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200才「お化け」のため息  作者: 小鎌 弓


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3. 江戸の大飢饉

 当時、何度か繰り返されてきた飢饉の話も聞いた。

「あれは、今から十年以上前のことじゃったかのぉ」

と、長老は記憶を辿るように超音波で語り始めた。

「北の地方で、ひどい飢饉が何年も続いてな。人間どもは、皆、飢えに苦しんでおった」

 食料が尽き、極限状態に追い込まれた人々は、雑草や山の木の実、きのこはもちろん、牛、馬、犬、猫なども食べたらしい。それも食べつくすと、やがては土壁の中のワラさえ食べるほどの危機的状況で、餓死者がたくさん出たという。最後には、人肉までも食すほどの地獄絵図だったとか……。人間という種の、極限における姿を、長老は淡々と語った。

「あのとき、北に住むわしらの仲間もずいぶん減った。食い物がないと、生きる(すべ)がないのは、わしらも同じじゃからのぉ…」

 生命エネルギーを頂戴する私たちにとって、人間の生命の危機は、そのまま自分たちの存亡に関わる問題なのだ。


 さらに(さかのぼ)れば、五十年ほど前にも、西の地方で大飢饉があったそうだ。その飢饉でも犠牲者が続出し、私たち仲間も、西の方ではかなりの犠牲者が出たという。

「どちらの飢饉でも、小さな貧しい農村の方が深刻じゃった…」

と、長老は深く溜息をついた。

「ただ、よく似た場所でも、餓死者が少ない地域もあったんじゃ。治める藩主が賢くて、早めに対策をうった所じゃ。……やはり、知恵というのは大切じゃ。知恵があれば、深刻な危機でも回避することができる」

 権力者の判断ひとつで、大飢饉を未然に防ぐこともあれば、逆に戦火によって国土が荒廃することもある。人間の世界は、その時の為政者の影響で大きく変わることに、まだ未熟だった私は衝撃を受けた。


 長老の話はまだ続く。飢饉の当時、私たち「お化け」の間では「豊かな町や村には、まだ生命エネルギーが充分な人間がいる」との情報が飛び交ったそうだ。貧しい農村に隠れ住んでいた者は、一縷(いちる)の望みをかけて、そうした豊かな町や村を目指したという。

「とは言え、わしらは、日中、絶対に見つからないよう隠れなければならん。飢えに狂った人間は何でも食おうとするからのう」

 しかし、夜中だけの移動では、遠い町にたどり着くのに相当な時間がかかってしまう。私たちの移動速度は、とても遅いからだ。

「移動の間、生命エネルギーが充分な人間に出会えなければ、わしらもお陀仏じゃ。…だから、飢饉でない今のうちに、町を目指した方がええぞ」

 それは、彼自身の経験から得た、私たち「お化け」が生き抜くための知恵だった。

「まあ、わしは充分生きたから、余生は田舎でのんびりしようと思っとるがのぉ」

 長老は、かっかっかと笑った。もちろん、超音波の声で。

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