9. 浮遊するお化け
一方、人間の姿ではなく、墓地でゆらめく炎に擬態する者もいたようだ。
「うわぁ、火の玉だぁ、鬼火だぁ!」と、人間たちは、恐れおののき逃げ惑う。
炎のように、輪郭がはっきりしないものに化けるのは、かなりの上級者向けの技術だ。体の一部で墓石などにつかまりながら、炎のゆらめきを自然に表現するには、高度なバランス感覚と擬態能力が求められる。より「火の玉」らしく見えるコツなどが超音波の声で拡散され、擬態能力に自信のある者が、各地の墓地でこの難題に挑戦した。
そのうちに、単にゆらめくだけでなく、炎がすぅーっと移動する高等技術も開発されたようだ。墓石から墓石へと飛び移りながら、その動きをなめらかに見せるのは、まさに至難の業だ。見ていた仲間は、超音波の声で喝采を送り、演者は、そのコツを伝授する。こうして、「火の玉」の技は遠くまで届いていった。
挑戦者たちは、さらなる高難度の技にもチャレンジした。極限まで薄っぺらになって白い布に擬態し、風に乗って夜空を漂うというのだ。
私たちは、常に体の一部がどこかに固定していないと大変不安なのだが、無鉄砲な者もいるものだ。どこに行くのか風まかせなので、着地時点の安全性など、何一つ保証されない。ヘタをすれば人間の目前にヒラリと落ちてしまうかもしれない、かなりの冒険だ。
しかし、人間は、この予想外の出現にかなり驚くそうだ。実は、一反(約10メートル)どころか、せいぜい1.5メートル程度の長さなのだが、暗闇では実際より大きく恐ろしく見えるのか、「一反もめん」と呼ばれるようになった。……ただの白布にも怯えるなんて、人間はほんとうに謎な生き物である。




