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91話

「あ、全てを詳しく聞くのはおすすめしないよ?特にルネさんの所業はね。アヤトキも青白い顔をしていたから」

「俺の事まで話す必要はないだろう…」

 あはは、となんてことないように話すシライトは、慣れているのか、本人の性質か、問題なかったようだが、反応を見るにアヤトキが話を聞いて気分が悪くなったのは事実のようだ。

「ルネは人間全てを実験動物としか見ていませんからね。大方、新たな毒でも試したかったんでしょう」

「おや、人聞きの悪い。人を人とも思っていないのは貴方も同様でしょうに」

「私はロイドという例外がいるので違います」

「ずるいなぁ、それなら私もロイドには酷いことはしませんから違いますよ?」

「あの…、ルネがどういう性格をしているかある程度は理解しているつもりですし、私は大丈夫ですよ?」

「ふふっ、ロイドは良い子ですねぇ」

「ロイド、これの本性を知ったらそんな事言えませんよ。知らない方が身のためです」

「貴方が言います?それ」

 三人のそんな軽快ながら毒を含んだ会話にシライトは笑い、アヤトキは溜息をついた。

「兎に角、此処から先は僕達に任せてください。花街に住むものとして、諸悪の根源は根こそぎ排除しますから」

「私も、自分の甘さを痛感しました。気持ちを新たに、今回の件、責任を持って治安改善に努めます」

「僕は君の甘さ、嫌いじゃないんだけれどね」

「やめろ…」

 そんな小さな悪ふざけを挟みながらも、二人は真面目な顔で三人に向き直り、頭を下げる。

「さて、僕達は一度戻ろうか。夜を彩る大輪がいなければ、花街の夜が寂しすぎるからね」

「あぁ、花街は夜に咲く街だからな」

「それでは、僕達はこの辺で…」

 再度頭を下げ、二人は花街を背負う殿花の顔から、花街を彩る夜の花へと顔を変え、夜の街へと戻っていった。

「それじゃあ、我々も帰りますか」

 ルネがそう言うとアイーザは同意し、ロイドも従った。直ぐに裏の世界へと行くのかとロイドは思ったが、意外にも花街を出てから裏へ戻るという。

「どうしてですか?」

 ロイドが疑問に思い尋ねると、ルネが楽しげに笑う。

「面白いものが見られますから、兎に角行きましょう」

「あれを面白いと言える貴方の感性が理解できません」

「慣れですよ、慣れ。いつもの事でしょう?」

 二人の会話を聞きながら、ロイドは疑問符を浮かべる。最後まで説明される事はなく、三人は表通りへと出てきた。


 其処には赤い提灯が吊らされて石畳の道を照らし、大きな酒楼などの様々な店が軒を連ねている。外には客と客引き、美しい花達がひしめき合い、本来の華やかな花街の姿。

 そんな中、遠くから場違いな男の悲鳴が聞こえてきた。

「ぎゃあぁぁ!やめろー!来るなー!」

「オホホホホ!お待ち!逃さないわよ、アタシのダーリン!」

 ひしめき合っていた人達が二つに割れ、両端に避けると、真ん中には大きな道が出来た。その道を、一人のスーツ姿の花街の客らしき男が、全力で駆け抜けていく。

 立派な髭を生やした一見穏やかそうな40代くらいの男だったが、その形相は恐怖と絶望に青褪め、今日のためにおろしたのであろう、仕立ての良いスリーピーススーツが、よろよろに崩れていた。

 そして、その男を逃すまいと、まるで肉食獣…。もとい、奇抜な化粧をした見知った顔が、三人に気づかぬまま、男の後を追いかけていった。

「マシューコさん!?」

 ロイドは驚いて、マシューコが駆け抜けていった方向を、あんぐりと口を開け、呆然と見つめていた。彼女は黄色いスパンコールが煌めくスリットが入ったタイトなミニドレス。頭には大きな花を模したレースの髪飾り、黄色いエナメルのピンヒールという格好だった。そのあまりに走り難いような服装で、革靴の男にも追いつきそうな速さで走っていた。

「ほら、面白いものが見れたでしょう?」

「私は薄ら寒いものを見た気しかしませんが…」

 三者三様の顔で、花街を駆け抜けていったマシューコの感想を溢す。

 すると、そんな作られた人垣の道を、ゆっくりと、もう一人の人物が歩いて来た。

「あら、アンタ達。奇遇ね」

 そう言って現れたのはジャスコである。普段よりも濃い化粧と、しゃなりしゃなりと歩く圧巻の筋骨隆々な肉体美。真っ白な毛皮を首に巻き、黒い絹でできた長い手袋、真っ赤なロングのタイトドレスに身を包んだその姿は、花街では異様に浮いている。しかし、本人は気にした様子もなく、三人に話しかけてきた。

「マシューコさんが今宵、一暴れしているんじゃないかと思いまして」

「流石ねルネちゃん、予想通りよ。全く…マァちゃんが好きになる男は皆、相手がいるか、ろくでなし男なのよねぇ…」

 今回の男も、きっと碌でも無いわと言葉を洩らした。

 ずっとマシューコを追いかけていたのか、ふぅ…と、頬に手を当て、悩ましげな溜息をつくジャスコ。黒い光沢のある絹に包まれた太く逞しい指が、異様に存在感を放っている。

「ごめんなさいね。じゃあアタシ、マァちゃんを追いかけないといけないから」

 今日はお店はお休みよ、と言ってジャスコはドレスの裾をたくし上げる。そして、膝上まで上げるとジャスコの逞しい脹ら脛が露わになった。真っ赤なピンヒールであるにも関わらず、彼女はマァちゃーん!お待ちなさーい!と先程のマシューコ同様、全速力で走って行ってしまった。





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