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ガイドだホイ! いち

 ダンジョンツアーのガイド候補が揃ったので、明後日にでも面接してほしいと、ギルド長のモリスさんから連絡が来た。

 ギルド長が選んだ人たちなら問題ないと思うけど、ツアーの主催者のひとりとしては、やっぱり会っておかないとね。


 約束の日、冒険者ギルドへと向う。もちろん、エドガーと祖父様も一緒だ。ライラさんの案内でモリスさんの執務室に通され、しばらく待っていると、バタン!扉が開いて、陽気な歌が聞こえてきた。


「ガイドだホイ、ガイドだホイ、俺たちゃガイドだホイー」


 おじさんが次々と歌いながら部屋に入ってくる。それも歌のリズムに合わせるように、大きく腕を振り、足を挙げて歩いていて、なんだかとても楽しそう。


「ベテラン冒険者の俺たちが、案内するぜ。任せておきな、素敵な冒険。ドキドキハラハラが待ってるのさ」


 全員で9人。中には花型の眼帯をしたおじさんや、おでこに大きな傷があるおじさん、そして片足が無くて代わりに木の義足を付けて杖をついているおじさんもいる。


「ガイドだホイ、ガイドだホイ、俺たちゃガイドだホイー」


 みんな照れくさそうに、だけど一生懸命歌っている。

 その後ろからモリスさんが、同じように歌いながら入ってくると、全員が1列に並んで、お辞儀をしてくれた。


「こちらが、ガイド候補です。それぞれの経歴は、こちらに」


 ライラさんが、書類の束を配ってくれる。そこには名前と年齢、そして身体の特徴が書かれていて、おじさんたちが書類の順番通りに並んでいるのが判る。

 ふんふん、先頭のすごく大きいのがボブさんで、眼帯をしてるのがジャックさん、と順番に読んでいたら、


「ギルド長、さっきの歌はなんだ?」


 祖父様が眉毛の間をシワだらけにして聞いたもんだから、モリスさんは批判されたと思ったようで、とたんに顔色が変わった。


「すいません。いかんせん、厳つい顔をした者ばかりなもので、少しでも親しみやすさを持たせようと思ったのですが、ダメでしたか……」


 しょんぼりしながら、言う。ほら、もう〜。さっきまであんなに楽しそうだったのに。それに、今日の為にみんなわざわざ練習してくれたのに、なんでそんな言い方をするかなー。


 横目で祖父様を睨みながら、「いや、全然ダメじゃないからね!」って言おうとしたんだけど、先を越された。


「えー、でも俺は良いと思うけど。だって楽しいし、すぐ覚えられるし」


 エドガーが立ち上がって、さっきの歌と動きの真似をしたのだ。エドガー、よく言ってくれたわ。おかげでモリスさんに、笑顔がもどったもの。なので、わたしは後押しするだけにしておく。


「そうですよ、歌は楽しくて良いと思います。それにお花の眼帯も、素敵です!」


 横で座り直したエドガーも、うなずいてる。おかげでおじさんたちの緊張もほぐれたみたいだから、このまま仕事の説明もしておこう。


「ギルド長から聞いているかもしれませんが、ガイドは3人一組で行います。そして、それぞれ組名と個人の二つ名を決めてもらい、その役柄に合わせて、ちょっとした演技なんかも、してもらえたらと思っています」


「組名はともかく、二つ名に演技、ですか?」


「はい。物語に出てくるような、カッコいいのでも、ちょっと怖い感じでもいいですよ。そして、その二つ名に合わせた言葉づかいや、動きをしてほしいんです」


 別にそれ程むずかしいことではないと、説明する。『無口で無愛想』な役でも良いしね。


「二つ名なんて、なんだか上位冒険者みたいだな」


「なぁ、『岩熊殺しのロイ』なんてどうだ?」


「『片目のジャック』とは、俺のことよ!」


「お前、そりゃあ見たまんまじゃねえか!」


「なら、『花パッチのジャック』てのは、どうだ?」


 最初は戸惑っていたおじさんたちだけど、すぐに楽しそうに話しだした。


 もちろん全員の採用が決まった。その後は細かい仕事の内容が書かれた書類を渡し、それに納得したなら署名をしてギルド長に渡すようにお願いして、面接は終わった。

 


 その後、わたしたちを見送るために表まで一緒に来たギルド長は、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。みんなそれぞれの事情から冒険者を続ける事が厳しく、引退を考えている者達なんですが、見た目や怪我のせいで新しい仕事に中々就けずにいて……」


 しかたがないから薬師の依頼品の薬草集めや、他の冒険者が捕らえた魔獣の解体、浅い階層での鉱石の採掘なんかをしているらしい。 

 そんな彼らにとって、週に銀貨3枚(1万5000デル)の給金がもらえる仕事は、とてもありがたいのだとギルド長は言う。



「ベテランなのは間違いないし、腕も良い上に、人柄も自信を持って保証出来る連中なので、ほんとにありがたいです」


 もちろんツアーの安全のために、それぞれの不得意だったり不自由なところを補うよう、組分けをすると約束してくれた。


 **


 9人のガイドが決まったけど、そもそもガイドは全員で15人雇う予定。そして残りの6人はバルザック王国から来ることになっている。

 全員、引退した騎士で、もちろん冒険者の資格も持っている。しかもその半分は女性だ。 


 マルク翁やマキシムが、あっちでダンジョンツアーの話をしたら、是非参加したいって子がたくさんいたんだけど、そのうちの三分の一は女の子だと聞いたのよ。だから女性ガイドも入れようという話になったのだ。


 だって『トイレに行きたい』とかもそうだけど、女の子としては、おじさんにはちょっと言いにくいことが、色々あるからね。


 その6人はマキシムとマルク翁が迎えに行ってくれていて、明後日には到着する予定。すでにモリスさんには伝えてあるけど、念の為に手紙を書いておく。ウッカリ、ポッカリを防ぐには、こまめな連絡しか無いからね!

 


 ガイドとは別に、木製遊具の監視員も10名雇うことになっている。5人ずつの交代制で、遊具の点検や補修の他に、遊具の安全な使い方の説明や、危険な行為を止めたりするのが仕事。

 こっちはシモン伯父様が派遣を約束してくれているけど、いつ来るんだろ?


 あと、嬉しいことに、ディディエさんをそのまま木製遊具の管理人として、雇える事になった。

 事務仕事が早くて助かっているうえに、木製遊具の補修もお手のものだって言ってたから、すごく心強い。


「こちらで職に就いたことですし、いっそ、両親も呼びましょうかねぇ」


「やめてくれ」


 楽しげに言うディディエさんに、そう返したのは祖父様だった。しかも、すんごく嫌そうに。


「エミィを見たあいつが、どんなことになるか、考えただけで頭が痛くなるわ……」


 苦いものでも食べたみたいな顔して、ぶつぶつ言ってるから、ディディエさんの両親と知り合いだとは思うけど、そこまで嫌がるなんて……

 こうなると、いったいどんな人たちなのか、だんだん気になってきたわ。

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― 新着の感想 ―
ベテラン冒険者の方々は楽しげだけど、引退した騎士さんたちはダンジョン案内大丈夫かしら?
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