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工房の完成と、似てない兄弟 にぃ

この世界において一ヶ月は全て30日で、一週は6日 。五週で一ヶ月。

風の日、火の日、水の日、木の日、鉄の日 土の日で、一週間。土の日は安息日で、お休み推奨日です。


「兄さん」


 まん丸な人はとっても小さな声で言うと、ニコニコしながら手を振ってきた。その視線の先にいるのは………なんと、ライドさん!

 えっ、ってことは、この『まん丸さん』はライドさんの弟?!うそぉ、似てない! 


 だってライドさんって、どちらかというと全身長四角!な見た目なんだもの。おまけにいっつも眉間にシワが寄ってるし声も大きいから、にこやかな『まん丸さん』との兄弟要素が見つからない。


 2人を見比べて、首を傾げているわたしに気づいたライドさんが、まん丸さんの横に立って紹介してくれた。


「商会頭、紹介します。弟のクルトです」


 うん。やっぱり弟なんだ。そして並んでも兄弟要素が見つけられない。普通、どっか1つくらいあるでしょ?!耳とか鼻とか、手とかさぁ!


「先日話していた私の仕事の補佐役として、弟をこちらに呼び寄せました。私は母に、弟は父にそっくりなため、それほど似ていませんが、間違いなく実の兄弟です」


 みんながあまりにも自分たちを見比べるのに気づいたのだろう。ライドさんが説明する。へぇ、そうか。ライドさん、お母さん似なんだ……


「弟は計算が早いうえに、仕事の覚えもわるくないので、問題は無いと思います。ただ、いかんせん極度の人見知りでして」


 クルトさん、最近まで親戚のお店の経理を任されていたのだけれど、その家の息子さんが学校を卒業して家の仕事を手伝うことになったので、悪いが辞めてほしいと言われたんだって。


「僕は昔から、家族以外の人と話すのが苦手なもので。で、でも兄の仕事を手伝うのでしたら、たぶん大丈夫だと思います。給金も住む場所があるなら、それほど多くは望みませんし……」


 言いながら、ドンドンうつむく角度が深くなっていくし、小さな声は消えちゃいそうだ。

 いやいや、うちはちゃんと能力に見合った給金を払うからね?

 それに身内といっても、ライドさんが勧めるほどの人なんだから、きっと優秀だと思うし。

 そう思いながらライドさんを見ると、


「先ずは3カ月、見習いとして様子を見ていただけませんか」


「えっ、でも…」


「お願いします」


 ふかぶかと頭を下げられたら、判ったと答えるしかない。すぐに契約書を作って持って行きますと言われたけど、身内だからひいきしたと思われたくないのかな?それとも、続かないかもしれないって思っているのか、どっちだろ?

 どちらにしても、とりあえず住むところはいるよね。


 木製遊具の管理・監視員さん達のために用意した宿舎はこの間完成してるし、まだ部屋に空きがあるから、そこに住んでもらうことを伝える。

食事も、下に入っている食堂を利用すれば、それほど沢山の人に会うこともないからね。


 どうせなら一緒に見学しようとクルトさんを誘い、1人増えた8人で木工所の見学だ。カンカンと何かを打ちつける音が聞こえる扉を開くと、ふわりと削られた木の匂いに包まれる。


 木工所では4人の若い職人さんが、オセローの加工をしていた。一番手前では、ゲーム盤のマス目を刻んでいて、カンカンという音は、ここから出ていた。


 これは特許の元持ち主であるテリエさんの提案で、目が悪くても遊べるようにと考えられたことだ。

 盤のマス目に浅いミゾをつけ、駒がズレにくいように、ザラリとした手触りの緑色の布を貼る。そして丸い駒の白色の方に、小さな窪みをつけるのだ。


「すでにいくつか出来上がったものを、町長を通して目の悪い人や、孤児院の子どもに試してもらうことになっています」


 これらは人目のある場所でゲームをしてもらうのを条件に、そのまま進呈することになっているの。もちろん、新しいルールでだ。そのための冊子も渡してある。

 一発逆転もあるゲームだから、見物している人の中には自分もやってみたいと思う人が、きっと出てくるはず。それが狙いよ。


 ふひょひょほほっ!見物人たちよ、購入者となるがいい。そうして、わたしを儲けさせるのよ!



「この箱は、何のためだ」


 マルク翁がゲーム盤の両側に取り付けられた細長い箱を指さしながら質問すると、


「こちらは駒の収納箱になります。この中に予備の駒と合わせて33枚入るようになっています」


 箱を取り付けていた職人さんが、答える。庶民向けは簡素にして、値段を抑えているけど、お貴族様向けには、ここらを豪華にする予定。もちろん、盤の色や駒の色の注文も受ける。

 何だったら、駒のくぼみに宝石だって埋めこんじゃうよ。そうして出来上がったのは、あなただけのゲーム盤!

 『世界に1つだけ』って、幾つになっても心くすぐられる言葉だと思うのよ。マルク翁、特注品の注文、今から受け付けますよ!


 奥の作業台では、少しおじさんな職人さん2人によって、装飾付きの木剣が作られていた。

 木剣の柄や鍔の部分に、模様や魔獣を彫刻をしたり、ガラス玉を張り付けていく。

 この装飾は、マキシムとエドガーが考え、ダミアンが絵にした物を元に作られている。マキシムはともかく、エドガーに絵を描かせるのは無理だからね。


 その中に、柄頭に竜が彫刻されている物を見つけたエドガーが、声を上げる。


「あれ、俺が考えたやつだ!」


「こっちは僕の提案した図柄だ!」


 マキシムも青色のガラスがはめ込まれた剣を見つけて、うれしそうだ。


「なぁ、エミィ。これって…」


「もしかして、これも……」


 2人して、期待でキラッキラに輝いた顔をこっちに向けてくる。だけど祖父様達はまったく興味を示さなかった。

 まぁ、お屋敷には本物の宝石ついた剣が何本も飾られてるから、こんな玩具には興味なんかないのだろう。ディディエさんやライドさんも、あまり興味はなさそうだ。

 でも、クルトさんだけはすごく興味しんしんに見ていて、こちらのお目々もキラッキラしてる。もしかして、こういうの好きなのかな?



「現在作成しているのは、展示用の見本のため差し上げるわけにはいきませんが、その前に作った試作品でしたら、持ち帰っていただいて大丈夫です」


 エドガーたちの様子を見たライドさんが笑いをこらえながら、壁際の棚に立て掛けられた5本の木剣を指さす。


「ほんとに?!」


「やった!」


 エドガーとマキシムが棚に駆け寄り、素早く2本づつ木剣をつかみ取ると、残った1本を巡って、睨み合う。


 ねぇ、あんたたち。わたしのこと、忘れてない?これの発案者って、わたしなんだけど。


 ボン!


 睨み合う2人をチョットばかり身体強化をかけて押しのけると、最後の1本を手に取る。その途端、尻もちついた2人がそろって『しまった』な顔になるけど、反省するには、ちーとばかり遅すぎる。


 手にしたそれは、鍔に炎と羽ばたく鷲が彫られ、柄には赤いガラスがはめ込まれていた。ふぅん。こうして見ると、けっこうカッコ良いわね。

 それをションボリしているクルトさんに渡す。


「えっ……」


「就職が決まったお祝いです」


「あ、ありがとう……ございます……」


 手にした木剣をギュッと抱えて、キラッキラお目々が大復活だ!しかも涙ぐんでる分、3割増になっててで眩しい。

 ここまで喜ばれるとは思ってなかったから、ちょっとビックリすると同時に、くすぐったい気持ちになる。わたしたちをみていた職人さんたちも、何だか嬉しそうだ。


 そしてわたしは、大人にも装飾木剣の需要があることに気づいてしまった。ふへへ、少し大きめの物も作ってもらおう。


 最後に向かったのは、食堂。

 ここはけっこう広いのよ。パン屋は朝と昼に営業で、土の日はお休み。食堂は昼と夕方からで、こっちは風の日がお休みになる。


 実は家族用の宿舎以外は、台所がついてない。だから両方とも休んじゃうと、食べるものがなくなっちゃうからね。

 そんな事もあって一応、食堂の食事の値段は、できるだけ安くしてある。あっ、でもお酒は別ね。これは町の値段と同じにしておけって、祖父様からの助言。


 食堂は、昨日から夜だけ営業が始まっている。昼は、来週まで町からパンとスープが配達されるし、その時に朝用のパンも一緒に販売しているから、問題はないみたい。


 調理や運営は、宿屋の経営者でトイレツアーの案内人でもあるワタリさんが、紹介してくれたの。ワタリさんの弟のサカキさん夫婦と、その息子さん。

 領都の宿屋の食堂に務めてたんだけど、そろそろ自分の店を持ちたいと思っていたらしい。ちょうど良いって、喜んで来てくれた。

 サカキさん家族が住んでいるのは、食堂の3階にある家族用宿舎だ。もちろん、パン屋の従業員用の宿舎も同じ階にある。でも、肝心のパン職人は、まだ決まってないのよね。これはワンコ兄弟の(ダミアン)が、


「推薦したい人がいるんだけど、少し待って欲しい」


 何て言うもんだから、言われた通り待ってる最中。どうやらうちの専属絵師さまは、パンには少しばかりこだわりがあるようで、お気に入りのパン職人がいるみたい。


 だけどいいかげん決めてもらわないと、間に合わなくなっちゃう。いったいどれだけ気難しい職人さんを、連れてこようとしてるのかしらん?

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― 新着の感想 ―
パン職人・・・、察し そして、またもや、物語は始まらない。
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