やっと見つけた…どくろの森の…マンドレイク…」

我に伸びる触手、そしてやわな力で引き抜こうとするので、反射的にそれなりの悲鳴を上げたが、二本足はそれを耳にする前に動かなくなった。

息絶えたかな?追加で叫ぶか?

動きはない…、よし、久しぶりの肥料をゲット!このまま放っておけば、いずれ腐って良い養分となるだろう。

うーん、…だが、待てよ?このままではまた長い間ムダに花を咲かせ続けることになってしまうぞ。

やはり他の同類との交配は欠かせない、我だけでチョメチョメしてもまともに根を張る子孫を残す事は出来なかったのだ。

ここは場所が悪すぎる!魔力を高めるのだ!集中しろ!目の前に倒れた二本足を利用して、我を快適な環境へと植え替えさせるのだ!

我の声で操れないかな!?…おい!おきろおおお!

…うーん、しかし二本足は動かない、さすがに声で死体を操るのは無理かな、魔力でどうにかできるのは根を伸ばせる範囲まで、物理的にこいつを操作するだけの力が細い根にあるわけが…。

水音?

そこで気が付いた、この二本足、胸の真ん中に裂け目がある!そこから汁も漏れ出ているぞ!これは僥倖!何としてでも根を伸ばせ!あの裂け目から二本足に寄生するのだ!魔力で内側から操ればどうにかなるだろ!やれる!きっとやれる!

ああもどかしい!早く動けよ根っこ!二本足が腐ってしまうだろう!魔力をもっと高めるのだああああ!

動け動け!動けよおお!


それから数日後…。


二本足の胸に、我は咲いた。

かなりの魔力を移動に費やしてしまったが、裂け目を塞ぎ、二本足の体内に根を伸ばして定着する。

よしよし、頭は狂って目覚めることもないが、まだ生きているようだな。

わずかに伸ばした根からさらに魔力を注ぎ、二本足の全身を支配するのだ!

急げ!二本足も移動するためには体力が必要だ、のんびりと風に揺られている時間は無いぞ!?

しかしどうやって動かせばいいか分からん!

なにこれ?この体、めしべだけでおしべが無いぞ?なんと奇妙な!

どこから動かすんだろこれ、二本足は動いてるのに、おかしいな…、これで移動するのは難しいぞ!

くそ!上についてる触手と根っこが邪魔だ!茎も太いしやたら重たいな…。

と思ったら、根茎の中に体を操作する神経の集合体を発見!しかも周囲を見渡す機能を持ち、においや音を感知することもできるようだ!すげえ!

よおし!胸の中心から魔力を振り絞ってええ!立ち上がれ!二本足いいい!


数日前。

主命を受け、町を出てようやくたどり着いた森の入り口。

「え?」

呼び止められて振り返った途端、胸を貫く燃えるような痛み。

「悪いな、俺たちはお前とどくろの森へ入る気はないんだよ」

引き抜かれる刃の後、流れ出る血の量に驚いた。

「あ?え?なんで?」

「マンドレイクの王を採集するなんて不可能だ、あの死骸の山を知りながらよくも名乗り出たもんだよ」

ここまで共に旅してきた仲間は、どうして私を刺したのだろうか、あまりに突然の出来事で混乱し、思わず膝をついてしまう。

「あの方の呪いを解くために…必要なのに…」

「必要ではないんだよ、あの方はもう助からない、助かる必要のない人間だ」

痛みと混乱で仲間の行動を理解できないが、とにかく私はどくろの森で、マンドレイクの王を採集して持ち帰らなくてはならないんだ。

胸の裂け目から流れ出る死への恐怖より、あの方を助けるために私は震える膝で走り出した。

「おい!森へ入っちまうぞ!」

「あの傷だ、長くはない」

「首はどうすんだよ!持ち帰るんだろ!?墓場に近寄るのはごめんだぜ?」

「大丈夫だ、いくらマンドレイクの王と言っても、不用意に近づかなければ危険はない、あいつの首は…飯でも食った後でゆっくり…」


春が芽吹いたばかりの森の中、転々と血の跡が続いていく。

マンドレイクの王ならば、この季節、きっと果実を実らせているはず。

幽鬼のように荒い呼吸を繰り返す影は、心の声を漏らしながら草木をかき分けて進む。

「あの…お方を…助けるために…」

胸に深手を負い、朦朧とする意識の中で、無数の白骨化した遺体の転がる岩場へたどり着く。

この先の開けた草原に、数百年を生きるマンドレイクの王が、今も生息しているはず。

「持ち帰る…か、必ず…」

影は天を仰いだまま岩の上から転げ落ちて、そのまま日が暮れても立ち上がることはなかった。


そして現在。

「まいったなあ、どこにも死体が転がってないぞ…」

「あの傷で遠くに行けるはずもないんだ、血の跡は岩場まで続いているが…」

軽装の旅装束、腰に剣を下げた二つの影は、森に開けた小さな草原、マンドレイクの採集に失敗した者たちの亡骸を眺めて途方に暮れる。

「もう三日だ、諦めて町へ戻ろう、報酬は半分も出ればいいほうだが…」

一人が引き返そうと振り返った時、何の前触れもなく背の高い草むらから飛び出す影は、赤茶色のブーツに色白の脚線美、下着丸出しで逆立ちしたまま、岩場に頭をぶつけながら着地する金髪の旅人。

「なんだこいつ!?」

「まさか生きてやがった!ミミミルルだ!」

二人は素早く剣を抜いたが、ミミミルルと呼んだ女性の様子は普通ではない。

首はあらぬ方向に折れ曲がり、顔面を岩場にこすりつけ、舌は出っ放しで一言も声を発さず、逆立ちのままふらふらと大股開き、まるで半端に糸の切れた操り人形だ。

「おいこれ、アンデッド化でもしたのか!?」

「どうだろうな、死体にしては血色がいい、大股開いて俺たちを誘ってんのかもな?」

気味悪そうにおパンツ丸出しの逆立ち女をにらみ、ちょっとだけ迷ったが誘いには乗らないと二人は決めた。

「マンドレイクに触れて、気でも狂ったのかもなあ!」

剣を構えた片割れは、近寄るのもためらって火球の呪文詠唱を開始。

もう一人は間に入って詠唱の邪魔をさせない。

「あばよ、お嬢さん」

人間丸ごと包み込む火球を放ち、逆立ち状態で移動もままならない相手を焼き払おうとしたが、危険を察知した逆立ち女は上体を突き出し、破れた胸元から植物の葉と根茎をあらわにする。

その瞬間、敵意に向けて放たれる魔力を帯びた衝撃は、射程内にある生命の意識を、狂気の叫びでズタズタに引き裂いて破壊する。

突風のような悲鳴が収まった後、剣はその手を離れ、二人は泡を吹いて崩れ落ちた。

危なかった…せっかく手に入れた移動手段だ、焼かれてたまるか。

忌まわしい炎の気配、敵意に思わず反応したが、マンドレイクは二本足への寄生に成功したものの、その体の操作は困難を極めていた。

おいこれ!どうやったら前に進むんだよ!

これまで土の中からチラ見するだけだったが、こいつらは細い根が生えた根茎を下に、いつも目線の先にあった二本足が上、触手でもって移動するもんだとばかり思っていたが、たった今現れた二本足は根を上にしていた。

そんな馬鹿なことがあるか?根は大地に根付くものだろう?空に向かって陽光を浴びるのが葉だ!葉?そういえば二本足に葉は無いなあ…?不思議だ…。

ミミミルルと呼ばれたおパンツ丸出しの女性は、胸に小さな花と緑を抱き、逆立ちのまま這いずるように自らの血の跡をたどる。


数日、昼も夜も同じところをさまよい、やっと森の入り口まで出てきたところで仰向けに倒れ込んでしまう。

おいおいおい!なんてことだ!二本足が動かなくなってしまったぞ!?

飲まず食わずで森を這いずり回り、さすがに逆立ちする体力も尽きていた。

ダメだ、どんなに命令しても動かん!このまま二本足の養分を吸って根付いてしまったら、こんな目立つ所ではすぐに他の奴らから引き抜かれてしまう!

寄生する二本足は瀕死の状態、マンドレイクは動けない。

後は誰かに引き抜かれて最後の断末魔を上げるだけ、何とも虚しい幕切れではある。

こんなことなら岩場でじっとしていればよかった…。

瘦せた土地でどうにか生き抜いて、近寄るものの精神をことごとく破壊し、めしべとおしべはチョメチョメを繰り返し、成熟まであと一歩のところまでこれたのに…。

露わになった胸の葉は萎れ、どくろの森の入り口で迫る足音、マンドレイクは間近に迫る収穫を覚悟していた。


採集の際に、まずは張り巡らせた根を引き千切って根茎を切り離す。

そして素早く根茎の頭を切り落とすのか、紐で結んで獣に引かせるのか…。

根を開き、そこへ無理やり流し込まれる水。

いよいよ終わりかと断末魔の準備を始めたが、何だか体が一気に潤っていくような感じがする。

ぼやけていた周囲の景色が鮮明になっていくような気がした。

これはどういうことだ?

二本足の根茎で把握する景色に、別の小柄な二本足が動き回っている様子が見える。

根で養分を吸収するのではなく、根茎に開いた口へ水を流し込むことで、マンドレイクの寄生した二本足は生気を取り戻していく。

流し込まれる水を飲み込んだ後、気管から吐き出される空気、それが繰り返される呼吸とは気付かなかった。

そして吐き出す空気とともに、呼吸音は言葉に似た声を漏らす。

「か、かは!げほ!」

これはなんだ!養分を直接取り込んでいるのか!

マンドレイクはあらためて二本足、ミミミルルを体内から詳しく調査してみると、神経の詰まった根茎は周囲を見て、音を聞くだけではないらしい。

凄いぞ!食って吐いて声を上げることもできるのか!

そして先ほどから二本足の仲間だろうか、根茎の穴を開閉させ、美味い水分を流し込んでくる奴がいる。

美味い!美味いぞ!もっとよこせ!渇きに萎れた我に力を与えよ!

我が理想とする生息地にたどり着くため!成熟した自らのおしべでめしべをチョメチョメするために!この二本足を支配して旅立つのだあアア!

「あ!目が覚めた!?」

どくろの森と呼ばれる危険な地域の街道沿い、そこに倒れていた美しい旅人は、突然逆立ちで飛び上がって声を上げた。

「うわ!落ち着いてください!危険はありませんよ!」

小さな二本足が飛びついてきたので、触手で一突きに仕留めてやろうと思ったが、バランスを崩して倒れた我はあっさり捕らわれてしまう。

放せえええ!収穫するなあ!ちょっとでも抜いてみろ、叫んでやるからな!?

マンドレイクは二本足の根茎から警告を発するが、血と泥にまみれた女性が放つ金切り声、向こうにしてみればちょっと何を言ってるか分からない。

「森の奥地にはマンドレイクが自生しているそうだ、もしや狂気の悲鳴で精神を壊されたのかも知れないな」

不意に背後から触手ごと縛られ、振り回していた二本の足も拘束され、我は寄生体ごと収穫されてしまった。

もう終わりだ…。

諦めて胸の谷間で萎れていると、寄生体は抱き起され、根茎の穴から水ではない液体を注ぎ込まれる。

「安い回復薬だ、…深い傷は癒せず、わずかに栄養が取れるだけだが、錯乱状態の回復には効果があるはずだ」

街道沿いの木陰で逆さまに吊るされ、我はこれから加工処理されてしまうのか、…無念だ。

と、思ったら急に元気が出てきた、なんだ、我は何を飲まされたのだ!?よしよし、これならどうにか移動ができそうだ!

しかしこの場を離れようにもガチガチに縛られているので、二本足の力を最大に発揮させて脱出を試みるため、根茎の神経へより深く魔力の根を伸ばしてみる。

くくく、自由になれば即座に悲鳴を上げて全てを狂い死にさせてやるぞう!

寄生体の神経中枢に侵入!より高度な体の操作を可能に…す、る?

胸の裂け目に根付いた感覚の目ではなく、より鮮明に、自在な動きを可能にした瞳は、根茎の口へ養分を運ぶ、二体の二本足を詳細にとらえていた。

一人は先ほど水を注いできた小さい二本足。

「ぼくの名前はカート、聞こえてる?」

奴らが発する音は、二本足の中枢神経で意味を持つ言葉として認識できた。

ぼく、名前、カート、聞こえている。

「私は漂泊の商人をやっている、一応は怪しいものではないと思うが、ホイールだ」

漂白、承認、怪しいもの、ホイール。

不思議だ、奴らはこんな音を発して意思の疎通を行っているのか。

寄生体二本足から栄養を摂取しつつ、我は情報の整理と確認を行ってみる。

「もしも違っていたら申し訳ないが、その鎧と紋章、腰の剣、この地を統治する領軍の方ではないか?」

情報多過ぎる、もっとやさしく問え!

この二本足については何とも言えん、分からん。

「まだ錯乱状態なんだよ」

うむ、小さい方、よく言った、そういうことにしておけ。

しかし大きい方、ホイールを名乗る奴はしつこい。

「あなたは以前に領都で見かけた事がある、兵団を率いて先頭に立っていなかっただろうか?」

知らん。

「あなたに救われた辺境の民は多い、どうしてこんな森の入り口で…」

ゆっくり話せえ!神経伝達が早すぎだ!慣れるまで待て!

するとホイールのせいでおとなしかったカートまで、興奮の面持ちで声を上げ始める。

「ああ!ひょっとして!ミミミルル!?残念将軍ミミミルルさまだあ!」

褒めてるのか、けなしてるのか?

ほんの少しだけ、マンドレイクは二本足の素性や小さな世界の形を理解できたような、できないような…。

養分を運ぶ大小二人の二本足、我が寄生体の名はミミミルル。

とりあえずこれだけ理解できれば上々だろう。

ようやく落ち着いて頭上の澄み切った空を眺め、漂う雲が水を含んで行き交うさまを見上げ、胸の小さな花はそよ風に揺れる。

さて、これからどうしようか、とりあえずこの二本足に我を収穫する気はないようだ、命拾いしたな。

せいぜい我に養分を運ぶがいい、しばらくは生かしておいて…。

二つの影としか見ていなかった異形の存在、二本足の輪郭とその根茎が持つ独特の形を、マンドレイクは認識しかけていた。

複雑な二本足を理解するのは難しそうだが、いま、小さい方、二本足のカートが、大きい方の二本足、ホイールに向かって、その背に突き立つ無数の矢を、根茎を貫かれて倒れる体を、必死に支える様子が見て取れた。

一体何をしている、ホイールは倒れたのか、あれで致命傷か。

何が現れたのだろう?

マンドレイクは二本足の目で、街道に現れ、立ち塞がる鎧の群れを見た。

ホイールは小さなカートとミミミルルを守って全ての矢を受けた。

現れたのは領都の旗を掲げた騎馬の一団、前衛は強固な鎧で身を固め、後方には徒歩で弓を構えた兵が居並ぶ、その数は百を下らない。

なぜ、二本足は同じ仲間の二本足を撃つのだろうか、…分からない。

種が異なるのだろうか、確かに、カートのように我へ養分を運ぶこともなく、その根茎から貴重な水を流して、崩れたホイールにすがる姿とは、似ても似つかぬその輪郭形状…。

鎧の一団をかき分けて、見るも鮮やかな装飾で進み出る鎧の二本足は、我に向けて何やら音を発する。

「おお、まだ生きているとは驚きだ、無能の将軍、ミミミルル!マンドレイクの果実はどうした?領主の命は風前の灯火だぞ?」

鎧の一団はガチャガチャうるさい、耳障りだ。

それに何を言っているのか少しも理解できない。

「どうした?なんて顔をしている?もしやマンドレイクの悲鳴で精神をやられたのか?哀れな奴め!」

ま、我を採集するつもりはなさそうだが。

「この地は王都が所有する、逆らうなら領主であれ、将軍であれ、処分は避けられない、どのような形であってもな?」

残念、そこで我に養分を運ぶ片割れの命は尽きた。

「お前もここで倒れて行け、目撃者もろともにな」

鎧の二本足はくるりと向きを変え、背後の一団へ弓を構えさせる。

「射殺せ」

なるほど、ああやって二本足を操るのだな、すると触手の役目はこれか!

マンドレイクは鎧の二本足から移動のイメージを観察、体全体を使ったさらに高度な操作を会得する。

赤く染まったホイールの亡骸にすがり、その名を叫び続けるカートを睨み、二本足ミミミルルは上体を縛る縄を引き千切って抱き寄せる。

「き……す…」

カート、貴様はもう少し生かしておいてやろう。

触手の先から小柄な二本足の根茎、左右の聴覚へ魔力を込めて栓をする。

そしてゆらゆらと立ち上がったミミミルル、その乱れ髪、色白の肌は元の色艶さえ黒く泥にまみれ、首は異様に傾き、緑の瞳は焦点も合わずにいた。

「やれやれ、完全に壊れてるな…」

一団から一斉に矢が放たれようとした時、ミミミルルの胸に咲く、小さな紫の花の下で、不気味な根茎がその声帯を震わせる。

森の入り口、街道一帯、起伏の続く緑の原野を震わせ、四方を貫く狂気の絶叫。

「ああああ!これはああ!マンドレイクか!?」

鎧の騎馬隊、鎧の歩兵、後方の荷駄隊を含めた百名近くの兵団が、壮絶な悲鳴の嵐に包まれ、精神を引き裂かれたほとんどの者が即死した。

空も震えた衝撃の中、鎧の一団は壊滅したが、ミミミルルの真横にいたカートも無事では済まなかった。

「あひゃあああ…あふおふぁふぁふぁ…」

「あー…」

彼は立っていることも出来ずミミズのように地面をはい回っている。

これは失敗、あの程度の耳栓では守れなかったか、まあこれくらいで死ぬことはないだろう。

マンドレイクは確信していた、魔力で耳栓もしていたのだ、あれくらいの悲鳴で死ぬわけがない。

鎧の一団でも一人だけ、派手な装飾の将だけは辛うじて意識を保っている。

「一体なぜ、ミミミルルから…悪魔の悲鳴が…」

なるほど、あの鎧兜か、面倒くさいなあ。

では、試しにこの二本足、ミミミルルと呼ばれる者の身体を操ってみようかな。

泥だらけの衣服は擦り切れ、傷だらけの肌は隠すべきところを丸出しにしていたが、腰の剣だけは気品ある輝きを失っていない。

さて、抜いてみようか、二本足の記憶を頼りに。

触手の右で柄を握り、二本の足で大地を噛んで、マンドレイクは鏡のように美しい刃を引き抜いた。

足腰フラフラな鎧の将は、空色の剣を引っさげて迫るミミミルルに恐怖した。

「ままま、待て!しばらく待て!お前は領主の部下だろう?王都の騎士団、我々に剣を向けるのか?お前は不殺の騎士だろう!誰も殺せない、討伐対象と勝手に和睦してくるくらいに!平和を愛する、平和主義の将校だ!」

なんか言ってるが、まあ試しに斬らせろや。

鎧ごと真横に胴を一閃、わあ、すごい気持ちいい。

剣は鎧を難なく切り裂いて真っ赤なしぶきが飛ぶ。

「ぎゃあああ!やめろ!お前は助けてやる!助けてやるからああ!」

うるさいな…。

そこでマンドレイクはかつて目にした採集の光景を思い出す。

恐るべき手練れの農民は得意げに語っていたな。

マンドレイクは採集の際、命すら落としかねない危険な植物だ。

離れて紐で引っ張るのもいいが、面倒だ!引き抜いて叫ぶ瞬間…その根茎、悲鳴を発する声帯を切り飛ばしてしまえばいい。

「よせえええ!」

「黙れ、二本足…」

空を映す鏡の剣は、敵の根茎、声を発する声帯から上を、兜もろともに斬り飛ばした。

街道に落ちる肉片、鎧の崩れる鈍い音。

剣はその刀身に血と空の青を乗せた後、風に吹かれる金色髪と、その胸に咲く、小さな花を映していた。

平和を愛する美しき騎士の身体を借りて、王と呼ばれた魔草、マンドレイクの旅が始まる。

短い内容ですがどこか刺さってもらえたら幸いです。次作ではカートとマンドレイク、ミミミルルが微妙な関係で戸惑いつつ、死んだホイールの残した仕事を引き継いで近くの町へ襲来します。

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