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200才「お化け」のため息  作者: 小鎌 弓


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13/20

13. 寺子屋

 旅籠の天井裏から下を覗きながら、三姉妹が読む「東海道中膝栗毛」に聞き入るうち、文字にも興味がわいてきた。しかし、天井裏からでは本が遠すぎて、今どこを読んでいるのかがよく判らず、文字を覚えるのはなかなか難しい。そのうちに、三姉妹の会話から、人間は「寺子屋」で文字を覚えるらしいと分かった。

 寺子屋はどこにあるのか……。三姉妹の会話をどんなに聞いても、場所が判らなかった。そこで、超音波のネットワークを使い、仲間に問いかけてみた。「寺子屋はどこですか~?」と。

 しかし、「さぁ、知らないなぁ」「そもそも寺子屋って何?」など、最初はなかなか情報が得られなかった。寺子屋に興味のある仲間は少ないようだ。それでも、根気よく超音波を発していたら、少し離れた裏長屋に寺子屋があると教える声が聞こえてきた。


 夜の間に少しずつ移動して、ひと月ほどでようやく寺子屋の天井裏にたどり着いた。そこには、先客がいた。私より少し若そうだ。

「はじめまして。ここを教えてくれたのはあなたですか?」

と尋ねると、相手は答えた。

「いいえ。私も、寺子屋の場所の声を聞いたんです。結構近くに居たので、興味が沸いて、ここに来てみました。ここは天井板に隙間が多くて下が見やすいですよ。」

「そうでしたか。ご一緒してもいいですか?」

私たちは、縄張りは無いものの、礼儀として聞いてみた。

「もちろんです。どうぞ、よろしく。」

こうして、私たちは日中、お気に入りの隙間から下の様子を覗いて、勉強をするようになった。


 先生は、近くの商家のご隠居らしい。歳はかなり()()()いるが、言葉ははっきりしていて、丁寧でとても分り易い。

 朝、人間の子どもたちは、読み書きなどを学びに登校してくる。子どもたちは年齢も服装もバラバラで、登校時間も帰宅時間もバラバラだ。学習内容もバラバラで、先生はその子の進度に合わせた手本(今でいえば教科書)を用意している。私は、一番幼そうな子どもの学習についていくことにした。


 私の日課が変わった。

 真夜中、近くの民家で生命エネルギーを摂取した後、暗いうちに寺子屋の天井裏に移動し、子どもたちが登校してくるまで仮眠する。日中は天井裏の隙間から下を覗きこみ、子どもたちと同じように学ぶ。子どもたちが下校した後、夜が更けるまで、また仮眠する。そして夜中、近くの民家へ「食事」に出かける。

 ただ、雨の日や雪の日は、登校しなかった。体が濡れると、移動した跡が残ってしまうからだ。天井裏へと続く濡れた跡を見て、気にしない人間はいない。私の存在が露見してしまうような危険を冒すわけにはいかない。

 私は、天気が悪くなければ毎日登校したが、天井裏の同士は他に忙しいのか、来ない日が多かった。私一人だけの日は、天井裏を自由に移動して、あちこちの隙間から下を覗いて学習に励んだ。

 はじめに、小さい子どもが習っている「いろは」の文字を、上から見て学んだ。人間と違って「書く」能力は必要はないが、疑問な点を先生に直接質問できないので、しっかり理解するには意外と時間がかかった。子どもらは、「いろは」の次は、簡単な漢字や周りの地名・人名などを勉強していく。私も、隙間から見下ろす学習で、()()と漢字が読めるようになると、街道沿いの看板や、高札なども判るようになり、ますます面白かった。


 互いに知恵を伝えて、次の世代に繋いでいく「寺子屋」は、素晴らしい仕組みだと感心した。単独で行動する私たち「お化け」には、考えられないことだ。

 寺子屋での学習内容は幅広く、算術や、各地の産業や薬草の知識などを学んだり、いろいろな読本も勉強したりしていた。それと並行して、四季の行事や()()()()、礼儀作法なども教えていた。

 人間の世界には、身分によって定められた作法が数多くあるようだった。農民、商人、武士――それぞれ、身に付ける物、話し方、振る舞い、座る位置にまで掟があり、年中行事なども違うようだ。男と女でも、入れる場所・入れない場所があるそうだ。人間の世界は、まったくもって、複雑で面倒くさい。

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