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ある少年の話 4

 村の入り口の横には、たくさんのホーンウルフの死骸が積み上げられていた。死んでるって判ってても、おっかなくて近づきたくない。

 いつまで置いとくんだろうって思っていたら、兵士さん達が遺骸を袋に詰めだした。

 

「冒険者ギルドに、買い取ってもらうんだよ。ホーンウルフの角や毛皮は、高値で取引されているからね。今回の討伐では村の人達も頑張ってくれたから、きっと村にも幾らか入ると思うよ」


 ジャックさんが教えてくれる。その横では、ロイが兵士さん達の手を借りて、荷馬車から何かを下ろしていた。


「兄ちゃん、それはなに?」


「スープだよ。衛兵宿舎の奥さんたちが、作ってくれたんだ」


 まとわりつく(ヒューイ)に説明しながら、大きな寸胴鍋二つを指さす。詰所に応援要請の連絡を入れたロイは、そのままその場で待たされて、これを運ぶように言われたらしい。


「それに、薬師のばあちゃんも連れて来たぞ」


 寸胴鍋が降ろされた後から、よっこらせと言いながら、薬師のばあちゃんが降りてきた。それを見たおばさん達が、ホッとした顔をする。


 みんな怪我の手当てをするために包帯や軟膏を持ってきたけど、魔獣相手の怪我の手当てなんて、どうしたらいいのか判らなくて、そこで止まっていたからだ。

 ばあちゃんは辺りにいる怪我人を一通り見て回ると、


「この程度なら、医者は必要ないよ。ほら、あんたらも手伝いな!」


 言いながら母さんたちを指揮して、怪我人の手当てを始める。


「こないだ教えたろ。まずは、きれいな水で傷口を洗う。何回もだよ。それと傷口を拭く布は、ケチるんじゃない。軟膏はそれからだ」


 井戸から水がくまれ、傷口を洗われたおじさん達の小さな悲鳴が聞こえた後は、使い終わった布が、石鹸水が入ったバケツに放り込まれていく。


「出血がひどい者は、言ってくれ。止血用の布を巻くから」  


 その声に、手が2本上がる。


「ばあちゃん、こっち」

「こっちも、お願い」


 薬師のばあちゃんが布と木切れを持って向かうのを見ていたマリが、


「薬師って、いいね兄ちゃん。すごく人の役に立てるし。大人になったら、薬師になろうかな」


 なんてことを、言い出した。


「マリ。俺はあんなばあさんになった妹なんて、あんま、欲しくないぞ」


「兄ちゃん。わたしがなるとしたら、『薬師のお姉さん』だよ」


 マリが、ゴミクズを見るような目で見てくる。なんだよ、ちょっとボケてみただけなのに……



 **



 ぐうぅーきゅう 


 スープの匂いがしてきたと思ったら、途端に腹が盛大になった。

 よく考えたら、夕飯を食べていなかったことに気づいた俺は、妹と一緒にスープを配る列に並びに行く。母さんはまだ父さんの腕に包帯を巻いているし、家に帰っても、すぐに食べられる物なんてないしな。

 村長さんからスープを受け取り、洗濯場の側に転がっている石に、マリと並んで座る。スープはあったかくて、しかもうまい。


(おかわりしても、良いのかな?)


 なんて思いながら食べていると、



「これ、去年でなくて良かった…」


 マリがぼそっと言った言葉に、俺は肝が冷え食べる手がとまった。


 そうだ。今年だからみんな助かった。魔獣避けや荷馬車があって、寄り合い所が建っていて、父さんたちが槍の練習をしていた今年だったから、みんな無事だったんだ。

 もし起きたのが去年だったら、村は全滅してたかもしれない。そう思うと余計にエドガーやエミィ、そして新しい代行様ヘの感謝が湧いてきた。

 いつか代行様の役に立てるような人間になりたいと、俺は思った。


 ***


 春の1月1日。今日は新年の祭だ。


「今度の新年の祭りでは、好きなものを好きなだけ食っていいぞ!」


 太っ腹な父さんの言葉に、俺とマリは飛び上がって喜んだ。先日討伐したホーンウルフの代金の分け前が村に届けられ、各家で均等割りしたものが配られたのだ。

 それは大層な額で、うちの一年の稼ぎの半分と同じぐらいらしい。

 マリは、「髪飾りとかも買ってい良い?」と聞いているが、俺はやっぱり串肉だな。去年の祭りでは一本をマリと分けて食べたけど、今年はあれを腹いっぱい食べてやる!!



 祭りはグリヴの街で開かれるので、小さな子供や年寄りは、ロイが荷馬車に乗せて連れて行った。

 荷馬車は何回か往復した後は、衛兵宿舎の庭に置いといて良いそうだ。帰りはきっと酔っぱらいを山ほど積んで帰ることになるだろう。

 父さんもエール3杯までならと、母さんに許可を取っていた。



 祭りは今までで、一番楽しかった。去年まで横目に見ていた的当てゲームにも参加したし、手品も、人形劇も見た。

 そして串肉!5本までは余裕だったけど、さすがに6本食べると腹がカンカンに張って、動けなくなった。


 「兄ちゃん食べ過ぎ!」


 マリが新しい髪飾りを手に、笑う。


 「なにやってんだよ、馬鹿ヤン」


 揚げ菓子をかじりながら、ロイも笑う。すでに酔っ払ったのか、俺を指さし父さんもゲラゲラ笑ってた。


 「なぁに、下品に笑っちゃって」なんて声も聞こえたけど、そんなことは関係ない。みんな元気で腹いっぱいで、楽しいんだからほっといてくれ。

お読みいただき、ありがとうございます。

今週末から来週頭にかけて、非常に忙しいため、来週の更新はお休みします。

その為、次作の投稿は12月4日午前6時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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