ダンジョンツアー、始まる! いち
ついに明日から、ダンジョンツアーが開業よ!貸衣装に、カードやゲームができる遊戯室のテーブルや椅子の準備も終わって、後は明日になるのを待つだけ!なんだけど、その前に、目の前にある大行列を、なんとかしないと!
「引換券1枚につき、カード1枚と交換です。引換券をお持ちでない方は、列に並ばないでください!」
ライラさんの注意する声が、響く。
遊技場の売店横に作られた、宣伝活動特典カードの引き換え窓口には、朝から沢山の人がつめかけていた。子供や親子連れだけじゃなく、大人も多い。そしてなぜか、引換券を持っていない人も並んでいるらしい。なんで???
「忘れた方、無くされた方には、申し訳ありませんがお渡しできません!」
ギルド長が言うのを聞いて、納得。引換券を忘れた(失くした)から持ってないけど、並ぶからカードをよこせってことね。
うん。絶対に、何があっても、あげない!だけど念のため、カードは全部引き出しの中に入れておくことにした。出すのに手間はかかるけど、盗られる確率は下がるからね。
「わざわざこんな所まで来てやったというのに、もう一度来いと言うのか!」
なんて声が列の中から聞こえてきたけど、どう考えても忘れたほうが悪いよね?それに心配しなくてもホントに引換券があるなら、後日近くのハウレット商会での交換も可能だ。これは冊子にも、きちんと書いてある。
まぁ、申し込んでから半月以上はかかるけど、必ず交換できるんだから問題ない。
さて、いよいよ交換開始。窓口に座るのは、エドガー、マキシム、わたしの3人で、窓口の前には護衛役のアルノーさんが立っている。
エドガーが引換券を受け取り、マキシムが専用台で券を確認、そしてわたしがカードを渡す役だ。
アルノーさんが横によけて、先頭に並んでいる人が見えた。先頭は……シモン伯父様だった。
「いやぁ、みんなに頼まれてね」
ガハガハと笑いながら、9枚の引換券をだしてくる。いや、だれがわざわざ辺境伯様に、こんな雑事を頼むんだよと思ったけど、口には出さない。だけど。
「伯父さん、暇なの?」
「(エミィへの)お触り禁止ですよ」
エドガーとマキシムが、同時に言った。
「エドガー。伯父さんは忙しいよ。このあとすぐに屋敷に戻るからね。それとマキシム。エミィに触ったりしないさ」
言いながら、ワキワキと動く指を後ろに隠したところを見ると、怪しいものだ。
「ギータリアスが2枚、ヴァギリアスが4枚。そしてシュガーリアンが3枚ですね」
引換券を確認するマキシムの声を聞きながら、1枚づつ専用の袋に入ったカードを渡していく。マキシムが睨んでいるせいか、シモン伯父様はカードを受け取ると、おとなしくその場を離れていった。
「ありがとう、助かったわ」
マキシムに小さい声でお礼を言うと、すごく嬉しげに笑うもんだから、ちょっとドキッとしてしまったわ。
その後しばらくは、時々、変なところから引換券を出す人がいるくらいで、順調に進んでいった。もっとも、
「なくさないよう、ここに入れといたんだ」
10歳ぐらいの男の子がそう言いながら、脱いだ靴の中から引換券を出してきたときには、さすがにエドガーが可哀想に思えたわ。マキシムはすぐにハンカチをだして、直に触らないようにしてたけど、アレが正解ね。
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「ほら6枚だ。早くしろ!」
列が半分ほどに減った頃、横柄そうなおじさんが、エドガーに向かってクシャクシャになった引換券を投げるように渡してきた。
それを見たとたん、違和感を感じる。
(あれ、なんか違う?)
エドガーが引換券を広げると、その理由が判った。
まず紙がちがう。おまけに絵が雑で、文字も歪んでいる。
(コレって、同じ大きさの紙を重ねて、上からなぞったのかな。それにしても、下手だわ……)
師匠の提案で、引換券は特殊な光をあてたら、印刷された文字が浮き出でる特殊なインクを使っている。もちろんバトルカードにも、そのインクが使われているし、使っている紙は稲荷社神国から取り寄せた、ちょっと特殊な紙だ。
触ればその違いがすぐに判るから、偽造はむずかしいのよね。
でもこれは、そんな特殊な光を使う必要がないくらい、下手なニセモノだ。こんなので騙せると思える、このおじさんの頭の中が不思議でならない。
「お客様。こちら6枚全て偽造された物ですので、交換できません」
マキシムの言葉に、横柄おじさんの顔がゆがむ。
「ガキが生意気な口を利くな!いいから、さっさとカードをよこせ!」
わたしに向かって手を伸ばしてくるけど、このおじさん、どうやら頭だけではなく、耳まで悪いようね。偽物だから渡せないって言ってるのに、聞こえてないんだもの。
ベシン!
アルノーさんが、おじさんの手を払いのける。
「キサマ、貴族に手を上げるとは!」
あっ、このおじさん、お貴族様だったんだ。でも大丈夫。こんな事もあろうかと、前もってシモン伯父様から騎士さん達を借りていたからね。ホント、祖父様の忠告を聞いておいて良かったわ。
アルノーさんが合図を送ると、すぐに2人の騎士さんが走って来て、横柄おじさんを両側から確保。そのまま、連れて行ってくれた。
「何をする、捉えるならあの男だろうが!俺は男爵だぞ!」
横柄おじさんが叫ぶ声が、段々遠くなっていく。あの感じだと、悪いことをした自覚もないみたい。ホント、困ったもんだわ。
だけど困った人は、1人だけではなかった。
「ねぇ、こんなに沢山交換したんだから、少し余分にくれても良いと思わない?」
人の分まで預かってくるのは全然良いんだけど、だからといって、なんで余分にもらえると思うんだろう。ホント、めんどくさい。
しかもこのおじさん、脅しているつもりなのか、わたしに顔を近づけて凄んでみせる。
(この鼻、グーで殴ったら怒られるかな?)
そう思ったのがバレたのか、アルノーさんが騎士さん達に合図を送る。おかげでクレクレおじさんはまっすぐな鼻のまま、騎士さんと共にどこかに連れて行かれた。
そのあとも偽物を出す人が5人に、余分にクレクレ言うのが8人でたけど、全員騎士さん達におまかせした。
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ツアーの1番手は、女の子が混じったグループなので、前もって手紙で貸し衣装の案内をしておいた。当日、慌てて着替えるのは大変だからね。
貸し出し用のブルッペは、色や大きさなど各種取り揃えてある。もちろん、販売用も同じだけ用意してあるし、乙女の快速シリーズのブーツタイプも並んでいる。
それ以外には胴着がある。これは冒険者ギルドのマークが刺繍されたもので、色は3色だけで男女共用。サイズも大、中、小の3種類だ。
実はコレって、ガイド達も同じ物を着ているのよね。しかも宣伝活動の間も着ていたから、今ではガイド達のトレードマークみたいになっている。
それが着れるのって、ちょっと嬉しいと思うのよね。
ということで、夕方に1番手と2番手の希望者限定で、特別内覧会を開くことにした。
「これ、確かガイドが着てたよね」
「あっ、このブルッペ、仮面騎士さまと同じ色だ!」
思惑通り、ブルッペとブーツだけでなく、胴着まで全員分、お買い上げとなった。まいどありー!さすがお貴族さま!




