ガイドだホイ! にぃ
危ない!予約投稿するのを忘れてた!
「我々に、これをしろと?」
あっけにとられた顔でわめいているのは、茶色いヒゲのおじさん。マキシムが連れてきたガイド候補の一人だけど、そんな言い方はないんじゃない?
せっかくの顔合わせだからって、張り切って『ガイドだホイ』を歌ってくれた元冒険者のガイド達が、しょんぼりしてるじゃない。
「なら、デュモン。貴方は帰って良いよ」
そしてマキシム。それはいくらなんでも、結論を出すのが早すぎると思う。
「この程度のことさえ出来ないのでは、話にならないからね。今回の求人は、ダンジョンのツアーガイドだ。しかも、子供向けの」
指を立てながらにっこり笑っているけど、言葉が霜焼けになるほど冷たい。話が終わる頃には、デュモンさんは全身霜焼けで、カイカイ状態になるのでは?と思ってしまう。
「君たちは、あくまでも客を楽しませる側だということ。間違っても、自分達が連れて行ってやっている、案内してやっているなんて、思う者は必要無いからね」
まぁね。せっかくの冒険なのに、上から目線のガイドがいたら、楽しくないのは確かだ。
「しかし、我々は歴史あるベルクールの騎士団で……」
「元、だろ、デュモン。なぁ、マキシム坊ちゃん。これとあたしらを一緒にしないで欲しいんだが」
顔の右半分を仮面で隠している赤毛の女の人が、デュモンさんを押し退けるようにしながら、言ってきた。坊ちゃんと呼ばれたマキシムの顔が少し引きつったことには、どうやら気づいていないようだ。
「そうだな。オランドの言う通り、こいつの言葉が我らの総意だと思われるのは困る」
「同意」
「わたしも」
それに続いたのは、よく似た男女3人組だった。女性2人は双子らしく、三つ編みとしっぽ結びという髪形以外は、細い目から着てる物まで、そっくりだ。
3人とも大人としては背が低くて、がっしり、というか丸太に手足を付けたような身体つきをしている。
「なっ、お前たちはあんな事をして、平気だというのか?!」
「平気どころか、むしろ大歓迎だよ。あたしらは子供向けのツアーガイドとして、ここに来たんだからね」
オランドと呼ばれた赤毛の女性が、ニマリと笑いながらマキシムの言葉を使って答えると、
「そうだ。嫌ならデュモン、お前一人で帰れ」
そっくり3人組の1人であるおじさんも、それに続く。
「あー、すまん。俺は歌えねぇわ」
その言葉に、ようやく仲間ができたと思ったデュモンさんが、期待に満ちた視線を向けた先にいたのは、すごく痩せた灰色のおじさんだ。
「いや、歌いたくないってんじゃなくて、ひどい音痴なもんで。けど、あの動きは出来るぜ」
骨と皮だけで出来てるんじゃないかと思う程細いおじさんは、笑いながら、手足を大きく上げて歩いてみせる。
そのおかげで、しょんぼりしていた元冒険者のおじさんたちも、ちょっと元気になった。
「ぐぅっ……」
味方が1人もいないと判ったデュモンさんが、悔しそうにしながら、なぜかわたしを睨んできた。別に良いけど、それってなんの役にも立たないからね。
「お祖父様がこちらに着くまで、戻るのは先延ばしにしても良いよ」
マルク翁は寄るところがあるとかで、明後日到着するらしい。
「でも、結果は変わらないと思うけどね」
そう。このツアーって、グリヴの町の冒険者ギルドとわたしたちが主催だから、こちらの意向に合わない人は雇えない。マルク翁がいても、いなくても変わらないのよね。だけど。
「さすがベルクール騎士団。この程度のことさえできないとは」
アルノーさんが小さく笑いながら言ったとたん、デュモンさんの態度が変わった。
「で、出来るに決まっている!たかだか、歌だろうが!」
これにはさすがに、ビックリしたわ。えって言った形に口が開いたまま固まったわたしに、ロックベール辺境伯家の騎士とベルクール辺境伯家の騎士って、仲は良いんだけど、対抗心もすごくあるんだよって、マキシムが耳元でささやく。
なるほど、ナットク。ついでに急いで開いた口を両手で閉じる。
「でしたら、問題ないですね。すでに採用が決まった方達には伝えてありますが、皆さんそれぞれ、組名と二つ名を考えて下さいね」
わたしが言うと、デュモンさんがアルノーさんの方を、ちらっと見る。二つ名なんて考えたくないだけど、嫌だとも言えないって顔だ。
まぁ、『生真面目騎士』って役柄でも良いんだけと、それは言わずにいようっと。できるだけ楽しいものにしたいから、大人には頑張ってもらわないとね。
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さてこうなると、後は衣装よね。もちろんガイドのではなく、参加する女の子達の。
冒険する時の靴は『快速シリーズ』で問題ないけど、ドレスはかなり邪魔だと思う。だけど小僧達と同じ格好なんて、絶対イヤだ!
ということで、デザイナー・エミィちゃん、頑張って考えよう!
ふひょひょ、どんなのにしようかなぁ〜。レースやフリルは、引っかかったりしたら危ないから使えないけど、色や柄は選べる。
女性騎士さん達の服装は、どちらの国もよく似ている。ブルッペと呼ばれるズボンを履いて、上はブラウスと上着を着ている。
もちろん冒険者のお姉さん達も、ブルッペを履いていた。
これは元々、稲荷社神国の衣装を真似た物らしい。腰のところでたっぷりヒダがよせてあって、足首や肘下辺りで細く絞ってあるから、体型がわかりにくい上に、動きやすい。
だけどで、脱ぎ着するのに、少し手間と時間がかかるらしい。
なので簡単に着れて動きやすく、そしてもちろん乙女の好みに合う物を、考えるのよ!
お読みいただき、ありがとうございます。
年末年始何かと忙しいので、来週の投稿はお休みいたします。
その為、次作は1月8日午前6時の投稿を予定しています。
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誤字報告、ありがとうございます。
ブルッペは初期のブルマーと絞り袴、もしくはモンペを組み合わせた様な物だと思って頂けたらありがたいです。
男装でない限り、女性が男物のズボンを履くことは無いという設定です。




