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魔獣の襲撃と、感謝の言葉

 その知らせは、夕食の最中に舞い込んできた。


「大変です。オングル村がホーンウルフの群れに襲われました!」


 ガチャン!


 駆け込んできたアルノーさんの言葉に、持っていたスプーンが手から滑り落ち、皿の中に沈む。

 ホーンウルフは額に長く尖った角を持つ、獰猛な魔獣だ。普段は森林で群れを作って行動しているけど、獲物の少ない時期は家畜を狙って人里に来たりする。


(たしか人が襲われたことも、あったはず……)


 村長さんをはじめとして、オングル村のみんなの顔が浮かぶ。


「きっと大丈夫よ、エミィ」


 震えがとまらないわたしを、母さまが優しく抱きしめてくれるけど、怖くて仕方ない。仲の良い友達が心配なのだろう。エドガーの顔も、真っ青だ。


「既に応援の騎士と兵士が馬で向っているから、心配要らない」


 アルノーさんから更に詳しい報告を受けた祖父様は言うけど、それでも不安は消えない。


(みんな無事に、寄り合い所の中に逃げていたら良いんだけど……) 


 内側の魔獣避けは、ホーンウルフなら十分足留め出来るはずだし、師匠の魔法陣が刻んである寄り合い所の中に入ってしまえば、間違いなく安全だ。


(騎士さんや衛兵さん達が魔獣をやっつけるまでの間、そこに閉じこもってくれれば、きっと大丈夫!)


 両手をぎゅっと握りながら、みんなの無事を祈った。


 **


 寝る時間になっても、まだ新しい連絡は来ない。でも気になって眠れそうにないから、応接間の長椅子に座る母さまの横に、ずっと引っ付いていた。ときどきポコポコと動く母さまのお腹をなでていると、不思議と気持ちが落ち着いてくる。


(もしかして、はげましてくれてるのかな……)


 そう思ったら、張りつめていた気持ちが、少しゆるむ。

 村の友達を心配するエドガーには、レノーさんが付きっきりで、いろいろと世話を焼いていた。



 バンッ!


 玄関扉が開く音がして、声が響く。


「討伐は成功、全員無事です。既に炊き出しの食料と薬師も、村に到着しています!」


「良かったぁ〜」  


 聞こえてきた報告に、肩の力が一気に抜けて、身体がずべずべと長椅子に沈んでいく。しかも、ホッとしたとたん、大きなあくびが出た。

 そのまま長椅子に沈んでしまいたいのを、何とかガマンして部屋に向かうと、母さまに少しだけ手伝ってもらって、ベッドに入った。




 だけど朝になって詳しい話を聞いて、また驚くことになった。

 女の人や子どもたちは、みんな寄り合い所の中にいたけど、自衛団のおじさん達は、外でホーンウルフと戦ったらしい。何人か、けが人もでたという。それでも。


「エミィ、今回はお手柄だったな」


 祖父様は褒めてくれた。


「今回オングル村の皆が無事だったのは、お前の発案によるところが大きい」  


 魔獣避けと寄り合い所、そして自衛団のどれが欠けてもダメだったと思うぞと言いながら、頭をなでられる。


「でも、怪我をした人も、いるんでしょ?」 


 自衛団なんて無かったら、むちゃをしてケガをしなくてすんだかも。そう思ったのが、顔に出たのだろう。


「戦うと決めたのは彼らの選択で、その結果をお前が気に病む必要はない。それにあの村の男達は自衛団があろうが無かろうが、家族を守る為に戦ったと思うぞ」


 だからこそ、キチンと訓練されてた事が功を奏したのだと、祖父様は言う。


「それに槍という武器は、安全な場所からの攻撃が可能だ」


 祖父様の言葉は、わたしを慰めるためだと判っていたけど、頷いておく。だって、これ以上わたしが頭を悩ませても仕方ないからね。乙女は過去にはとらわれず、ひたすら未来へ進むのよ!



 **



 2日後。オングル村の村長さんが、揚げ芋の大袋2つを持って、お屋敷を訪ねてきた。


「今回の事で、ぜひともお礼が言いたくて来ました。ここ最近、エミリアお嬢さんやエドガー坊ちゃんがしてくださった事が、どれほどありがたかったかを、どうしても伝えたいと思いまして」


 わたしとエドガーに揚げ芋の袋を1つずつ渡しながら、頭を下げる村長さんに、村のみんなの様子を聞くと、少し困った様な顔をした。


「よほどあの晩の父親達が、かっこよく見えたのでしょう。今朝の訓練には、多くの子どもたちが来ましてね。みな、パンはいらないから訓練に参加させてくれって言うんですよ」


 村長さんが、頭をかきながら笑う。


「さすがに槍を扱うのは危ないので、9歳以下は返しましたが」 


 棒切れを持って、おじさん達の真似をする男の子たちの様子が想像できる。

 その後すぐに村長さんは帰ったので、くわしくは判らないけど、報告では村の畑はかなり荒らされたみたい。

 これは春の収穫に関わってくるから、なんとか出来ないかと頭を悩ましていたら、


「心配しなくて大丈夫ですよ。ホーンウルフの毛皮と角は良い値がつきます。今回の協力費として、かなりの金額が村に渡る事になるでしょう。町への出稼ぎに来るのを少し控えて畑の再整備にまわっても、問題ありませんよ」 


 アルノーさんが、そう教えてくれた。


 そしてオングル村の話を聞いた他の村でも、いざという時の避難の仕方の確認や、家畜小屋の場所の変更などの話し合いが行われたらしい。


 おまけにウルス村からは魔獣避けの注文が、ハウレット商会宛に入ってきた。しかも金属板に魔法陣を刻んだ、かなりお高い商品が4枚も!

 一応、祖父様に相談すると、領から半分までなら補助を出させると言われたから、安心して送受信板で注文をかけた。


 その事をウルス村の村長さんに知らせるついでに、他の村長さんたちにも、手紙を書いておく。

 ふへへっ、こういう事って、ちゃんと知らせておかないとね。


 ロウゴット子爵領の皆さま、今なら高級魔獣避けが大変お得に手に入ります!なんと総額の半分までなら、領主様が出してくれるそうです。なので、注文するなら今ですよー!

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商品の実際の使用感が噂にのぼってるタイミングで宣伝をかけ、さらに購入費の公的補助が出ることも追加 やり手だ
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