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26話

 途中、ロイドが喉を詰まらせ、アイーザに水の入ったグラスを手渡されたりしながらも、ロイドは見事に山盛りオムライスを完食した。

「ご馳走様でした!本当に美味しかったです!」

 口の周りをケチャップで汚しながら、屈託のない満面の笑みを浮かべたロイドが改めてジャスコとマシューコに頭を下げて御礼を言った。

「お粗末様。元気になったようでよかったわ」

「はい!今までに食べたことがないくらい美味しくて、夢中で食べてしまいました…」

 流石にがっつき過ぎたと少し恥ずかしくなったのか、ロイドはほんのり頬を赤らめ、人差し指で頬を掻く。

「良いのよ。それくらいのほうがアタシ達も嬉しいわ」

「そうよ〜。何処ぞの顔しか取り柄のない双子なんか、鳥の餌程も食べないんだから!本当に食べさせ甲斐がないのよ!?」

「マァちゃん。顔だけとか言わないのよ?この子たちには、性格の悪さと悪知恵だけは働く頭と、図太い神経と腕っぷしの良さ、減らず口ばかり良く回る口っていう取り柄があるわ」

「ママ、それじゃあただの塵屑男(ごみくずおとこ)じゃないの…」

「そうよ?そのうえ図体ばかりデカいし、粗大ゴミの方が、まだ使い道があるわ」

「最悪ね、それ…」

 オカマ二人に好き勝手言われ、流石のルネとアイーザも多少は堪えたかと思ったが、二人の顔は普段通り、ルネは笑みを浮かべ、アイーザは澄ました顔をしていた。

「随分な言われようですねぇ…。少なくとも、あの弟よりは素直で優しい性格をしていると思いますよ?私」

「此の世の生きとし生けるものを、実験動物か何かと勘違いしている貴方には言われたくありませんね」

「えー、そんな酷い男に見えます?ねぇ、ロイド。私はそんな恐ろしい人に見えますか?」

 カウンターで頬杖をつき、優雅に足を組んで座るルネがロイドに飛び火させる。口の周りのケチャップを拭き取っていたロイドは驚いた顔をしてルネを見た。

「アイーザよりは優しいという自負があるんですけど、ロイドはどう思います?」

 普段の胡散臭い笑みではなく、華やいだ笑みを浮かべるルネは、ロイドに返事を迫る。ロイドは一度アイーザを見て、再度ルネを見てから紙ナプキンを置いて、おずおずと口を開いた。


「ルネは優しいです。……けど、その優しさが空っぽ…というか、貼り付けた仮面みたいな…、その、作り物?…みたいに見えるときがあって…。たま~に、ほんの少しだけ…怖いなぁと思うときはあります…」

 僅かにルネから目を逸らすロイドのその答えにアイーザは思わず吹き出した。ジャスコはこの子、二人の事を良く見てるじゃない。と、関心し、マシューコはアイーザ以上に吹き出し、大声で笑いだした。

「オホホホホ!かわいそうねぇ、ルゥちゃん!ぜーんぶ見透かされてるわよ!」

 普段のルネであれば、ここでマシューコに慇懃無礼な言葉を返していることだろう。しかし、その時のルネは何も言わず、取り繕った笑顔の仮面を外したのか、外れてしまったのか、真顔のまま、無言でロイドを見つめていた。

「ルネちゃん、真顔はやめたほうがいいわ。意外とアイちゃんよりも目つきが鋭いから、真顔になると怖がられるわよ」

「美人の怒った顔は怖いっていうものね。当然、美人過ぎて困るアタシ達の怒り顔も、それはそれは怖いのよ〜」

「お二人の顔は普段から恐怖の対象では?」

「なんですって!?ママ!アーちゃんがまた可愛くないこと言ってるわ!」

「聞こえてるわよ。今日の支払いはアイちゃんがするのよ?払わなかったら…その時はどうなるか、わかってるわよね?」

 カウンターで煙草を取り出したジャスコが、カチッとジッポーライターで煙草に火を付ける。ふぅ…と、紫煙を吐き出し、表情は変えぬまま、修羅か羅刹のような圧をアイーザへと向ける。アイーザは一度大きな舌打ちを隠す事なく響かせ、マシューコが電卓の画面を見せに来ると、素直に数枚のお札を渡した。

 その間、ロイドはアイーザに何度も御礼を言い、ルネはまだカウンターで頬杖をつきながら、真顔のままロイドを見ていた。

 


 その後、いつの間にか太陽が天辺から僅かに傾き、三人が店を出ようとした時だった。その頃にはルネは普段の姿を取り戻し、いつも通りの笑みを浮かべた顔をしていた。

 すると突然、キッチンで片付けをしていたジャスコがマシューコを奥に残したまま、一人店へと戻って来て、神妙な面持ちでロイドを見据えてルネとアイーザに尋ねた。

「その子…。ロイちゃんはアンタ達のこと、どこまで知っているのかしら」

「え…?」

 まさかの事にロイドは驚き言葉を詰まらせたが、二人はいつかその質問をされるだろうと予想していたのか、悩んだり思考したりする時間も無く、その問いに答えた。

「ある程度、といったところでしょうか」

「具体的には、我々の仕事と役割、その正体まで、といったところですかね?」

「そう…。じゃあ、この話をしても問題無いわね」

 そう言ってジャスコが話はじめたのは、最近境の街を騒がせているとある噂話であった。

「最近、花街近くの境の街で、不思議な女が出没するらしいのよ」

「女?」

 初耳だというようにアイーザがルネに視線を寄越すと、ルネは自分も知らないというように、ゆっくりと首を横に振った。

「そこそこ綺麗な女らしくてねぇ、花街に来る客を連れ去っては、境の街の何処かで接待してるって話よ」

「成る程、違法営業…ですか…。でもそれ、我々の管轄とは少し違いますけど…」

「花街以外の場所で、そういった行為や店を開くのはご法度だと知らないんでしょうか?」

 ルネが自らの髪を弄りながら含みを込めたような言い方でそう呟く傍ら、ロイドが素直な疑問を溢す。その疑問にジャスコは、その辺は分からないわ。とだけ答えた。

「でもね、この話には続きがあって、その女の接待を受けた男達は皆一様にして、立ち所に彼女の虜になり、果てには彼女のためだと言って姿を消し、もう数人が行方を晦ませているそうなの」

「え…、それ、怖い話とかじゃないですよね…?」

「違うわよロイちゃん。これは多分なんだけど…」

「花…。でしょうね」

 ジャスコの言葉に被せるように、アイーザが自らの予測を結論付けるように話す。

「十中八九、堕ちた花で間違いないかと…。それに何人か姿の見えなくなった者がいるとすれば、確実に人を喰らっていますね」

「女ということは…、雌花の可能性が高いですねぇ。花の種類にもよりますが、ものによっては雄花よりも手が掛かりますよ」

 アイーザは口元に手を当て、視線は横にずらし、何かを思案しているようだった。ルネはまた面倒事が増えたと態とらしい溜息をつき、がっくりと肩を落とす。

「このまま放っておけば更に被害が広がりそうですし、色々と調べなければいけませんねぇ…。あー、面倒くさい…」

「そうなれば真っ先に非難を受けるのは我々です。何が狙いかは不明ですが、早めに駆除してしまえば問題ないでしょう」

「あの…、アイーザ、私は?」

 勝手に話しを進めてしまう二人に、ロイドはその場に置いていかれてしまうような不安を感じ、アイーザの袖を掴む。

「貴方は店に…いえ、私の屋敷に居てください。何かあったら大変ですし、直ぐに終わらせますから」

「わかりました…」

 本当は、ロイドもアイーザに付いて行きたかったが、昨夜のような化け物が現れでもしたら、ロイドは足手纏いにしかならない。そのためロイドは渋々といった表情で、アイーザの言葉に従った。

「それじゃあ、二人とも。後は任せたわよ」

「了解しました」

「あーあ、仕方ないですねぇ…。あ、情報提供、ありがとうございます」

「あの、ジャスコさん。本当にありがとうございます!」

 そう言って三人は、本当に店を後にした。

 此処は人気の少ない地域なので、直ぐに裏路地へと入り、裏の世界から歩いて夜香堂へと帰宅する。その間にロイドはどうしても気になった事を、二人に尋ねる事にした。

「あの、堕ちた花って、一体何なんですか?」

「店に着いたら詳しく教えます。今は早く戻りましょう」

「にしてもあの二人、本当に変わりませんねぇ。時々、我々と同類なのでは?と、今でも疑ってしまいますよ」

「え!?あの二人は妖じゃないんですか!?」

「ロイドー。それ、あの二人には言わないでくださいね?」

「確実に息の根を止めに来ますよ。特にジャスコさんを食い止めるのは、私でも骨が折れますから」

「アイーザでも!?…あの、ジャスコさんとマシューコさんって歳いくつなんですか…?」

「確か、還暦は疾っくの疾うに過ぎていたはずですねぇ」

「えぇ、とは言え、正確な年齢は我々も知りませんが…」

「………。そう…なんですか…」

 まさかの年齢にロイドは驚きを通り越して呆然としてしまい、店に辿り着くまでの間、堕ちた花の事や、境の街の事件のことなど、すっかり頭から放り出されていたのだった。





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