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74話

「あの、シライトさん。街の人達は何処へ?」

 ロイドが此処に来た理由を説明し、何故置屋街に誰もいないのか尋ねると、彼は嫌な顔一つせず教えてくれた。

「ここ最近、花街一帯は物騒だからね。彼女と仲の良かった君だから、あの事件の事も知っているだろう?この花街で落花を出してしまった。これ以上の悪化は見過ごせないということで、各置屋で話し合いとなってね…」

 彼曰く、置屋に所属する全ての花と従業員達が招集され一斉にその話し合いがつい今し方まで行われていたのだという。シライトはその話し合いの帰りで、暫くすれば他の者達も戻って来るだろうとのことだった。

「当然、落花や妖関連の事は伏せられてはいるけれど、これは花や花街だけでなく、下手をすると都全体に関わることだからね…」

 警備強化や、花達の肉体、精神的な介護や看護の強化、花街の在り方の改善等が各置屋で議論され、そこで出た案を置屋の女将や代表が殿花や花姫と共に、華夜楼での集まりに持っていく。そこで花街の上層部に所属する者達での話し合いが行なわれ、そこで決まった事が他の花や花街に働く者達全体に伝わるという。

「僕もまた、これから行かないといけないんだ」

「そうなんですね、お疲れ様です。あの…それで…」

「あぁ!カザミジだったね。確かアヤトキのとこの置屋の所属

…だったかな?アヤトキに聞けば分かると思うよ」

 アヤトキとはシライトと共に殿花の位にある男だ。今の花街にいる殿花はシライト、アヤトキ、ウルルギの三人で、それぞれ置屋は違うものの、三人は花街の雄花を取り纏める柱として、何かと手を取り合っているため、ホシアメとカシノヤのように常に共にあるような関係でこそ無いが、仲は良いらしい。

 三人はシライトにアヤトキの家を教えてもらう事になった。シライトによれば、一度シライト同様に家に寄ると言っていたというから、まだ其処に居るかもしれないとのことだ。

 そうしてやって来たのはアヤトキの住まい。黒い瓦屋根の木造平屋の造りで、一人用のためそこまでの広さはないが、庭もついているようで、独り身で生活するには十分な広さがある。

 位の低い花達は基本一つの建物に数人で共同生活をするが、殿花や花姫は個人で住居を持つ事ができる。そのため、シライトもアヤトキ同様の住宅で一人暮らしをしていた。

「アヤトキー、居るかい?」

 シライトが声を掛けると、家の中から人の気配がする。その気配が段々と此方に近付いてきて、がらがらと磨り硝子の引戸を開けて、アヤトキが出てきた。

 アヤトキはシライトとは対照的に、黒を連想させる男だった。癖毛だろうか、波打つ短い射干玉色の髪と白い肌、黒真珠のような怜悧な瞳の美青年で、殿花の位に相応しい端正な容姿と、シライトとは違う華やかさのある男であった。

「シライト?珍しい…な…?」

 これから華夜楼で会うというのに、何事だろうかとアヤトキが外に出てみれば、其処にはシライトだけでなく、番人であるルネとアイーザ、更に見知らぬ金髪の青年が立っている。

 何事かと訝しむアヤトキにシライトが理由を説明した。

「あぁ、カザミジの件か…」

「そう、それでね。彼の居場所を教えてほしいんだ。お二人と…ロイドにね」

「ロイド?」

 アヤトキがまさか…という表情を浮かべ、金髪の青年を見た。その翡翠の瞳には、確かに幼い頃の面影がある。アヅナエに手を引かれていた幼子の…。

「戻ってきていたのか…」

「はい…」

 ロイドが一歩前に出て、二人は顔を見合わせる。シライトと相対した際には無かった張り詰めた空気、僅かな緊張感が二人の間に生まれる。そんな二人の様子を見て、シライトが笑いを漏らした。

「おい…」

「すまない。けれど、君の仏頂面が…あまりにも可笑しくて…」

 堪えきれず、シライトが腹を抱えて笑い出す。

「素直じゃないのは知っているけれど、そんな借りてきた猫のような顔をしなくても…」

 あはは!と大声で笑うシライトに、アヤトキは自身の不器用さが恥ずかしくなったのか、顔を赤くして、笑うな…!と怒る。けれどシライトには柳に風で、全く意に介していない。

 シライトはそんなアヤトキも面白いのか、彼の肩を借りて笑いを抑えようとしているらしいが、全く変化は無い。

「笑い上戸め…」

「ははっ、君にだけだよ」

 そんなシライトをアヤトキは無視して、三人にカザミジが住んでいるという場所を教えてくれた。本当なら案内をしてやりたいが、二人はこれから華夜楼へと向かわなければならないとのことで、途中で別れることになった。


 そうして三人はカザミジが住む長屋へと足を運んだのだが、ロイドが外から声を掛けても返事は無く、カザミジは留守にしていた。

「お留守みたいですねぇ…」

「どうしましょう…。カザミジさんの置屋に行ってみます?」

「そうですね…」

 アイーザが同意しかけたその時、ルネとアイーザは此方を探る視線を感じた。その視線は長屋の奥からのようで、そちらに二人が足を進めると、黒い人影が見えた。様子を窺っている事がバレたと悟った人影が、がたっ!と何かにぶつかったような音を立て逃げ出す。

「アイーザ」

「仕方ありませんね」

 ルネが一声掛けると、アイーザは風に紛れるように姿を消し、影を追う。

「大丈夫ですかね…」

「妖ではないですから、平気ですよ」

 心配するロイドとは反対に、ルネはゆっくりアイーザを追いかけましょうかねぇ…と、のんびりとした口調と足取りで歩き出す。

 人影は妖ではなく、その正体にも予想がついている。そして、それが当たっているなら、アイーザから逃げられるわけがない。どうせ直ぐ捕まるという余裕から、ルネには全く焦りなどないのだ。

 女は小走りで逃げていると、突然一陣の風が吹き抜け、彼女を追い越していった。そう感じた途端に目の前には一人の男が現れて、女が走っていた道を塞いだ。まさかの事に女は驚き、怯えを隠せなかった。




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