宣伝活動、開始! いち
「いいねぇ、これ」
ポレット・オランドさんが、しゃがんだり脚を上げたりしながら言う。
衛兵詰所で借りた部屋の中、女4人で新型ブルッペの試着会を開催中だ。もちろん、わたしもブルッペを穿いている。
「動いた感じは、どう?」
片足を高く上げて、クルリと回りながら聞いてみる。
「ヒダが減ってるから、どうかと思ったけど、まったく問題無い」
言いながら、屈伸を繰り返すオレリさんの横で、
「なにより、穿きやすいし」
アメリさんは腰の編み地部分を引っ張っている。離すと、パンッと軽い音がした。
どうやらブシェ家の双子も、気に入ってくれたみたい。
(さすが、ハウレット商会の縫製部門!)
元からあるブルッペは、太いヒダが全体にぐるりと入っていたけど、新型ブルッペはヒダの幅を少し狭くして、横と前のヒダ数を減らしてあるので、スッキリして見えるのだ。
だけど、そのために動きづらくなってしまったら、意味がない。わたしが穿いて動くのには、何の問題もないけれど、子供と大人は身体の形が違うからね。
「あたしは、これが1番しっくりくるかな。でもいいのかい、3枚とも貰って?」
腰部分の編み地が長い方を穿いたポレットさんが、首をかしげる。今回持ってきたのは、足元はこれまでと同じ布製で、腰部分の編み地の長さが違うもの2枚と、足元も編み地のもの1枚だ。
「もちろんです!ツアーの宣伝も、もうすぐ始まるし、できるだけ快適な状態で仕事をして欲しいので。ただ、それぞれの穿きごこちや、改善して欲しい所があれば、コチラの紙に書いてもらえたら、ありがたいです」
そう言いながら、それぞれに3枚綴りの紙を渡す。これも、縫製部門から送られてきた物で、どう書いたら良いかわからない場合に備えて、◯☓で答える形式と、自由に書く箇所とがある。
めんどうだったら、◯☓だけでも良いからとお願いすると、3人とも、それぐらいならと笑って受け取ってくれた。
残りのブルッペは、冒険者ギルドに預けることにした。できるだけ沢山の人に試着して、その感想を知りたいからだ。
受け付け係のライラさんにお願いして、感想用紙も束で渡す。
「ねえ、エミィちゃん。これっていつから販売されるのか、聞いて良い?」
「ツアーの貸し出し用以外の分は、夏前くらいになるかと。ブルッペだけじゃなくて、ペチコートや寝間着用のズボンなんかも、作るみたいなので」
内緒にしといてくださいねと言いながら、少しだけ、情報をもらす。
「なら、コレの試着をしてくれた人達に向けて、優先販売みたいなのがあれば、ありがたいのだけど」
ライラさんの目が、キランと光る。
結局、感想を書いてくれた人の予約を受け付けることが、その場で決まった。
***
さて、ダンジョンツアーの宣伝活動が、ついに来週から始まるの!宣伝用の張り紙や配布紙が刷り上がったし、馬車の準備も完了よ!
ガイド達を組5人でひと組、全部で3組に分けて、街道沿いの町を回るんだけど、全部の町を回るんじゃぁなくて、事前に広場の使用許可を出してくれた町だけだ。
そこではツアーの内容を書いた配布紙を配ったり、ガイド達が得意技を見せたりするんだけど、もちろん宣伝だから無料。
ただし一部だけ、有料席を作ってもらうことになっている。もちろん払ったお金以上の、おまけを付けるつもり。
まずはツアーの割り引き券。これは最大3人まで使える、2割引きの券だ。それからガイド達の絵姿入りの小冊子。これも3組分、それぞれ作ってある。
最後にバトルカードの引き換え券。こちらも3種類。これはまだ出来てないから、絵柄だけ載せてある。もちろん無断使用出来ないように、デカデカと見本の文字が入ってる。でも、カッコよさは、伝わるはずよ。
この絵はワンコ兄弟の弟、ダミアンが書いたものだけど、そのままだとどうも収まりが悪かったので、バトルカードの発案者であるステフ・テリエさんに頼んで、バトルカード専用の配置図を作ってもらって、それに収まるよう描き直してもらったものだ。
配置図は上半分は魔獣の絵で、下半分にはその魔獣の属性と攻撃方法、そして力の強さを書くようになっている。
それを見て、テリエさんってほんとにスゴイと思った。だって、属性は判りやすいよう、模様で描かれているし、攻撃や力の強さは、数字で表されているからだ。
今、ダミアンにはこの配置図と、元々のバトルカードを参考に、30種類の魔獣を描いてもらっている。
その中でも、特に運動小僧たちに人気が高そうな絵柄を、今回の引き換えカードに選んでみた。炎のドラゴンと呼ばれるギータリアスと、氷のドラゴンのヴァギリアス、そして雷のドラゴンのシュガーリアンだ。
「俺、これ絶対欲しい!特にシュガーリアン。なぁ、有料席の券って、いくらだっけ」
「確か銀貨3枚」
「それぐらいなら、こづかいで大丈夫だな。あっ、でも3枚とも欲しいから、銀貨9枚か……」
ん?何いってんだろ、コイツ等は。
「エドガー、わたしたちは券を買うんじゃなくて、売る方だからね。判ってる?」
主催する側が買って、どうするのよ。
「だけどこのカードをもらうには、券を買わないといけないんだろ?だったら……」
「そんな事しなくても、見本が刷り上がったらあげるから」
「ホントに?3枚とも?!やった!」
「僕も欲しい!」
マキシムも手を上げたということは、ドラゴンを選んだのは大正解だったようね。
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次作の投稿は4月2日午前6時を予定しています。
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