その後の顛末と、届いた荷物 + おまけ
昨夜のサイトの不具合のため、更新が遅くなりました。申し訳ないです。
「昨日の2人組は、山林労働の刑が決まった。すでに出発したから、もう、煩わされることはない」
(ほぇ?!)
朝食の席での祖父様の言葉にビックリして、開いた口から転がり落ちそうになったパンを、あわてて手で押さえる。ふぅ~、ヤバかった。乙女として、とんだ失敗をするとこだったわ。
だけど捕まえたのって、昨日の夕方よね?なのにもう、刑が決まって出発までした?それって、いくらなんでも、
「「早くない?」」
エドガーと、声がかぶった。うん。思うことは同じだ。
「フンッ、遅いぐらいだ」
祖父様がすました顔で言うと、その話はそれで終わりとなってしまった。
(もう少し詳しく知りたいのに……)
しかたがないので朝食の後、エドガーと2人して、レノーさんに詳しい話を聞くことにした。
「じつは捕まえた時点で、あの2人の身元確認はすんでいたのですよ」
もともと宿屋のおばさんから、怪しい2人組がいるからと衛兵詰所に通報があったので、衛兵さん達が、ロビーとゴスの事を色々と調べていたんだって。
「おまけにあの2人、どうやら大口をたたいて家を出たようでして、今回起こした騒動を身内に知られるのを酷く嫌がりましてね。そのため、通知しない代わりに、早々に刑に服すということになったしだいで」
レノーさんは、色々と説明してくれた。
山林労働の場所は、辺境伯領領の中でも一番不便な山の中にあることや、刑といっても、ちゃんと休日があって給金も支払われることも。
「俺、聞いたことがある。でも、そこから色々引かれるから、あまり手元には残らないんだろ?」
「そうなの?」
「そうですね。確かに食費や衣服、それに冬場の薪代などが引かれますが、それでもお腹いっぱい食べれますよ」
エドガーとわたしの疑問に答えてくれたレノーさんは、
「微罪を犯した若い者達の更生も兼ねているので、心配いりません。それに少々歪んだ性根など、あの地で1年も過ごせば、否が応でも木のようにまっすぐになりますからね」
そう言いながら楽しそうに笑っていたので、きっとそうなんだと思うことにした。
マキシムが来るのを待って、ライドさんとの改装の打ち合わせのために『鉄の台所』に向かったんだけど、その途中でマキシムにも、ロビーとゴスについて説明した。
「それ、うちの領地にも似たような場所があるよ」
横を歩くマキシムが言う。
「規則違反を繰り返す若い兵や、軽い罪を犯した者たちを放り込むんだって」
イタズラばかりする子供への、おどし文句にもなっているという。
「サラバインってとこなんだけど、『地獄の三番地』って呼ばれてるよ」
へぇ、覚えておこっと。
ライドさんと話し合った結果、事務所部分だけを先ず改装して、後は不具合があれば改修していく事で、話が決まった。
『鉄の台所』のハンクさん夫婦にも、昨日の騒ぎの説明に行ったんだけど、全然気にしてないからと言われたので、ちょっとホッとした。
ただ、無料券はカタログに載っているものなら、本当になんでも使えるのかと何回も念を押されたのには驚いた。もしかして、何にするのか決まったのかな?
***
お屋敷に戻ると商会の馬車が、王都から大きな箱が2つ運んできていた。
どちらも縫製部門からなんだけど、1つはわたし宛で、中身はブルッペを改良した物。大きさや形の違う物が全部で20着入っていた。
そのうち3枚は小さいから、子供用だ。これはわたしが試着するやつね。
手にとって広げる。見た感じはボリュームが減って、スッキリしてるけど、動きやすさはどうだろう?
それにこのままだと、可愛らしさが足らない気がする。改良が必要だわ。乙女の衣装は、可愛いが命よ!
とりあえずアメリさんとオレリさん、それにポレットさんにもブルッペの試着をお願いしないといけないから、明日にでもとなりの衛兵詰所に持っていこう。
ベルクールからきたガイド達は、時間が空くとスグにとなりの衛兵詰所で、訓練をしているからね。
色んな段取りを考えながら、もう一つの箱を見る。そこには、母さま宛の大量の商品が入っていた。その大半が、長い編み地にペチコートがくっついたものと、ズボンがくっついたもので、どれも少しづつ大きさや長さが違う。
「使い心地を試して欲しいんですって」
添えられた説明書を見ながら、母さまが一番上から手に取っていく。
「柔らかいけど、伸縮性はありそうね。こちらは薄手だから、暖かな日のディドレスの下に使えそうだわ。これは寝間着みたいね」
1枚1枚確認しながら、ブツブツ言ってるけど、いったい何枚あるんだろう?
あれ、絶対父さまの指示よね。わたしたち全員の分より、母さま1人分の方が、種類も数もダンゼン多いもの!
【おまけ】
『あこがれの調理器具』
「おい見ろ、保冷箱があるぞ!」
「あっ、ほんとだ!しかも金貨80枚もする!」
家内のエマと2人して見ていたカタログの最後に載っていたのは、大きな白い箱型の道具だった。
『保冷箱』
それは3年ほど前に隣国で発明された物で、うちの店に置いてあるような『氷の魔法陣を刻んだ板』をはめ込んだ『冷やし箱』とは、その性能が全然違うという話だ。
温度維持の魔法陣が刻まれた特別な箱に、『氷結の魔法陣に水の魔石を組み込んだ板』がはめ込まれていて、一番暑い季節でさえ、その中は冬の寒さの中と同じだという。
「王都なんかだと、夏に冷たい飲み物を出す店が大流行だと聞いたことがある」
一番小さい家庭用でも、結構な値段がするから、庶民にはなかなか手が出せない代物だ。
おそらくこの町でも保冷箱があるのは、ラベル様のお屋敷と、人が多い衛兵詰所ぐらいだろう。
「でも、調理器具、じゃあないよな」
冷やし箱は調理ではなく、保存する為の物なので、扱いは保管用具に入る。それは保冷箱も同じだろう。
「でもこの紙には、『カタログに載っているもの1点に限り無料』って書いてあるよ?」
渡された無料券の隅から隅まで、目をこらして見ていたエマが言う。
「ねぇ、聞くだけ、聞いてみちゃどうだろう?」
ダメだったら、それでいいからと。
「そ、そうだよな。載ってるんだし、書いてあるとおりなら…」
保冷箱があれば、作れる料理を考える。冷たいスープはどうだろう?野菜を香料入りの酢で和えた物を冷やして出せば、さっぱり食べられるのでは?
なにより、よく冷えた麦酒を出せば、それだけで売り上げが上がるはずだ。
オーブンには未練があるが、上手く行けば夏の売り上げを元に、分割払いにすれば何とかなるかもしれないし……
「聞くだけ、聞いてみるか」
もし、いけるなら、この夏は忙しくなるだろう。
(人を雇わないと、いけないかもな……)
それはうれしい予感だった。
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次作の投稿は3月26日午前6時を予定しています。
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