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14話

このお話の更新前に13話を読んでくださった方々へ

13話の文書が最後の数行抜けておりました

既に編集はしております

突然お話が飛んだように感じるかもしれません

本当に申し訳ございません

 ロイドは飛石の道を抜けた後、アイーザの腕から下ろしてもらい、二人で華夜楼の本館へと戻ってきた。庭の出入り口にはルネが立っていた。

 柱に上半身を凭れかけるようにしてゆったりと立っている姿は、アイーザとは違う美しさがある。

「解決しましたか?」

ルネがしっとりと柔らかい声色でアイーザに問う。

「ええ、まぁ…」

「では、帰りましょうか」

 そう言ったルネがちらりとロイドを見た。緩く細められた金色と銀色の瞳が、水に浮かぶ月を思い起こさせて、先程までの全てを彼に見られていたのではないかとロイドは錯覚し、頬を赤らめた。

「ロイド?」

 アイーザがどうかしたのかとロイドに問いかける。ロイドは慌てて否定し、楼へと真っ先に駆け込んでいった。そんなロイドを見送りながら、ルネとアイーザは小さな笑いを溢し、そんな彼の後をゆっくりと歩いて追いかけた。



「またおいでね。ロイちゃん」

「はい。女将さん、今日は本当にありがとうございます」

「ええんよ。ロイちゃんの顔見れて、本当に良かったわ」

 ロイドと女将が別れの挨拶を済ませ、三人は華夜楼を後にした。

 夜も更けたというのに、この花街にはまだ多くの花と客の姿がある。皆お気に入りの花を連れ立って、提灯が照らす温かな色の道を様々な人が行き交い、眠らぬ夜との別れを惜しんでいるかのようだった。

 しかし、三人が現れた途端、周囲の空気は一変する。

 誰もが会話を止め、脚を止め、視線は三人に釘付けとなり、頬を赤らめている者、目を蕩けさせうっとりと惚けた顔をしている者が数多いた。

 それは男女の客だけではなく、花も同様で、雄花も雌花も皆が三人を見ている。いや、正確には二人を見ていた。それほどに、ルネとアイーザの容姿は他を寄せ付けぬ人の輪を外れたものであったのだ。

「凄い視線ですね…」

「どれもこれもが羨望や恋慕等、好意的なものだと思うのは間違いですよ?中には嫉みに僻みのような嫉妬。時にはこの場を荒らすなという敵意も多いですから」

「理の違う我々と比べたところで、同じ土俵に上がれるわけもないというのに…。人の欲望とは兎角底が知れませんからね。欲深いとは…よく言ったものです」

「まぁ、有名らしいですからねぇ、我々も」

「有名?」

「何処にあるかも分からない煙草屋の双子が、夜な夜な花街に現れて数多の花を連れ立って歩いていれば、嫌でもこの街では有名になれますよ?」

 あはは、とルネが笑う。にしても夜な夜なとは、どれほど頻繁に花街に出入りしているのかとロイドは心配になってしまう。

「貴方の思うような事はありませんよ。ただ仕事で来ているに過ぎません」

「仕事?」

「ええ、ただ此処では目と耳が多すぎますので、話は店に戻ってから…」

 そんな会話をしていたら、いつの間にか大門まで辿り着いた。門を抜けると、其処は先程までの賑わいとは打って代わり、篝火が爆ぜる音と門番の男の二人しかいない。

 静かな空間の中、男達の目はやはりルネとアイーザに注がれていた。人並みの中では圧倒されてしまい、ただ二人についてきただけのロイドであったが、唐突な不安に襲われアイーザの腕に自らの腕を絡め、ぎゅっと縋り付く。

 そんな姿が愛らしいと思ったアイーザは、ロイドを安心させるかのように、彼の髪に軽く口付け、何かを囁く。すると途端にロイドの表情は明るさを取り戻し、明るさが蕩けた表情へと変わる。

 三人はまたゆっくりと歩き出し、そんな姿を男二人は視線で追ったが、三人の足取りは暗く細い路地裏へと消えた。



 

 やって来たのは裏の街灯だけが灯る人気のない静かな世界。

 昼間、店に来た時に気付けなかったのは、二人の容姿と陽の光の明るさのせいだろう。そんな静かな街並を抜け、三人は店へと戻ってきた。

 店内の明かりが灯り、ロイドは店の奥へと通された。

 長い暖簾が掛けられた上がりを越えたその先の空間はやはり住居で、その室内は和の造りでありながら洋の要素も取り入れられており、モダンなデザインの障子や畳の上に敷かれた厚手の豪奢なカーペット。その上に置かれた向かい合わせのソファも間に置かれたテーブルもこの部屋の雰囲気に合っていた。

 ルネは奥へと消え、アイーザは早々にソファに深く座り、いつの間にか煙管を取り出し吹かしている。そんな姿を眺めていると、ロイドはアイーザに呼ばれた。

「そんなところで何を?座ったらどうですか」

「は…、はい…!」

 ロイドがおずおずと靴を脱いで部屋に上がる。そして、少し悩んでからアイーザの隣に腰を下ろした。

 まだ少し緊張が残り、借りてきた猫のように小さくなり座るロイドに、アイーザがくつくつと笑いを漏らしている。

「し、仕方ないじゃないですか…!緊張くらいしますよ!」

「いえ、まぁ、そういう事にしておきます」

「おかしな方向に考えないでください!違いますからね!?」

 ロイドが一人向きになり、アイーザが軽くあしらっているとルネが銀色のお盆に三つのカップを乗せて戻って来た。

「全く、貴方ときたら…。私一人に全てをやらせて…」

 ルネは、はぁ…と態とらしい溜息をついて、ロイドとアイーザの前にカップを置く。

「私はロイドを構うのに忙しいので。その程度、大したことではないでしょう?」

「私はとことん自分でやりたくない主義なんです。面倒でしょう?」

 ふぅ…と何か大仕事をやり遂げたような顔をして、ルネは向いのソファに座り、珈琲に口を付けた。

 アイーザも煙管を盆に立て掛け、カップに口付ける。そんな二人の様子を見ていたロイドは目を疑った。

「なんなんですか…。その真っ黒い…醤油みたいなもの…」

「あぁ、珈琲は見たことありませんか?」

「名前は聞いたことありますけど、屋敷では紅茶ばかりで…」

「あぁ、この苦味が苦手だという人は多いですからねぇ」

「私は紅茶より此方のほうが好きですけどね」

「ロイドのはホットミルクなのでご心配無く。夜、眠れなくなったら困りますからね」

 そう言われてロイドは目の前に置かれたカップを見た。中身は2人のものとは違い真っ白で、カップは白に数滴の緑色を垂らしたような色をしていた。因みに、ルネは黄色、アイーザは深い藍色のカップを使用していた。


 三人が一息入れると、アイーザが再度煙管を吹かす。珈琲とミルクの香りが消え去り、夜に咲く静かな花の香りが部屋を包んだ。

「少し説明しておきましょうか、私達の仕事の話を…」




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