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僕は彼女のルームメイト

作者: 海外空史

 僕は彼女のルームメイトだ。彼女は高校生で、僕らは毎日顔を合わせている。だから、彼女のことは何よりも知っているつもりだ。 

 花が咲いたような笑顔や影のある表情、幸せを噛み締めている顔や泣き崩れた顔、その全てを僕は見てきた。

 本当は彼女が高校を卒業するまで見守っていたかった。けれど、僕の願いは叶わない。

 永遠に回り続ける観覧車が存在しないように物事には必ず終わりが訪れる。僕も例外ではなく、彼女と過ごす最後の日を迎えた。

 寒さに震えながら彼女はベットから這い出た。窓からベランダに出て、大きく伸びをする。

 彼女が毎朝やっているルーティンだ。この1年間毎日見てきた。

 しかし、この光景も僕が見ることはない。そう思うと寂しく感じる。

 彼女は出かける準備をした。きっと日課の散歩に行くのだろう。部屋から出ていく彼女を見送った。

 しばらくすると、彼女が部屋に帰ってきた。その手にはゴミ袋があった。

 彼女はクローゼットから壊れたお弁当箱、ダイエットのつもりで買ったトレーニング器具等を取り出して、次々とゴミ袋に入れていく。

 一通り終わると疲れたのか彼女は部屋の中央にある丸いテーブルに顔を突っ伏して眠りについた。

 時折彼女が寝言を発していたが、その内容までは聞き取れなかった。

 やがて日が落ちて、窓の外は暗闇に包まれた。

 彼女は顔を上げて、僕へ目を向けた。立ち上がり、僕に向かってくる。

 彼女が歩いてくるのがゆっくりに感じられた。これまでの日々が走馬灯のように蘇る。

 プールへ遊びに出かける彼女、桜や紅葉を頭にくっつけて帰ってきた彼女、どれも僕にとって大切な思い出だ。

 彼女は僕に向かって手を伸ばした。ビリッと破れる音がする。

 僕はどうなるだろうか。そういえば、以前彼女が『僕』を紙飛行機にしていたことを思い出した。それともぐしゃぐしゃに丸められてしまうかも。

 僕の心配を他所に彼女はそのまま僕をゴミ袋に入れた。

 ついに彼女との日々が終わってしまった。寂しくはあるが、悔いはない。

 ふと彼女はどう思っているのか知りたくなった。もしかしたら彼女は僕のことなんて眼中にないかもしれない。そう思った時だ。


「1年間、ありがとね」


 彼女の声が僕に届いた。その声色は優しく労ってくれているように聞こえた。それを聞くだけで僕の心は満たされた。ああ、彼女と過ごせて良かった。


「さてと、新しい日めくりカレンダーを買わなくちゃ」


 今日は大晦日。明日から彼女の新しい1年が始まる。

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