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63話

 翌朝、ロイドはアイーザの腕の中で目が覚めた。ロイドはまるで蓑虫のように布団を巻き付けており、更にアイーザの腕のせいで身動きがとれず雁字搦めになっている。

 何故そんな事になったのか、全ては昨夜のことである───


 二人が寝室に到着して直ぐ、アイーザはロイドをベッドに下ろした。すると、色々な恥ずかしさが積み重なったことで限界を迎えたロイドが羞恥に耐えきれず、ベッドの布団を引っ剥がして包まってしまったのである。

 当然アイーザはロイドに出てこいと言ったのだが、ロイドは聞き入れなかった。アイーザの話は聞きたい。けれど、今はそれどころではない。こんな状態でアイーザの顔を真っ直ぐ見ることなんてできない。ましてや、彼の隣に横たわり、彼の低めの甘い声を聞きながら、アイーザを見つめるなんて、想像するだけで顔から火が出そうだった。

 それから逃れるために考えたロイドの最終手段が布団の中に隠れる事であった。しかし、それは悪手であると気が付いたのは目が覚めてからのことだった。結局のところ、布団の温かさに負けて眠りこけてしまったらしい…。

 駄々をこねる幼子じゃあるまいし…、そう思っても過ぎた時間は巻き戻らない。そういった経緯があり、現在のロイドは布団とアイーザに雁字搦めにされたまま、布団から出ることもできずにいるのだ。そもそもアイーザだって悪い。

 恥ずかしいから布団に包まったロイドの上から、あんなにくっついて、抱きしめて…。

「ロイド?出てこないと、話の続きが出来ませんよ?」

 そんな台詞を白々しく言ってくるのだ。こんな状態では無理だと何度も伝えたのに、それでもアイーザ離してくれなくて。それどころか、もっと甘ったるい、湿り気を帯びた艶やかな声で、ロイド…?と、何度も何度も囁くように呼ぶのだ。ずるい…。

 お陰で布団から出ることなど出来ぬまま、布団の中で眠りこけて朝を迎えてしまったのだから、本当にどうしようもない。更に、アイーザがずっとロイドを抱きしめたまま起きる気配が無いのも問題だった。

 「アイーザ?」

 何度も呼びかけているというのに、アイーザは起きない。一度大声で叫んでみるも、布団の中からでは音が殆ど吸収されて、大した声量にはならなかった。ロイドが呼吸をしやすいように布団に隙間を作ってくれていたので呼吸は問題ないが、いい加減暑くなってきた。身動きできないというのも辛い。だからこそ、ロイドはもぞもぞと布団の中で四苦八苦しているのに、アイーザのせいで全て徒労に終わってしまう。腕の一本、脚の一本すらも自由にならない。

 それでも暑くて、ロイドが暴れに暴れてようやく、布団の中から頭を出す事に成功した。ずっと布団に包まっていたのと、その中で暴れていたためにロイドの頬は上気していた。

「はぁ…」

 布団からようやく顔を出せた事で、一息つくロイド。これだけの事に、これほど体力を使う事になるとは思わなかった。そんなロイドの背後からは、アイーザの穏やかな寝息が聞こえている。更に彼の呼気が汗ばむ項に吹き掛けられて、背筋にぞくぞくとする何かが走った。

「ひっ!?」

 その感触からどうにか逃れたくて、ロイドは再度暴れたがアイーザの力に敵うわけもなく、更に体力を無駄にしただけで終わった。

 ぜぇ…はぁ…と、ベッドの中にロイドの吐息が響き渡る。その顔は怒りと呆れと僅かな絶望が入り混じっていた。アイーザの寝相を甘く見ていた。寝穢いの度が過ぎている。布団の中とはいえ、叫んで暴れているというのに、アイーザはうんともすんとも言わなかった。

 そのためロイドは、これだけはしたくなかったが仕方ないと腹を決め、何とか腕と脚を僅かに動かしてぺしぺしとアイーザの身体を叩いたり、蹴ったりした。状態が状態なので殆ど力は入っていないが、それでも何度も繰り返せば起きるかもしれないと、僅かな希望を込めてロイドは叩き続けて、大声でアイーザの名を呼んだ。


「ん…」

 微かに、声がした。

 それは本当に微かなもので、簡単に空気に溶けてしまうものであったが、確かにそれはアイーザの声で、ロイドの耳にははっきりとそれが届いていた。

「アイーザ!?」

 ようやく目が覚めた!と、ロイドは喜び首と目をなんとか動かし、背後のアイーザを見た。そんなロイドの喜びも束の間であった。アイーザは煩い…。と、静かにぼやき、少し上体を起こしてロイドに覆い被さるように、背後を振り向くロイドの額に口付けを落とした。

「もう少し…寝かせてくださ…い…」

 ぼんやりとした目元、僅かに乱れた髪、寝起きの掠れ声。どれもこれもが無防備で、普段のアイーザからは想像がつかない姿で、更に口付けまでなんて…。ロイドは真っ赤になって固まっている間に、アイーザまた枕に頭を預けて寝入ってしまった。

「ほんっとうに……、そういうところがずるいんですよぉ…」

 起こせない。ロイドにはこのアイーザを起こすことはできない。結局ロイドはそのままアイーザの腕の中で二度寝をして、二人は昼頃に起きてきた。





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