もしも
***
「お前、本当に大丈夫なのかよ?」
疑わしげに訊いてくるのは、幼なじみの黒井燈亜。
私は彼に、「大丈夫だよ」と答えた。
私が目覚めて約六時間後。
今は午前十時を過ぎたところで、今日は日曜日。
クラスメイトの中で一番最初にお見舞いに来たのが燈亜だったのがびっくりした。
「でも、車にはねられたんだろ? なのに無傷って……」
「あはは……でも、しばらくは目を覚まさなかったみたいなんだけどね」
「………事故にあっても、相変わらずその呑気さは無くならねーんだな」
呆れたように呟く燈亜に、私は苦笑した。
そんな私に彼はすぐに笑みを浮かべる。
「ま、その呑気なところが朱音の良いところでもあるんだけどな」
そう言って、燈亜は唐突に「ん?」と首を傾げた。
「朱音、ベッドの下に何かある」
「え?」
「ちょっと待って」
椅子から立ち、床にしゃがんでベッドの下に手を伸ばし入れた燈亜は、少しして取った物を私に手渡した。
「あっ……」
「何だこれ? 朱音の名前が書いてあるけど……」
私が受け取ったのは――日記帳。
「落として気付かなかったのか?」
「あ、あははははははは……」
これには答える言葉が見つからなくて、私は乾いた笑みで応じた。
「……ま、朱音らしいけど」
いつもどこか抜けている私は、よく燈亜に呆れられている。
今日も同じように、燈亜は溜め息を吐いた。
「それじゃ、元気そうだし、俺は帰る」
「うん、ありがとう燈亜」
燈亜は手を軽く振りながら、病室を後にした。
燈亜の姿が見えなくなってから、私は日記帳を見た。
―――もし、私が気付かなかったら、どうするつもりだったんだろう………?
もし気が付かず一日が経っていたら―――。
そう思って、私は嫌な想像を振り払った。
―――とりあえず、また生きていけるんだから考えないようにしよう。
私は日記帳を大切に抱き締めた――――。