第3話 手加減とは…(?)
最強と言われる神、ギゼウス。
その力には魔族、人間、他の神々すらも膝をつくのみだった。
数千年後、自身が邪神、暴神と言われる世界に転生をした最強神は、生きとし生けるものすべてに復讐を誓う物語。
自身を龍と名乗った生物を蹴散らしたギゼウスは近くの人間の町まで転移していた。
「ほう。なるほど、なかなかどうして、悪くない城壁だな」
なかなかいい。
我がいた時代よりもはるかに建築の技術が上がっているのだろう。
何がいいといえばただ一つ。
この大きさだ。
人間の町よりすこし離れたところに転移したがそれでも城壁が見て取れる。
そして横の長さだけでなく高さも素晴らしい。
ざっと...人間の高さ基準だと30人分以上あるのではないか。
「しっかりと人間は発展したようだ。種を存続してやったかいがある」
神話の時代、ギゼウスは人間と魔族のどちらにも力を貸した。
どちらの雑兵も数十万と殺した。
ただギゼウスからすればそれでも慈悲を与えてやったのだ。
ギセウスが本気になれば一撃で魔族も人間もすべていや、魔王と勇者以外消滅させることができた。
そうしなかった理由の1つは人間に期待していたということがある。
魔族にはない繊細な装飾品や技術への探求心。
強さだけだ正義ではないと思う人間に期待して種を存続してやったのだ。
「まあ、城壁の見物はまたあとで行おう。ただ、この城壁内にどうはいればいい?」
もちろんギセウスにとってこの城壁内に転移することなど造作もない。
だが、今後の情報収集などなにかと勝手に侵入しては不都合が起きてしまうこともあると考えられる。
力によってすべてを解決してきたギセウスにとってこのような小細工は苦手であった。
「うむ。すこしなやみどころ....ん?魔力反応か。近いな」
ギセウスの魔力探知に反応がある。
なにかと交戦中?
魔力からして、人間と魔物のようだが。
まあ、いいなにかこの城壁に入るための情報がきけるやもしれない。
「転移魔法」
***
黒い毛並みをそろえた大きな犬、いや狐のような魔物に白髪の少女が吹っ飛ばされる。
「セナお嬢様!!」
少女の元に金髪のメイド姿のこれまた少女が近寄り体を抱える。
白髪の少女はもう息をしていない。
「セナお嬢様...。ぜったいに、ぜったいにゆるさない!!」
白髪の少女の亡骸をゆっくりと地面に寝かせると金髪の少女は目を瞑り魔力を集中させる
「こんな化け物、どうしたらいいの...。
私の……私の切り札を食らいなさい!!」
少女の前に少女の顔よりすこし大きい程度の魔法陣が出現する。
それをみた黒い魔物はただなにもせず少女の前に立ちはだかる・
「第三中位魔法!氷結嵐」
少女の魔法陣から数十個の氷柱が魔物襲う。
その時――――
「転移魔法」
男がたった一人、魔物と少女の間に突然現れた。
すべての氷柱がその男に当たりながら。
***
ギゼウスは驚いた。
いや、驚かないほうが難しいだろう。
転移した瞬間、氷の粒が襲ってきたのだから。
もちろん、ギゼウスにはかすり傷一つ付けられないのだが。
「うむ。これはどちらを助ければいい。氷の粒のような魔法はそこにいる少女の魔法か?であれば、この黒いなんだ?犬?のようなやつを助ければいいのか?」
どちらに力を貸してやろうかと考えていると金髪の少女が叫ぶ。
「も、申し訳ありません!で、ですがどうかどうか。助けてください!!その魔物に襲われお嬢様は...」
金髪の少女の視線の先には息絶えた白髪の少女が横たわっている。
「ふむ。なるほど。であれば、そこの魔物とやら。お前の意見を聞こう」
一方だけの意見を聞くのでは平等ではない。
だが....
その魔物は魔力をため魔法陣を展開する。
完璧な敵対行為だ。
「なるほど、魔物は我に歯向かうらしい。喜べ少女よ、我が力を貸してやろう」
「あ、ありがとうございます!ただ、そいつは化け物です。私が時間を稼ぎます。その間にお嬢様のお体をもって城壁の方に走ってください!!」
金髪の少女の目には涙が浮かべながら魔法陣を展開する。
だがギゼウスは一歩も動かない。
「まあ、まて金色の髪をもつ少女。我が力を貸してやると言っているのだ。逃げる必要はない」
ふぇ...?と少女は驚いた顔をする。
「まあ、みていろ」
ギゼウスは魔法陣を展開した魔物の方を向く。
魔物から放たれる魔力に触れてか、周りの木々や花が枯れている。
「おいおい、魔物よ。その魔法を出しては綺麗な城壁に傷がつきそうではないか」
「グォォォォォォォ」
「まあ、いい。我もがんばって手加減をしてるとしよう」
そういうとギセウスは小さな小さな魔法陣を展開する。
指の爪ほどの小さな魔法陣を。
「こい、犬。相手してやろうぞ。炎帝魔法」
「グォォォォォォォ」
魔物から黒い炎が叫び声とともに放たれ、ギセウスからは小さな炎が指先から放たれる。
金髪の少女は思ったであろう。
どう考えても、ギセウスの放った魔法が負けると。
魔物も確信した。
自分の勝ちだと。
ただ、次の瞬間。
一瞬の爆風と熱風の後、
魔物は消滅した。
いや、正しくは魔物が存在した後ろ100メートルほど生物が消滅し、更地となった。
「うむ。悪くない。よい手加減だ」
ギゼウスはさも当たり前のように目の間に広がる更地に背を向けて少女の前に立つ。
「金髪の少女よ。次はその白髪の少女だ」
「へ?」
金髪の少女は事態を全く飲み込めていないらしい。
「その白髪の少女も生き返らせてほしいのだろう?お前からはそのように感じる」
「は....い....」
「いいぞ。ただ、この後一つ教えてほしいことがある。いいな?」
「は....い....?」
「よし。契約成立だ。神蘇生魔法」
ギゼウスが魔法を展開し終わると、白髪の少女の傷がふさがる。
いや、それどころか全体に血がめぐりだしているのがわかる。
少女はこれまで見たことも聞いたこともない魔法に驚きながら、だが確実に息を吹き返した自分の主人に抱き着く。
死んだはずの主人から、人の温もりを感じる。
「あと5分もすれば目を覚ますだろう。安静にしておけ。」
「あ、ありがとうございます。ただあなたはいったい...?」
金髪の少女はギゼウスを見上げる。
「我か...?我の名は...」
ギゼウスは大きく息を吸い、その後自分の名を名乗った。
「我の名はギゼウス。この世界に復讐に来た、最強である」
一発芸が滑った時のような空気が、ただひたすらに流れた。
執筆頑張る