排水施設と思わぬ才能! いち
先週は予約投稿の日を1日間違えておりました。申し訳ありません。(しかも3日ほど、気づかなかった……)
「ようやくご自分の仕事がなにか、思い出したようですね」
おはようございます。朝一発目に番頭さんから嫌味を言われている、商会頭のエミリアです。
エドガーもマキシムも用事があるとかで、アルノーさんと2人で砦跡に行くことになったんだけど、そのためにわざわざ馬車を出すのもなー、なんて思ったのよ。
だからライドさんの馬車に便乗させてもらおうと馬車の発着場で声をかけた途端に、冷たい視線と言葉を浴びてしまった。
「いろいろと、お世話になってます」
別に遊んでたわけではないけれど、一応、ペコリと頭を下げながら、馬車に乗り込む。実際、砦跡の改装はライドさんに任せっぱなしにしてたので、しょうがない。
「お仕事の話も、いろいろとあるでしょうから」
そう言ってアルノーさんが御者台に向かったおかげで、今、馬車の中はわたしとライドさんだけだ。うげー、気まずい……
「でもまぁ、良いでしょう。ちょうど排水管と排水用の水路の事で、相談したいと思っていましたから」
向かい側に座りながら、ライドさんが紙の束を差し出してきた。そこには井戸の場所と、水を使う施設の場所、そして排水管の位置が描かれていた。
排水管は厨房や洗濯、お風呂なんかで使った水を流すための物で、その先は用水路につながっている。砦跡の場合は、外周りにある水堀がその役割をする。
そこからさらに近くの川と用水路をつなげるんだけど、その前に汚れた水をキレイにしないといけないのよね。
これを破ると、施設として使えなくなるだけじゃなく、罰金まで取られることになるから、気をつけないといけない。
水をキレイにする方法はいくつかあるけれど、『ワレアブラ』を使った沈殿浄化法が1番安上がりなので、それを使っている地域は多い。
そしてライドさんが言うには、どうやら肝心の水堀に問題があるらしい。
「かなり長い間放置されていたので、その大半が雑草と土砂で埋まっていますし、川へとつなぐ用水路に至っては、跡形も無いのが現状です」
説明を聞きながら、草ボウボウな砦跡の周りを思い出す。
(あーっ、そういえばそんな事になっていたような……)
「ですから水堀の雑草の片づけと、掘り直しの予算を認める書類に署名をお願いします」
渡された紙には、火魔法が使える魔術師1人と、土魔法の魔術師2人に支払う予算が書かれていた。しかも結構高い。1人につき、1日銀貨6枚。ガイドの1週間分の給金の、2倍の金額だ。
「これって、実際に見てからで良い?」
だってコレ、わたしが掘っちゃえば、タダよね?
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「2か所ある井戸には、すでに高圧噴射型の魔道ポンプが取り付けてあります」
砦跡に着くと、ライドさんが水回りを案内しながら、説明を開始した。洗濯場と厨房、そして2階と3階に作った浴場へと給水管と、水堀へつなぐ排水管の工事は、全部終わっているという。
「とりあえず川につなぐのではなく、近くにため池を2つ作り、浄化玉を使用する方式を取りたいと思います」
用水路を川につなげなければ、キレイにする度合いが少し緩くなる。1つ目の小さなため池で水を浄化して、2つ目のため池で、さらにキレイにするのだ。
そのために使う『浄化玉』は、特殊な容器の中に、水をきれいにしてくれる虫の卵や植物の種が何種類も詰められた物で、それ程広くない地域の排水浄化には欠かせないものだ。
「できれば、フルリカが入ってないのが良いな」
ちょっとした希望を、ライドさんに言ってみる。だってフルリカは、水底に溜まったゴミをきれいにしてくれる虫だけど、成虫になるのが早いのだ。
おまけにその成虫達ときたら、洗濯物に貼りついたり、人の顔まわりに寄ってきたりするから、冗談抜きに鬱陶しい。
「まぁ、あれに関しては、ほうっておいても来ますから、入ってなくても大丈夫でしょう」
ライドさんが、少し考えて答える。
「代わりに羽シマケララが余分に入っているものを購入しましょう」
次に、外水路を見に行く。確かに枯れ草と土砂で、何か所も途切れている。かろうじて水路が見える所も土砂のせいで、底に敷かれているはずのレンガがぜんぜん見えない。
くふふん。だけど乙女の魔力は、優秀なの。これぐらい、あっという間に片づけちゃうもんね!
バッサン、ドッカン、ゴッソン!
堀の中の土を枯れ草ごと、まとめて外に放り出す。そのままだとジャマだから、平らにする。少し地面が高くなったけど、問題ないよね。
さて。どうせだから、このままため池まで作ってしまおう。
ドッサン、ゴッソン、バン!
短い用水路と、1つ目完了。
ベッコン、バッコン、ドンッ!
ふぅ。こんなもんよね。
振り向くと、大きく口を開けすぎたせいで、いつもより5割増に伸びたライドさんの顔があった。
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さて、用水路も片づいたうえに、面白い物まで見れたから、後は改装が済んだ部屋でも見て回ろうと思っていたら、ワンコ兄弟がこっちを見ているのに気づいた。
なんか用かな?なんて思っていたら、弟がチョイチョイと手招きをする。
「なに?なんか用事?」
「これって、仕事になるか?」
照れくさいのか、そっぽを向いたダミアンが突き出してきたのは、スケッチブックだ。広げてみて、驚いた。
そこにはロックベアやホーンウルフ、 バットなんかが、描かれていた。少し荒々しいけど、どれも今にも動き出しそうだ。
「得意な事があったらって、前に言ってただろ。俺が得意なのは、これぐらいだから」
「ヒャッホー!絵師だ!」
バトルカードの絵師をどうするかという悩みが、これで一気に解決だわ!
あまりにも嬉しかったから、その場で思わずスケッチブックを高々と上げて、クルンクルンと片足連続回転を披露する。
そして親指を立てて、ダミアンに突き出す。
「採用!」
いや、ここでこんな才能が転がり込むとは。ホント、『待てば、情の戻りあり』とは、よく言ったものよね!
ワレアブラは鉄バクテリア、フルリカはユスリカ、羽シマケララはシマトビケラ類だと思っていただければ。
また『浄化玉』に関しては、日本バイタルさんの水質浄化システム『バイオ・エッグ』を参考とさせていただきました。




