第7話 "元英雄" "暗鬼" "森屠"
最強と言われる神、ギゼウス。
その力には魔族、人間、他の神々すらも膝をつくのみだった。
数千年後、自身が邪神、暴神と言われる世界に転生をした最強神は、生きとし生けるものすべてに復讐を誓う物語。
「尾けらていますわね」
「はい、セナお嬢様。ですが……殺気がない……?」
領主の城に向かう途中、ギゼウスたち3人は何者かにつけられていた。
だが、リズの言う通り殺気は――1人を除いて――ない。
しかし我らを囲むように移動している。
ということは……
「護衛……ですわね。先ほど私が領主の城までの護衛を断りましたが、ばれないように護衛しているのでしょう」
殺気を――わずかにだが――だしている奴はギゼウス達から見て一番遠くにいる。
その者の殺気にはセリアーナとリズは気づいていないのだろう。
であれば、我はその殺気に気づかぬふりをした方が無用な混乱を招かぬであろう。
「我らが気づいている時点で意味がないがな。まあ護衛というより監視であろう、セリアーナの動きを監視するための」
小さなため息をつきながら、すこしだけギゼウスを睨む。
「ギゼウス?もしこの会話が聞かれていればその発言はあまりよくありませんよ。監視だと分かっているのなら言葉にも気を付けてくださいね」
「安心しろ。聞かれていたとすればそのものの記憶を改ざんするか、この都市ごと消滅させてやる。それでよいであろう?」
ギゼウスの言葉にセリアーナとリズは飽きれたように今度は大きなため息をつく。
「ギ、ギゼウスさんはなんというか……いや、もういいです」
金色の髪を揺らしながらリズはただ呆れたように空を見上げる。
「リズ。今度時間あるときにギゼウスに常識を教えてあげて」
えぇと言いながらリズはしぶしぶ返事をし、その後は他愛もない話をして城まで向かった。
***
「よくぞ、お越しくださいました。我々ザリンティア帝国はあなたの到着を心よりお待ちしておりました」
城の前――城門――に着くと、豪華な装飾に身を包んだ初老の――50~60代ぐらいの――男性と多くの召使と兵士を連れてギゼウス達は出迎えられた。
おそらく護衛、いや監視部隊から情報が伝達されていたのであろう。
なかなか良い連携を取れている。
「お出迎えありがとうございます、グレナイル卿。ですが、公には――すなわち民衆には――伝えていないはず。ですので、あまり盛大なお出迎えは無用です」
総勢200人を超えるであろう兵士と召使を引き連れた相手に向かってかなり強くセリアーナは話す。
それだけセリアーナは身分が高く、いわば非公式ながら国賓のような扱いなのであろう。
「いえいえ、これでもかなりご挨拶のための人数を絞らせていただいておりますればご容赦いただきたく。ささ、まずは旅の疲れもあるでしょうし、今日から数日はこの城をお使いくださいませ。学院の入学の日までには学院内にお部屋を用意いたします」
グレナイル卿とよばれた男性は城の方を向くと、それまで後ろに並んでいた兵士と召使が道の真ん中を開ける。
よく訓練されている証拠である。
「ええ、でははいらせていただきます。リズ、ギゼウス行きますわよ」
はいっ!といつもよりは礼儀正しくただ、ワクワクを抑えきれないような返事がリズから聞こえる。
「なあ、セリアーナよ。我はすこし出かけてくる。なにかあったら我の名を念じればすぐに駆け付ける」
「ギ、ギゼウスさん!?」
リズの動揺とともにグレナイル卿の後ろにいる召使も驚いた様子を見せる。
たしかに、これから敵国ではないとはいえ自国ではない国の領地、しかもその城に入るのだ。
現状、セリアーナにはギゼウスとリズしか配下がいないのに、そのギゼウスがセリアーナの元を離れるというのは少々ばかげている。
しかし、ギゼウスとしては問題がなかった。
名前を念じられれば、それを感じ転移できるし最悪何かあっても生き返らせるか時を変えればいい。
ギゼウスにとってはそれだけなのだ。
「ま、まあ、いいでしょう。ただできるだけ早く戻ってきてくださいね」
さすがセリアーナ。
懐が広い。
ギゼウスは、セリアーナの決めたことならやむなしと諦めたリズと、そのセリアーナがグレナイル卿に連れられ入城する背中を見送った。
「では、さっさと終わらせてしまおう」
そう呟くと同時に、ギゼウスはある人の元に転移した。
――――――――――
禁足地(黒死龍がギゼウスによって消滅させられた場所近く)
「上手くいきましたね」
短髪の――かつ、色白で長身――エルフはにやりと笑う。
「ああ、こちらとしても無駄な戦闘は避けたかったゆえな。協力して我々が2方向から帝国の諜報部隊に近付いてくると思わせることによって退却させる、見事な作戦でしたね」
筋肉質の――すこし肌はやけている――人間は胸をなでおろす。
「我々ガルデリア森林国としては助かりましたが、ジュスレイ王国としてはいいのですか?先ほどの行動は人間種を第一と考える貴国としては帝国をだますようなことになると思いますが」
「人間種を第一に考えてはいるが、エルフの貴国とも帝国誕生前より付き合いがある。無用な戦争を起こせば我々にも影響が出る可能性があるのだ。そうならないためには先ほどの行動が最善であったと私は考える」
「そうですか。まあ我々としても、さすがに帝国の諜報機関"月光”、しかも第2部隊隊長の"暗鬼"と殺り合いたくはなかったですからね。我々"森影"も無用な争いによって被害を出したくはないので」
その言葉に、人間は苦笑いがでてしまう。
「この森林内では"森影"に叶う者なんて一握りしかいないでしょう」
今度は逆にエルフの方が苦笑いをする。
「その一握りが、私の目の前にいるのですがね。そしてもしかすると"暗鬼"も」
「まあ、お褒めの言葉として受け取っておきましょう。そんなことより、我々もこの現状――黒死龍が本当に消滅し、その周囲はかすかな魔力とともに更地になった――という事実をお互いの国に戻り伝えるのが先決でしょう」
「まったくその通りですね。我々は帝国の侵略に備えなければなりませんからね。貴国も我々エルフの国に援助いただければ助かりますよ」
「あぁ、帰国した後に上へ進言しておきますよ。ではまたどこかで会いましょう。がルデリア森林国諜報部隊”森影”副隊長、"森屠"殿」
「あなた一人でも参戦いただければ違うのですがね。こちらこそまたどこかでお会いしましょう、ジュスレイ王国の"元英雄"殿」
一瞬目を合わせたのち、二人は部下を連れて各々の国に引き上げていった。
執筆頑張る
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