ダンジョンツアー、始まる! にぃ
ついにツアー開始!
朝から雲一つない天気のなか、ギルド長であるモリスさんの挨拶の声がひびく。そして。
「それでは、ガイド達に登場してもらいましょう」
記念すべき1組目のガイドは、『花パッチのジャック』と『かっとびアンリ』、そして『仮面騎士オランド』、『壁師・妹O』の4人だ。女性が2人いるのは、第1グループの5人のうち3人が、女の子だから。とうぜんの配慮よね!
「ガイドだホイ、ガイドだホイ、俺たちゃガイドだホイー」
おなじみとなった歌に合わせて彼らが登場したとたんに、参加者や見学者から歓声や拍手が起きた。
わたしやモリスさんはビックリしたけど、ガイドたちは慣れてるみたいで、手を振ったりポーズをとったりしている。
そして仮面騎士が手を振ると、ご婦人たちからの歓声が!あれには、耳が壊れるかと思ったわ……
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「いいか、新入り。リーダーの言うことは、絶対だ。俺がしちゃあいけねぇって言ったことは、絶対するんじゃねぇぞ。判ったか?」
「はい!」
今回リーダーは『花パッチのジャック』なので、彼が冒険者パーティーの『新入り』となるツアー客達に、ダンジョン内での注意するべきことを伝えている。
そして注意が終わると、彼を先頭にダンジョンへと向かっていった。保護者たちは心配そうに見送るけど、参加者たちは笑顔で手を振っている。そして、1人づつ首から下げたメダルでダンジョンの扉をくぐっていく。
最後に仮面騎士がこちらを向いて保護者たちに一礼すると、中に入っていった。
ダンジョンツアーは、3階層にあるトイレ兼休憩所で休憩を取ったあと、5階層までおりて、そこで転移ポイントを使って戻って来る。かかる時間は、2時間ほどだ。
中ではダンジョンでしか採れない植物や、鉱物の採集をしたり、岩コウモリの群れの観察ができるの。
ほかにも、パチンコを使って4階層の天井に張り付いている七色塩の結晶を落としたり、休憩時には携帯食を食べたりする。
もちろん、途中で魔獣が出てきたらガイド達がやっつけるし、危ないと思ったら、3階層のトイレに逃げ込むことになっている。そして万が一、時間内に戻ってこなかった場合は、救助隊が出動する。
まぁ、わたしがトイレ作りで入った時は、スライムや岩コウモリ、蛍火トカゲくらいしか見たことないから、それほど危険はないとは思うけど、何があるか判らないからね。
第1グループが出発したら、第2グループを屋内遊戯場に案内する。こちらは1時間後に出発だから、それまで時間をつぶしてもらう。
遊技場には、孤児院からオセローが得意な子が4人、モリスさんが雇い入れていた。これはゲームの説明したり、審判ができるようにだ。
2人は今、緊張した顔で、オセローやバトルカードの貸し出しをしていて、残る2人はオセローを実戦してみせていた。
「新しいルールでは、必ず相手の駒をひっくり返せる場所に置がないといけません」
説明しながら、駒をひっくり返していく。その様子を見ていた子供たちだけでなく、大人までが借りに向かう。
ふへへっ、いい感じ。皆さん、販売用もありますよ〜!
ちなみに第3、第4グループの子どもたちは到着した順に、木製遊具に案内してある。お願いだから、ケガだけはしないでね!
**
全部のグループが無事に戻ってきたので、ちょっと気が緩んだとき、それが起きた。
ツアーに参加した子たちは、今はそれぞれが好きな場所で遊んでいて、わたしはエドガーやマキシムと一緒に、その様子を見て廻っていた。
(木製遊具は第1、2グループの子が多いってことは、室内遊技場は第3、4グループの子が多いのかな?)
なんて思いながら、室内遊技場横の売店に向かう。
こちらではオセローやバトルカードの他、装飾付きの木剣や、子供用の仮面、そして花パッチなどを並べてある。
ここの売り子さんは、引退した冒険者の中から人あたりが良く、計算ができる人をモリスさんが選んで雇っている。その売り子を、困らせる者がいたのだ。
「袋を開けた後の交換は……」
「だから、間違えて買ったって言ってるだろ!」
(この顔って、確か第3グループのメンバーにいた子よね)
相手をまじまじと見る。頭にはずり上げた花パッチがのっていて、腰のベルトには装飾木剣が刺してある。そして手には、端が破れた小さな袋。
ははーん、なるほどね。
バトルカードは24枚入りのものを3種類用意したんだけど、それ以外に3枚入りの小さな袋も売っているの。
中身は判らないようになっているんだけど、レベル4以上のものが必ず1枚は入るようにしてある。当たりの袋だと、レベル7や8のカードが入っていることもある。
この子もそれを期待して買ったんだろうけど、どうやら欲しかったカードは入ってなかったようね。
でも、だからといって、交換しろはダメでしょ。
「ですから、袋を破った後では、交換できないんです」
困り果てながらも、説明する売り子さんに、
「少し破れてるだけだろう!そんなに気になるなら、新しい袋に入れ直してから売ればいい!」
なに勝手なことばかり言ってるのかな、このお坊ちゃんは。その時、わたしたちに気づいた売り子さんが、助けを求めるような顔になる。
うん、任せて。
ここはひとつ、ガツンと言ってやろうと腰に手を当てた時、
「中のカードを確認しておきながら、間違えた?何を寝ぼけたことを」
マキシムに、先をこされてしまった。
「な、なんとなまいきな!こちらは、公爵のお孫様ですぞ」
横でオセローを二箱抱えたおじさんが大声を出すけど、それがナニ?っていうか、大人がついているのに注意しないって、どうなってんの?
よし。今度こそ、わたしの出番ね!そう思って息を吸い込み、
「何いってんだよ。ダニーんち、子爵家だろ」
今度はエドガーに出番を取られてしまった……っていうか、知り合いなの?!
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次作の投稿は6月11日午前6時を予定しています。
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