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200才「お化け」のため息  作者: 小鎌 弓


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8. 幽霊

 架空の物ではなく、人間の姿に化ける者も現れた。

 私たちの体の大きさでは、たとえ薄っぺらになっても、人間の全身を完璧に表現するのは難しく、どうしても足元が無くなってしまう。しかし、皮肉なことに、その「足がない」状態が、かえって効果的だったようで「幽霊には足がない」というイメージが、人間社会で定着していった。

 人間は「幽霊は宙に浮いている」と言うが、私たち「お化け」は、空中に浮遊することはできない。屋内では壁に、屋外では柳の幹などに背中を張り付けて、あたかも宙に浮いているかのように見せているのだ。ペラペラな状態で、背中の一点だけで体を浮いたように見せるのは、高度な技術が必要だ。「お化け」がゆらゆらと揺れて見えるのは、実はプルプルと震えながら安定を保とうとしている姿なのだ。

 各地で、様々な男や女に化けて実験してみた結果、最終的に一番評価が高かったのは、「髪の長い女」だった。どうやら、世の中には「女に恨まれている」ことに心当たりのある男が多いらしい。男たちは「恨めしや~」という声を聞いたと言うが、それは真っ赤なウソだ。私たちには声帯がないのだから。女の幽霊を見た彼ら自身に、何か「やましさ」があるから、「恨めしや~」という空耳が聞こえるのだろう。


 ある日、私も幽霊に挑戦してみた。気の弱そうな男性を選んで、化けて出てみた。すると、反応が予想と全然違った。お化けを恐れるどころか、「おさよ、会いたかった!」と抱き付こうとしてきたのだ。私はすぐに背中の壁に同化して姿をくらましたが、「おさよ、行かないでくれ!」「お願いだ、もう一度、会いに来てくれ…」と涙を流して懇願されてしまった。

 どうやら、大切な人を亡くしたばかりだったようだ。私は、イタズラをして申し訳ない気持ちでいっぱいになった。「おさよ、もう一度会いたいよ…」とむせび泣いていた男性の姿が目に焼き付き、人を化かすのは、もう二度としない!と心に決めた。

 こうした経験は各地でも起こっていたようで、むやみに幽霊に化けるのではなく、ちゃんと相手を選んで化けようと、超音波の声で広まっていった。また、「他人から恨まれていそうな人間」を見分けるコツなども、活発に情報交換された。こうして、化ける際のマナーが出来上がっていった。私たち「お化け」にも、コンプライアンスはあるのだ。

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