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詩『電車の童話』

作者: 中嶌まり

真夜中。

車窓から10年前を覗く。

恋はあると信じていた。

私は過去のそれ、から列車へ手を振る。


ケンタウルス露を降らせ。


糸魚川の翡翠を拾い、出雲の海を目指す。

自由席に腰かける手にうす緑の勾玉がある。

ひとつだけ願いを叶えてくれるそうだ。


私はうっかり祈らない様、心を平坦にする。

本当の気持ちは知っているが、叶ってしまうとそれはそれで苦労する。


全部わかっている。銀河鉄道はすすむ。


勝手にフィナーレへ向かう。

女心をわかってないのね。


稲佐の浜に夜明けが訪れる。

オリオンは右へ傾き、私もうとうとする。


このまま眠っていたいなぁ、

祭は前夜が好きだから。



鳥が鳴く。

浜辺の砂を両手で掻いて、

ままごと遊びのテーブルをこさえる。

貝殻のごはんと、翡翠を並べる。


さあ、召し上がれ。

向かいに座る龍へ言う。


私は猫のお地蔵さん役です、

どうぞご遠慮なく。


龍はちょこんとお辞儀をして

『貝のお味噌汁は美味しいよ』と付き合ってくれた。


『裏の畑へ行ってくる』


龍は穏やかに微笑むとスルスル、

社とは違う方向へ歩いていく。


飛ばないんですか?


ぼくは土の柔らかさも好きだからね。


『そうそう君の翡翠のことだけれど』

気がつくと私の手に戻る石へ、

龍が目を向ける。陽のきらめき。


『君の願いは、君で大丈夫だってさ』


そうなの。


そう。


うん。


『だからまあ、ぼちぼちでね。

身体を大切にするんだよ。

貝殻のクッキーもごちそうさま。』


今度は蕎麦とお汁粉を食べる約束をした。

デートではない。


ああ、翡翠に頼むことではなかったか。

やっぱり勉強してきちんと寝て、

しっかり噛んでごはんを食べよう。

そうしてまた物語と遊ぼう。



特急列車が駅に到着した。

九月なのに、2023年の秋は蒸し暑い。


帰りにどこかへ寄って焼き鳥を食べたいなあ。

見上げる。 月。お団子もいいね。


食欲の秋だもの。




(おしまい)

読んでくださりありがとうございます。

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