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契約と採用、不採用 さん

 都合のいい妄想話で盛り上がっているゴスとロビーを見ながら、考える。おばさんの話しでは、この2人はパシェット商会の会頭、つまりわたしに会いたいらしいから、どこかにおびき出すのはどうだろう?

 ちょうど借りる手続きをしたばかりの建物があるし、あそこに来るように仕向けて、後は……


 ふへへっ、面白くなってきた。まずはライドさんに、仕事終わりに新しく借りた建物を見に来るよう、伝言しないとね。

 それとゴスとロビーが雇うように言ってきたら、すぐには断らないようにも、お願いしておかないと。

 そうしないとライドさんのことだから、冷た~い顔で「貴族?そのたぐいは間にあっているので、必要ありません」とか言いそうだもの。


 まぁ、そう言われた時の2人の顔を見てみたいとは思うけど、どうせならあんな寝ぼけた考えが2度とできないようにしないとね。

 貴族ってだけで庶民がありがたがると思うなんて、大きな間違いだってことを、思い知らせてあげるわ。


 『いったん持ち帰り、商会頭と相談します』って言ってくれたら一番いいんだけど、言ってくれるかな?



 でもまずは準備だ。そのために必要な物を取りに、屋敷まで戻らないと。エドガーとマキシムの手を引っ張りながら、


「いいこと思いついちゃった。あのね……」


 小さな声で、2人に計画を伝える。


「いいな、それ」


「僕も良いと思う」


「でしょ?」


 3人でニンマリしていると、宿屋のおばさんが天井を見上げながら、ため息をつくのが見えた。



**



 屋敷に戻ってアルノーさんにライドさんあての伝言を頼んだら、次は家令のレノーさんに、お目当ての物が屋敷にあるか確認しにいく。


「それなら幾つかございますが、いったい何にお使いになられるのですか?」


  首をかしげるレノーさんに、新しく借りた建物の改装をする間、使いたいのだと伝える。これって、ウソじゃないからね。


「では、少しお待ちを」


 そう言ってどこかに行ったレノーさんは、戻ってきた時は少し大きめの箱を積み重ねて持っていた。箱の横には取り付け方法が書かれていて、今日の目的にちょうど良い物だと判る。

 あとは、下の階の食堂に声をかけておかないと。突然上で大きな音がしたりすると、きっとビックリするだろうし、お客さんにも迷惑だからね。



 建物1階にある食堂『鉄の台所』は、ハンクさんとエマさん夫婦がやってるんだけど、お願いして今日の夕方からは臨時でお休みにしてもらった。


 その代わりというわけではないけれど、ご挨拶も兼ねて、ハウレット商会の最新型調理器具(業務用)のカタログと無料券(1枚につき1点のみ無料)を1枚渡しておく。


「これから暫くは、改装とかで迷惑かけると思いますが、よろしくお願いします」


 言いながらペコリと頭を下げて、とりあえず今日の予定を伝える。


 わたし達が食堂から出て扉が閉まるとすぐに、


「コンロ、コンロにしようよ!見て、金貨50枚もするんだよ。ねぇあんた、絶対これが良いよ!」


「いやまて。ここはじっくりとカタログを見てから考えようじゃないか。まぁ、俺的にはオーブンが良いと思うがな。なんてったって、火加減が自動ってのがありがたい。それにこれだって、金貨48枚するぞ」


「でも、こっちは4つも火口(ひぐち)があるんだよ」


 なんて声が聞こえてきた。


(楽しそうだなぁ)


 なんて思いながら、2階に上がる。先ずは扉横の明かりを追加する。これはマキシムのアイデアだ。


「さて、どれから取り付けようかな?」


 運んできた箱を1つ取ると、説明を読む。書かれている効果は、なかなかステキだ。


「やっぱり、これだろ」


 キヒヒと笑いながらエドガーが箱を開けると、


「それを仕掛けるなら、ここがいいと思う」


 2人とも楽しそうだ。ゴソゴソと3人で手分けして、取り付けていく。それが済んだら、暗がりに紛れるためにみんなで黒いフードをかぶり、最後に2階の一番奥の部屋と、手前の事務所にする予定の部屋にだけ明かりをつけた。


 くふふん、ふへへ。これで準備は整った!


 **


 明かりを消してる部屋の窓から、こっそりと表のようすをのぞいていると、ライドさんの姿が見えた。その後ろからは想像どおり、ゴスとロビーがついてきている。

 2人はこっそりとつけているつもりだろうけど、どこから見てもバレバレで、周りの人から注目を浴びまくってることさえ判っていない。


(どんだけマヌケなのよ……)


 もちろん、ライドさんも気づいているけど、知らんふりしながら、建物へと入ってきた。ロビーとゴスが、道の反対側にある建物の陰からライドさんのようすをうかがっているのが見える。

 きっとライドさんが帰った後に、こっちに来るつもりなんだろう。



 2階に上がってきたライドさんは、事務所にする予定の部屋をひと通り見てまわると、


「なかなかいい感じですね。ところで、今度は何を企んでるんです?」


 床の仕掛けを見ながら、眉の間にくっきりと深いシワが寄った顔で聞いてきた。


「何も?」


 別にとぼけているわけじゃないよ。だって相手が何もしてこなかったら、何も起きないんだから。まぁ、たぶんというか、絶対してくるだろうけど。


「それで、私は何をしたらいいんです?」


 ため息をつくライドさんに、あの2人がこの建物に入ったのを見たら、衛兵さんを呼んでほしいとお願いして、ついでに危ないことはしないと約束する。


 ライドさんが建物を出るのを確認したロビーとゴスが、道を渡って建物に近づくのが見える。ほら、やっぱり来た!


 コンコン


 扉を叩く音が聞こえたと同時に、電気を全部消して、できる限り、大人っぽい声を出す。


「ライドさん、何か忘れ物ですか?鍵はまだ閉めてないので……」


 そこまで言ったところで、ガチャン、バンッと扉が開く音がして、2人が入ってきたのが判った。


「えっ暗い?う、わあぁ!」 ゴンッ、バン!


「なんでこんな…うぎゃあ!」バンッ、ドン、カッゴン!


 よし、かかった!

お読みいただき、ありがとうございます。

今週は何かと忙しいため、来週の投稿はお休みします。

そのため次作の投稿は.3月12日午前6時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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オーブンに一票 単純に手間削減になるから 建物の中に何作ったのかな 不法侵入になるのかな
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