2. 子どもの頃…江戸時代
あれは、今から200年ほど前……。私が若く、未熟だったころ。
私は山あいの小さな農村にいた。人が少ない村なら、見つかる危険性も少ないからだ。
日中は小作人の家の屋根裏に隠れて、体を休めていた。夜の帳が降り、住人が寝静まったころ、私は静かに動き出す。体を薄くしてぺたりと柱や壁に張り付き、擬態しながらゆっくり階下に降りる。壁の凹凸や、障子のしみ、むしろのささくれまでをも忠実に再現しながら、静かに移動する。
そして眠っている住人に近づき、生命エネルギーをそっと頂戴する。その日の糧を得ると、私は再びゆっくり屋根裏に戻っていく。夜明け前、刻々と変化する空の色を、屋根と土壁の隙間から眺める。そんな毎日を過ごしていた。
ある日のこと。日がとっぷりと暮れて そろそろ活動し始めようかと思っていたとき、同じ屋根裏に仲間がゆっくりと上がってきた。
「おや、ここには先客がいたんじゃな。一緒に居てもいいかのぉ?」
そのやわらかな超音波の声には、年輪のような温かさと、どこか懐かしい響きがあった。
「どうぞ、どうぞ。」
私たちには縄張りの意識がないので、私はすぐに迎え入れた。
聞けば、もう400年ほど生きているという長老だった。小柄で、物知りで、とても気さくな長老だった。私の問いに対し親切に教えてくれ、長い生で得た知識も惜しみなく伝えてくれた。未熟だった私には、どの話もありがたく、長老との会話は楽しかった。
その昔、戦国の世だった頃、あちこちで合戦を見たそうだ。戦になると、田畑が荒らされ、民家や倉庫から略奪が横行したり、焼き討ちが起こったり……。女性や子どもは捕まると人身売買されたそうだ。また、農民らも戦に駆り出され、最前線で戦わされ、多くが命を散らしたという。戦いが大きくなれば、田畑は荒廃し、負傷者や死者が続出し、衛生面が劣れば疫病が流行し……。悲惨な状況を語る長老は、涙ぐんでいた。
「戦は何にも生み出さん……破壊でしかないんじゃ。なのに、なぜ人間は戦など無益なことをするのかのぉ。」
長老は首をかしげ、大きくため息をついた。
「戦の被害者は、女や子ども、年寄り、そして名もなき農民たち…いつも弱き者じゃ。むなしいばかりじゃ。」




