宣伝活動、開始! にぃ
宣伝用の組分けは、『花パッチのジャック』、『剛力ボブ』、『向う傷のレノ』、『片手弓のリュカ』、『風剣のグレゴリー』が東の街道→王都→西の街道組。
そして『かっとびアンリ』、『風使いのロイク』、『弓操りバンジャ』、『壁師・妹O』、『仮面騎士オランド』が西の街道→王都→中央街道組。
最後に『遠射のユーグ』、『撃鉄ブリス』、『炎槍のトマ』、『壁師・姉A』、『鉄槌のブシェ』が中央街道→王都→東の街道組だ。
これはツアーの組分けとは別で、ギルド長が得意技を観せるのに一番良いと判断した組み合わせだ。だけど問題が1つ、あった。
「中央街道出発組は、女性がアメリさん1人になっちゃたけど、大丈夫?」
「兄さんが一緒だから、問題ない。それに演習でも似たような状況は、けっこうあったし」
「俺が一緒だから、心配いらん」
お兄さんのマルタンさんが、腕をグルングルンとふりまわす。
うーん……そう言われても、『未婚の女の人が何週間もの間、男ばかりの中にいるのは、あまり良くないことよ。彼女の評判にも関わるし、なにより女同士のおしゃべりができないじゃない!』なんて、母さまに言われたのよね。
だから女性の騎士を1人、護衛の中に加えてもらうことにした。
もともとライドさんから、護衛は絶対に必要だと言われてたので、それぞれ3人づつ付ける予定だったから、1人を女性にしても、何の問題もない。
この騎士さんたちは、辺境伯であるシモン伯父さまの部下だ。もっとも、手配したのは祖父様だけどね。
だってダンジョンツアーは、わたしと祖父様、そしてエドガーの3人で立てた計画だもの。
まぁ、デュモンさん達は、自分たちのグループは男しかいないし必要ないって言ったけど、彼らだって大事な演者だからね。守るに決まってるでしょ。
さて、ガイド5人+護衛3人+各自の荷物はそれなりの量になるので、大型の馬車をひと組につき2台、全部で6台を、御者付きで用意した。これも祖父様が、私費で。
もちろん『馬車につけれるトイレ』付きよ!6基のお買い上げ、まいどあり〜!
あっ、そうそう。護衛騎士さんたちは馬に乗るんだけど、その手配も祖父様がしてくれた。
***
ガイド達が出発して二日目。1回目の宣伝活動の報告が届いた。近くのハウレット商会から、送受信板を使って送られてきたのだ。
どうやら宣伝活動が終わった途端、すごく話題になったみたい。どの組も、もう1回出来ないかとしつこく粘られたと書かれている。
ウンウン。判るわ、その気持ち。王都と違って、地方は娯楽が少ないっていうのもあるけど、なによりガイド達の得意技はスゴイからね!
その事をライドさんにも伝えると、2つ目の町からは有料席は倍に、配布紙は3倍に増やすよう、次の町の支店を通じて指示を出していた。
「たぶん、これでも足りないでしょうが、これ以上は手持ちが足りなくなってしまうので、ムリですね」
言いながら、冊子と配布紙の増刷の依頼の連絡を入れる。王都につく前に、それぞれの組に届けないといけないからね。
予測通り、次の活動場所には、前の宣伝活動の評判を聞きつけた人たちが押し寄せたらしい。おかげで2倍に増やした有料席は、即完売。おまけに配布紙は、取り合いになったらしい。
3つ目の活動場所につく頃には、ここの冒険者ギルドに問い合わせが殺到していた。
「なんでうちの領地では、宣伝活動をしないんだという抗議の手紙がきまして……」
ギルド長が、困った顔でお屋敷に相談に来た。
「だれだよ、そんなことを言ってくる奴は?」
眉をしかめるエドガーに、
「5通ほど来ていますが、中でもバルデ伯爵家はからは、自領で3組全部の宣伝活動をするよう要求しておりまして……」
その名前には、聞き覚えがあった。
「あそこって、最初に宣伝活動をさせて欲しいってギルド長が手紙を送ったときに、断りの返事すらよこさなかったところよね?!」
おもいだしたら、なんだか腹が立ってきた。
「バルデは魔術師の家系だな。確か現当主は、宮廷魔術師団の団長だったはず」
祖父様の言葉に、さらに腹が立つ。
(偉い人だからって、ムリが通ると思わないでほしいわ!)
ところで、なんでみんなそろって、どうする?って顔でわたしを見てるのよ。そんなの、決まってるでしょ!
「いくら偉い人の要求だからって、宣伝の開催場所を増やしたりはしない。だって宿の予約や、次の場所での予定があるもの」
それに追加で印刷したとは言っても、冊子や配布紙にも限りがある。だから『偉い人には、偉い人を!』ってことで、断りの手紙は祖父様に書いてもらった。
そして『偉い人達』に苦労したのは、ギルド長だけではなかった。宣伝活動を手伝ったギルド支部の人やハウレット商会の人達からも、報告が上がっていたのだ。
なんで自分の席を用意していないんだと怒ったり、余分に冊子をよこせと騒ぐだけじゃなくて、勝手にガイド達の宿泊所に入ろうとする人達までいたらしい。
そして、そんなイザコザは全部、護衛騎士さん達が解決してくれたそうだ。
うーん、ライドさんの忠告を聞いて、護衛の騎士さん達をつけてもらって正解だったわ。辺境伯家の紋章をつけた騎士さんに逆らうなんて無謀なことは、普通の貴族はしないらしいからね。
**
大反響となったダンジョンツアーの宣伝活動は、ガイドたちが王都から戻ってくる行程に入る頃には、予約申し込みの手紙がたくさん届くようになっていた。中には一番最初のツアーに参加したいからと、お金を持った使いをよこした人までいたの!
後は、『ジャックと同じ花パッチが欲しい!』とか、『仮面騎士様のツアーに参加したい』とか、ガイドと同じ小物の販売希望者や、ガイドを指名する手紙も少なくない。
特に仮面騎士は人気で、娘を参加させたいと言ってくる人の大半は、ポレット・オランドさんをガイドに指名していた。
指名受け付けをすると書いた覚えは無いんだけど、元々ポレットさんたちは、女の子のツアー参加者のために入れた女性ガイドだからね。ここらはちゃんと考えますとも!
それにしても、同じ『花パッチ』かぁ。ふへへっ、良いかも。アレって、ジャックさんの奥さんの手作りらしいから、子供用が作れないか聞いてみようかな?
他にも紙の仮面や、飾りのついた木剣なんかもあったら売れるかも?
ふひょひょひょひょ。たくさんの予約に、小物の販売かぁ。ふへへ、笑いと踊りが止まらないとは、このことね!
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次作の投稿は4月9日午前6時を予定しています。
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