悪魔から手渡されたのは………
「朱音。とりあえず考えるのは俺の話が終わってからにしてくれ。後で質問があったら聞いてやるから……」
「あれ? 何で私の名前―――」
「俺が悪魔だからに決まってるだろ」
短く、きっぱりと答えたトリアは、じっと私を見下ろした。
彼はまるで何かを決意したかのように一つ頷くと、右手に煙と一緒に一冊の本のようなものを出現させた。
「ほら、これやる」
「わっ……」
放り投げられたそれを慌てて受け止めて中を開くと、文字は何もなく、ただ罫線だけがひかれたページばかり………。
「何、これ? ノート…?」
「日記帳だ」
トリアは不思議に思っている私に言った。
「この日記帳はただの日記帳じゃねーぞ? これの表紙に死者が名前を書いて、日記を記すと、死者が現世に蘇られるって代物だ」
ペンを手渡され、私は困惑して彼を見た。
「どうして…私に?」
彼のその話が本当だとして、彼がこの日記帳を渡してくれた理由が分からなかった。
だって、初対面だし、悪魔だし。
彼は苦笑した。
「お前が死んじまうと俺が困るんだよ。悪魔には悪魔の都合があんの。で、どーすんだ? 生き返るか、このまま死ぬか………」
二つに一つの選択。
それを迫られ、私は少し間を置いた。
そして……。
「………りたい。…生き返りたいに決まってるじゃない!!」
「なら、とっとと名前書いて、一ページ目に今日の日記でも書け」
いちいち偉そうな物言いのトリアに触発され、私はペンのキャップを外して、名前を表紙に書き、今日の出来事を綴っていく。
***
〇月×日
今日はお母さんの誕生日プレゼントを決める為に出掛けた。..........
***
日記なんて普段書くことのない私は、それはもう一生懸命に書いた。
何がなんでも「生きたい」と思ったから、大変だったけどひたすら………。
書き終わった日記をトリアに渡すと、彼は満足そうに頷いた。