乙女の衣装は、むずかしい いち
「あのね、今、動きやすい女の子の服を考え中なの」
「あら、それは責任重大ね」
いつもの夢の中、トモヨさんと2人で赤い布が敷かれた台に座って、黒くて四角い塊を口に放り込む。
これは豆で作った『あん』を海藻で固めた『ようかん』というお菓子だ。
海藻を食べるなんて、初めて聞いた時にはビックリしたけど、ほどよい甘さが渋いお茶とよく合って、おいしい。
(稲荷社神国って、隣の大陸の真ん中にあるから海なんて無いのに、どうやって食べれる海藻なんて見つけたんだろ?)
バブゥで出来た小串にヨウカンを刺しながら、不思議に思う。
そもそも、稲荷社神国の歴史はそんなに古くないけど、独特の文化で有名だ。
『紙で出来た扉や窓』や、『ほどいたら1枚の布に戻る服』、『麦で出来た飴』などなど、本当かどうか判らない、不思議な物とウワサで溢れている。
だけど今日聞きたいのは、衣装についてだった。元々ブルッペは稲荷社神国の『ハカマ』と呼ばれるズボンを参考にしたものらしいから、それについて教えてもらおうと思ったのだ。
だって新しい衣装は、ツアーに参加する女の子だけの問題では、なくなったんだよね。
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実は今日の昼、わたしは祖父様にエドガー、そしてマキシムと連れ立って、屋敷の隣にある衛兵宿舎に行ったの。そこの演習場を使って、ガイド達がそれぞれの特技を実演して見せてくれる事になっていたからね。
もちろん、給金は今日の分から支払われる。この後はツアーが始まるまでの間に、宣伝用の看板絵のモデルをしたり、ツアーのルートや注意事項を決めたり、宣伝のために各地を周ったりといった仕事があるからね。
ちなみに看板絵に関しては、この場にも似顔絵描きの絵師さん達が5人、スケッチブックを持って演習場の端に待機している。得意技を看板絵に入れてもらうためだ。
その他にも、宿舎に住んでいる衛兵さんや、
その家族も見物に来ていた。
演習場では元冒険者の9人が、的を固定したり、藁束で作った人形を立てたりと準備の為に走り周っていた。その側には、どうやって持ってきたのか不思議に思うほど、大きな岩が置いてある。
実演は、元冒険者から始まった。
照れくさそうに片手を上げながら出てきたジャックさんが、幾つもの火の玉を操りなから、次々と5つある的に命中させて燃やしていくと、すぐさまリュカさんが水をまとった弓矢を放って、その火を全部消していく。
観客から「おぉ!」と声か上がり拍手がわく。もちろんわたしたちも、拍手した。
その後も、次々と得意技が披露されていった。ロイクさんが風の刃で藁束人形を片っ端から切って舞い上がらせると、飛び散った藁束を、トマさんが炎をまとった槍で刺したり、アンリさんが鉄球、ユーグさんがパチンコを使って撃ち落としていく。すると、それをブリスさんがものすごく早く走って、次々と回収していった。
みんな拍手喝采だ。
最後はボブさんが大岩を持ち上げ放り投げると、レノさんがそれを盾で受け止め、跳ね返した。
ここでも、大きな拍手がわいた。
連携が取れているし、今日のために色々考えてくれたのが、よく判る。何より、見ていてすごく楽しいから、ツアーの宣伝に使えるかもしれない。
宣伝だから基本は無料だけど、最前列には椅子を並べて、そこだけ有料にすれば経費も抑えられるし……くふふん。これ、すごく良いかも。もちろん、何か特典は受けるわよ。そのためにも、思わず欲しくなるけど、そこに座らないと手に入らない物を考えないとね!
次は元騎士の番だ。
1番手は、ホソホソなバルビエさん。横にはブシェ兄妹のオレリさんがいる。
パンッ! ボッコン。
オレリさんが手を打ち鳴らすと、地面から大きさや高さが色々な、スプーンのような物が5本生えた。
それに向かって、バルビエさんが弓矢を飛ばす。次々と放つけれど、どれもヒョロヒョロと飛んでいるから、絶対に的まで届かないと思った。だけど不思議なことに、全部が的の中心に向かって行き、しかも深々と突き刺さったのだ。
その様子にみんなが呆然としていると、今度はデュモンさんとオランドさんが前に出てきた。その横に、今度はアメリさんが立っている。
スプーン的はいつの間にか消えて、矢はバルビエさんの手元に戻っていた。
デュモンさんとオランドさんがアメリさんに合図を送り、走り出すと同時に、アメリさんが前に出した手を、パンッと打つ。
すると走る2人の行く手を邪魔するように、土の柱がボコボコと現れた。それをデュモンさんは風を、オランドさんは炎をまとった剣で、どんどん切り倒しながら進んでいく。
最後に大きな柱を二人がかりで切り倒した時には、大きな拍手が起きた。
最後はブシェ兄妹。まずは兄のマルタンさんが、自分の身体程もある鉄鎚をブンブン振りながら、ボブさんが放り投げた大岩に近づくと、大きく振りかぶる。
ガッゴン!
なんと一撃で大岩が粉々になり、欠片がそこら中に飛び散った。
これにも大きな拍手がわく。
そしてついに双子の妹、アメリさんとオレリさんの番になった。これまでしていた補助から、彼女たちが土系の魔術を使うのは判っている。
2人は演習場の真ん中に背中合わせに立つと、足を広げて腰を落とし、腕を大きく広げる。そしてアメリさんが片手を地面に着けながら、その声を響かせた。
「障壁小、展開!」
ドガガガガッ!
2人の周りを囲うように、土壁が現れた。その大きさは演習場の半分をしめ、高さはわたしの背丈よりも、ずっと高い。見ていた人たちが、思わず手をたたこうとしたその時、再び声がした。
「小展開・重!」
すると土壁の外側に、さらに高い壁が出来る。そのあまりの大きさに驚いた観客の口が開いたまま、言葉もでない中、壁の向こう側から、重なる声が響く。
「「解除!」」
ドザン!
一瞬でさっきまであった壁が消え、なにも無かったようなまっ更な地面に、2人が立っていた。同時に粉々になって転がっていた岩もかたづいて、欠片も残っていない。
次の瞬間、これまでで一番大きな歓声と拍手が起きた。
『小』でこれってことは、『大』ならどれ位すごいんだろう?なんて思いながら手をたたいていると、
「なぁ、こんなに凄いことが出来るのに、なんで騎士団をやめたんだ?」
エドガーが不思議そうに、しかもバカデカい声で言う。祖父様、今さらエドガーの口を押さえても遅いし、それ、わたしも思ったから。
だって他の人達は、身体に具合が悪いところがあるのが判るんだけど、あの三人には、そんなところが無いのよね。
そして当然だけどバカデカい声は、2人の兄、マルタンさんにも聞こえていた。
「辞めたんじゃあなくて、辞めさせられたんだ。それも妹達の見た目が、好ましくないという理由でな」
わざわざエドガーの前に来たマルタンさんが教えてくれた内容に、わたしたちはビックリした。
えっ?!能力じゃなくて、見た目が好みじゃないってだけで、クビにした人がいるの?
「もしかして、その人バカなの?」
思わず声に出る。
「そう、バカなのさ。しかも、そいつはいけ好かないバカなんだ」
マルタンさんによると、どうやらバルザック王国では、防御に特化した騎士は少なく、しかも攻撃を得意とする騎士よりも下に見られるらしい。それは強さを賛美するベルクール騎士団でも、あまり変わらないという。
「なんと勿体ないことを!」
「俺もそう思う」
今からでも、うちの騎士団に入って欲しいくらいだと祖父様が言う横で、エドガーも頷いている。
「うちとしては、大きな損失だよね」
残念ながら騎士団の人事は、団長の権限だからと肩をすくめながら、マキシムが説明してくれる。
どうやら今の騎士団長は実力はあるけど、少し見栄っ張りらしい。式典で整列した時の見栄えを気にして、制服を華やかな物に変えたり、体型や身長が一定基準に満たない者の出席を認めなかったりしているんだって。
確かにアメリさんやオレリさんの体型だと、ゴテゴテした飾りや、ブルッペはあまり似合わない。そして、それは小さな女の子にも当てはまる。
だけどそれなら、似合う服を作れば良いだけだよね?
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「ということで、考えることが増えたの」
言いながら、トモヨさんが出してくれたスケッチブックに絵を描いていく。
「上はすぐに思いついたの」
むかしに流行った胴着。絵本の挿絵の王子様なんかが、よく着ているやつね。
あれの丈を長くするか、長めのフリルをつけて、少しだけ刺繍を入れてみるのはどうかと思ったのよね。
普段着ているブラウスの上から着れるし、両脇に大きな切り込みを入れておけば、動きやすいと思うのよ。
あとは、腰にはちょっとした武器がさせるベルトを巻いても良いかも。
言葉にしながら、次々に描いていく。
問題は、その下にはく物をどうするかってことなのよね。
とりあえずブルッペを描いて、トモヨさんに説明しよとしたけど、あんまり上手くいかない。だって何回描き直しても、ヒダヒダがシマシマ模様にしかみえないのよ……
だったらとトモヨさんのマネをして、ブルッペを思い浮かべながら出てこいと強く思う。すると。
ポンッ!
やった、成功した!と喜んだのは、ほんの一瞬。だって出てきたのはカボチャみたいなズボンだ。
イヤ、確かに挿絵の王子様もこんなズボンをはいていたけど、今欲しいのはこれじゃない……これじゃないんだ……
お読みいただき、ありがとうございます。
次作の投稿は1月15日午前6時を予定しています。
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誤字報告、ありがとうございます。
単に文字数の問題(1話2000〜3000文字が目安)なんだけど、思いついて無いからここで切ったと思われるのもちょっとしゃくなので、少しだけネタバレを。〇〇ジャンなんかに使われている、アレを使います。




