第6話 最強の元神、雇われる
最強と言われる神、ギゼウス。
その力には魔族、人間、他の神々すらも膝をつくのみだった。
数千年後、自身が邪神、暴神と言われる世界に転生をした最強神は、生きとし生けるものすべてに復讐を誓う物語。
「いやいや、なかなかどうしてすばらしい都市ではないか」
セリアーナとリズとともに帝国第2の都市ルブス・テルミニーに入ったギゼウスは感動していた。
転生前よりはるかに人間の建築技術は発展している。
レンガの家や、重厚なつくりの家。
そしてなにより丘の下にある大きな建物――それも複数個ある――と丘の上の城はすばらしい。
下級の神々の神殿にはまさる造りをしている。
「ではセリアーナとリズよ。お主らのおかげでルブス・テルミニーに入る事ができた、礼を言おう。そしてお主らとの短い旅もここまでだな」
ギゼウスはセリアーナとリズに短い別れの挨拶を言い終わると街の方に歩き出す。
だが……
「ま、まってください!」
セリアーナの声がギゼウスを引き留める。
「なんだ?」「セナお嬢様!?」
振り返りながら発したギゼウスの言葉と驚いたリズの言葉が重なる。
「ギゼウス様。ぜひ私とともに行動していただけないでしょうか?」
「ほう。なぜ我がお主らと行動せねばならぬ」
「私とリズはある国からやってまいりました。そしてその道中護衛が全て魔物にやられてしまい、いま私にはリズしか頼れる人がおりません」
リズは驚きと悲しみと、主人に認められた喜びかほんのすこしだけうれしそうな顔で涙を浮かべている。
「なるほど。だが我もお主らと出会ってたった数時間であろう。信じるにはまだはやいとおもうが?」
「そうですね。それはギゼウス様の仰る通りだと思います。ですので私に雇われるといった形で私共とご一緒に行動いただけないでしょうか」
ギゼウスは人生、いや神生を含めても雇われた経験などない。
当たり前だ。
最強の存在を雇おうとする存在などいない。
「我を雇うか。それはおもしろい!だが、セリアーナよ。お主はある程度身分がある人間であろう。帝国に願えば兵士などつけてくれるのではないか?」
「それではだめなのです!!」
叫び声が街中に響き渡る。
城門からすこし離れたところとはいえ、帝国兵士が聞いている可能性もあるのでそのような発言はよくない。
もちろんセリアーナもそれにすぐ気づき、周りにすこし会釈をしたあとギゼウスとリズを連れて小道へと移動する。
「大変申し訳ございません。すこし取り乱してしまいました。ですが、帝国と私の産まれ故郷は別の国。すなわち帝国兵士を護衛に着けるということは人質になっていると同じことなのです」
なるほど。
セリアーナの言うことも一理ある。
「それで我を対価として我を護衛に雇うということか」
「はい、そうです。そしてギゼウス様は遠方から来られたご様子。私共とご一緒いただければ衣食住は保障されます」
この条件であればギゼウスには断る理由がない。
そして魔王や勇者の情報は国の高位の者であればあるほど情報を握っている可能性が高い。
「よし、その条件飲もう。ではこれより我のことをギゼウス様ではなくギゼウスと呼ぶがいい。雇い主が雇われているものを"様"というのは不自然故な。リズもそれでいいか?」
「は、はい!セナお嬢様のお決めになったことに反対はありません!ですが...」
口ごもったリズをみてセリアーナは微笑む。
「なにリズ?」
「はい……。その、ギゼウスさま……いやギゼウスさん?の口調は……」
口調?
我の言葉はなにかおかしかったであろうか?
「ま……まあ、リズ。それに関してはおいおいね」
「そ、そうですね」
たまにセリアーナとリズはこのような苦笑いをするがその理由はギゼウスにはわからない。
まあ気にすることもないかと思い、セリアーナとリズをみていると、
「あ、ギゼウス。1つ言い忘れていたことと、今からしてもらいたい事があります。いいですか?」
セリアーナは、先ほどとはすこし口調が違う。
まあ高位の身分であろうからこれが素なのであろう。
「うむ。なんだ」
「私は、この街にある帝国学院に通う手はずとなっております。そしてもちろんリズも。そこにギゼウスも一緒に通えればと考えたのですが……そのためには入試を突破してもらう必要がありまして」
「帝国学院……?帝国学院とはなんなのだ?」
転生前にはこのザリンティア帝国という国自体なかった。
なのでギゼウスが知るはずもない。
ただセリアーナは反対に、それもしらないのかというような呆れたため息をつく。
「ではまずは帝国について簡単にお話します。帝国は200年前に建国された国で、周辺国家に比べて新しい国です。ですが歴代皇帝のカリスマと徹底的な実力主義によって領地を拡大し軍を増強している国です」
建国からたった200年しかたっておらぬのにこのように都市が発展したということか。
その皇帝とやらはよほど優秀なのであろう。
セリアーナは話を続ける。
「そしてその実力主義を支えているのが帝国学院です。国内から優秀な――具体的には試験を突破した――14~16歳の子たちが入学できます。皇帝以外はこの帝国学院で優秀な成績を収めた人が、騎士団長や魔法師団長、文官の大臣になると聞いております」
なるほど。
才に秀でたものが上に立つのはよい制度だ。
だがしかし実力主義であるなら皇帝も実力主義で決めるべきであろう。
「あ、あのセナお嬢様!一つ質問いいですか?実力主義で決めるなら皇帝も実力主義で決めないのでしょうか?」
おお、リズよ。
我の気になっていたことを聞いてくれるとはよくできたものだ。
「皇帝は世襲制だと聞いているわ。理由としては単純。知略もそして力も歴代皇帝はずば抜けていると噂よ」
「そうなんですね!ですがあの屈強な帝国軍をまとめる皇帝ってすごいお強いんでしょうね……」
すこしの沈黙をギゼウスが破る。
「セリアーナの話は理解した。我はその試験とやらを突破すればいいのだな。で、その試験とやらはいつだ?」
「本当は既に行われているらしいのですが、今から私はこの都市の領主や帝国の権力者に挨拶に行きます。その際にお願いしてみましょう。ですので、ギゼウスも城に登るのをご同行お願いしますね。もちろんリズも」
金髪の髪をゆらしながら元気に「はい!」と返事をし、3人は薄暗い小道から大通りに出た。
数人の追跡者を連れて。
――――――――――
禁足地(黒死龍がギゼウスによって消滅させられた場所近く)
「な、なんなんだこれは……」
帝国諜報機関”月光”第2部隊隊長、ミロ・ミレ二ムズはその場に立ち尽くした。
龍が眠るといわれていた禁足地がゆえにこの場所には初めて来た。
黒死龍が消滅したと上からの命令があり緊急連絡でここに来てみたが、正直あの黒死龍が消滅するはずはないとおもっていた。
この状況を見るまでは。
木がないのだ。
森林であるはずのこの場所に木、いや草すらもない。
更地というのかもはや砂漠というのか。
砂しか存在しない。
だが――わずかに魔力の残りを感じる。
感じたこともない残り香であるはずなのに強大な魔力が2つ。
可能性としては1つが黒死龍。
そして1つは黒死龍を消滅させた存在。
もし本当に何者かが黒死龍を消滅させたのなら、我々帝国軍総力で当たっても厳しい……いや勝てないだろう。
王国の英雄すらもおそらく勝てない。
まずは上に報告が先決だ。
ミレ二ムズは立ち尽くしていた体に力を入れて来た道を戻ろうと振り返りながら、第二位魔法の伝達魔法を用いて隊員に連絡する。
「総員、急ぎルブス・テルミニーまで戻る!もし途中でなにかに遭遇しても気にせず走れ!ここで見た情報を持ち帰ることだけを考えろ!」
ミレ二ムズも部下に伝達すると走り出す。
情報をすぐに帝国に持ち帰るためだけではない。
何者かが――おそらくどこかの国の諜報部隊であろうが――接近していることに気がついたからだ。
それも一方向からではなく二方向から。
可能性としては黒死龍の消滅に気が付いたジュスレイ王国とがルデリア森林国の可能性が高いが別の国の可能性もある。
もし戦闘となった場合ここで全滅するほうがまずい。
ミレ二ムズ自身、諜報と暗殺には自信があるが正面切ってだと分が悪い。
はぁとため息を小さく着いた後、ミレ二ムズは魔法の詠唱を始める。
自分に移動速度を向上と移動の際の音を消し去る魔法をかけた後、ミレ二ムズは禁足地から消えていった。
執筆頑張る




