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乙女の衣装は、むずかしい にぃ

「トモヨさん。『ハカマ』って、出せる?」


 お日さま色のカボチャズボンをヒラヒラさせながら、聞いてみる。


「袴?いいけど、どんなのがいるの?」


「ふぇっ、『ハカマ』って何種類もあるの?」


「そうねぇ。基本は馬乗り袴と行灯袴の2つだけど、その他にも伊賀袴や奴袴、カルサンなんかがあるから」


 まぁ、女性用で中仕切りがある物だったら、このあたりかしらねと言いながら出してくれたのは、見た目はブルッペよりも、ずっとスカートに近い物だった。しかも長い!


「腰回りはこんな感じのヒダヒダなんだけど、長さはもう少し短くて、膝下や、足首で絞ってあるの」


 出してもらった『ハカマ』を使って、説明する。腰周り布は巾が広く、同じ巾の紐がついていた。その紐を引っ張りながら、説明を続ける。


「昔はこんなふうに紐を、前で結んでたらしいんたけど、結び目が邪魔だったり、ほどけ難くて困ったから、今は横でボタンで止めるようになってるの」


 得意技実演の後、オランドさんに頼んで見せてもらったブルッペには、左側に6個のボタンが付いていた。


 そういえば前に冒険者のお姉さんたちから、ダンジョンのトイレについて聞いた時、ダンジョンに潜るときは、いざっ(トイレ)て時のために、ブルッペのボタンは2つしかとめないって話していたっけ。

 下着の紐も、ひと引きでほどける結び方にしているって言ってたから、その事も、なんとかしないといかないかも……


「これの脱ぎ着を、簡単にしたいんだよね」


「伸び縮みする紐とかあれば簡単なんだけど、そういうのって、ないの?」


「大沼カエルの皮はよく伸びるよ。でもあれは、あんまり出回らないし、独特なにおいがするから、服に使うのにはあんまり向かないと思う」


 大沼カエルは、隣の大陸にあるレストウィック王国で養殖されていて、肉も皮もそれなりの量が入ってくるんだけど、皮は普通のお店には並ばない。

 そのほとんどが、荷馬車用の荷物固定紐に加工されるからだ。それ以外だと、ジャックさんが使っているパチンコなんかの武器や、染色用の長手袋とかになる。


「そうねぇ。これなんか、もしかしたら参考になるかも」


 しばらく考えていたトモヨさんが、そう言いながらポンッと出したのは、変わった形の上着だった。前ボタンで両方の身ごろの下の方にポケットがついている。


 でも、そんなことよりも目を引いたのが、裾や袖口、襟などに編み地が縫い付けてあることだ。特に袖口。

 キュッとせばまったそれは、そのまま、腰部分に使えそうに見えた。

 こんなふうに伸縮性の強い糸を使って編み地を作って、腰部分に縫い付ければ……


 編み針を使う編み物は、昔からある。地域によって特徴のある模様や柄があるし、毛糸を使った防寒用品はその暖かさから、寒い地域ではなくてはならない物だ。


 そんな編み物が、手動だけど機械によって簡単に早く出来るようになったのは、母さまが子供の頃らしい。


 最初は簡単な編み地しか出来ない上に、人の手もかなりいったらしいけど、今では改良されて、靴下や手袋なんかに使われている。

 最近の『機械編み』製品の中には、すごく薄い靴下や、手袋なんかもある。


 だけど、布地と編み地を縫い合わせた物は、これまで見たことが無かった。


 上着の裾や袖を何度も広げて見る。これを腰部分に使ったら、脱ぎ着も簡単だ。

 裾はこれまで通り、布地にボタンでも良いし、腰と同じように編み地をつけても良い。


 それに、こんなふうに上着に着けたり、下着にも使えそうだ。

 あれ?もしかして下着問題も、これで全部解決するかも?まぁ、まずはズボンに集中しよう。

 上着や下着に関しては、縫製部とデザイン部が勝手に考えるだろうから、そっちに任せることにしよう。


 だって、最大の問題は、ここからだからね。



 **



「ほーら、やっぱり忘れてる!いつもの事だけど!」


 目が覚めた途端に、ベッドの上で叫んだ。

 夢の中でトモヨさんと食べたオヤツは覚えているのに、なんでか話していた中身は、ちっとも覚えてないのだ。

 今回だって、すんごい発見をしたはずなのに、肝心の所がポッカリポンと抜けている。


「くーっ、おもいだせ、わたし!」


 言いながら振り上げた手の中に、何か握っているのに気づいた。見ると、寝る前に脱いだ靴下だ。

 これはきっとヒントだ。そうに違いない。そうだよな、夢の中のわたし!よし、後は思いだすだけだ!



「思い出せ、思い出せ、出せ出せ出せ出せ、思い出せ」


 言いながら、両手で持った靴下を上げたり下げたりしながら部屋の中を歩き回る。


「エミィ。悪いけど、靴下を振り回しながら、変な踊りをするのはやめてもらえるかしら」


 なかなか朝食を食べに来ないわたしを呼びに来た母さまに言われたけど、


「もう少しなの、母さま。あとチビットで、でてきそうなの!」


「エミィ、トイレは向こうよ」


「いや、そうじゃなくて!」



 ふふん。あの後なんとか『布地と編み地を縫い合わせる』を、思い出せたわ。

 後はデザインを描きまくって、送受信板で縫製部に送るだけ!


 まぁ、実際に作ってみないと着心地なんて判らない。でも、これは良い感じに仕上がりそうな予感がする。


 そうだ!上手くいって、型紙と材料がそろったら、こっちで針子さんを雇って縫ってもらっておう。

 だってロックベール領にも、女性の騎士や冒険者はたくさんいるからね。ここで作って売れば良い。ただし、こっちは祖父様に丸投げにしないと。


 だってパシェット商会は、楽しい玩具の商会だからね。そろそろ砦跡に行って、進行状況を見なくっちゃ!


エミィちゃんが『編み地』と言っているのは、今回の場合『一目ゴム編み』もしくは『二目ゴム編み』の事です。一般には『リブ編み』や『リブ』の方が通じるかもしれません。

ジャンパー等の裾や袖口等に、よく使われている物です。(前回あとがきの〇〇ジャンは、スタジャンの事です)

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