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ある少年の話 2

 豆の収穫が終わった頃、またしてもエドガーたちがやってきた。俺は玩具(おもちゃ)を持ってきたのかと、ちょっと期待したけど、違った。

 山のように材木を積んだ荷馬車をラバに引かせているし、3人のごっつい男が一緒だ。ごっつい3人は大工で、これから、前に言ってた寄り合い所を建てるらしい。


 村の大人達も、手伝えば日当が出ると聞いて、張り切っている。


「秋の作付けが終わったら、早速雇ってもらおう」


「そうだな。荷車のおかげで薪運びがはかどっているし、いけるだろう」


「この時期に、現金の収入はありがたい」 


 領主様に納める物を除いて、この時期の収穫物、特に豆は冬のための大事な備蓄だから、売りに行くわけにはいかない。だけど冬支度はどうしても、金がかかる。


 だから日払いで金がもらえる仕事は、すごくありがたいらしい。俺も小遣いくらい稼げるかと思ったけど、15歳以下は雇わないんだって。ちぇっ。



 ラバの荷馬車は、毎日材木を運んで来た。土台ができ、柱が建つと、今度は漆喰や左官職人を乗せて来た。

 建物が建つのを見るのは初めてだったから、木の骨組みから壁や屋根ができていくのを見るのは、すげえ面白い。


「俺、将来は大工になる!」


 リドが言うのを、そんな細い腕じゃあ無理だと笑ったけど、実は俺も、ちょっとだけ思った。




 寄り合い所の横にある洗濯場にも、囲いがついた。これは大工に教わりながら、父さんたちが造った力作だ。

 しかも大工から色々と教わったからか、家のあちこちが少しずつ、修理されていった。おかげでガタガタいっていた戸棚は、開け閉めしても動かないし、すきま風も、ずいぶん減った気がする。


「ねぇ、兄ちゃん。最近の父さん、かっこよくない?」  


 妹のマリが嬉しそうな顔で、聞いてきた。


「そうか?」


 なんてそっけなく答えたけど、ホントはカッコ良いなと思ってる。まっ、言わないけどな。


 **


 寄り合い所がついに完成した翌日、エドガーとエミリア(最近覚えた)が村に来た。魔獣避けの時の、茶色の髪のおばさんも一緒だ。


 おばさんは高名な魔術師だったようで、出来上がったばかりの寄り合い所の扉に、魔法陣を描き始めた。それはピカッと光ると、見えなくなる。

 後からエドガーが教えてくれたけど、あの魔法陣は強力な魔獣避けで、ホーンウルフやロックベアなんかが来ても、大丈夫らしい。さすがにドラコンとかは、無理だってさ。そりゃ、そうか。



 その後は、大騒ぎになった。なんと今回使われていた荷馬車が、ラバごと村の財産になったんだ。これには、マリたちが叫び声を上げて喜んだ。

 ラバにミミなんて名前を勝手につけて、可愛がってたもんな。


 もちろん村の大人たちも大喜びだ。新しい幌がついた荷馬車があれば、病人が出ても運べるし、街に買い物に行ったり、野菜を売りに行ったりも出来るからだ。

 しかもラベル様が人とラバ用の雨具までくれたから、雨の日も問題ないんだぜ。すごいよな!

 


 騒ぎが収まると、村長を先頭に寄り合い所に入る。床はキレイな板張りで、みんな汚したくないんだろう。靴を入り口の藁マットにこすりつけてから、入っていく。もちろん、俺もそうした。


 新しい木の匂いがする中は、うちの家全部より広そうだし、鎧戸のついた窓には透明じゃないけど、ガラスが入っていて明るい。

 壁には収納ができるように俺の腰ぐらいの棚が作られていて、丸椅子が幾つも置いてある。 


「これなら、テーブル代わりにも使えそうだねぇ」


「ここで内職しながらお喋りするのも、よさそうだね」 


 椅子に腰かけたおばさん達が、楽しそうに話している。


 棚には大きめの籠が置いてあって、一つにはいろんな色の布切れが入っていて、もう一つにはいろんな形の木切れが入っていた。

 それは皆好きに使っていいとのことだったので、おばさん達はさっそく布切れを物色し始め、俺たちは木切れを積み上げて、遊びだした。


 思っていたような玩具じゃあないけど、これはこれで面白い。エドガーと、どっちが高く積めるか競争したけど、1回も勝てなかった。なんでだ?


 次までに練習しておいて、絶対勝ってやる!



 寄り合い所の管理は、村長さんの息子で、領都で衛兵をしていたジャックさん夫婦がする。ジャックさんは新しくできる、村の自衛団の団長も務めるんだって。

 自衛団は10歳以上の男が入れて、週に三回、朝一時間ほどの鍛錬をしないといけないけど、それに参加するとパンが一個もらえるという話だ。

 俺はまだ9歳だから参加できないけど、先月10歳になったロイなんかは、張り切って参加すると言っている。父さんも参加するって。


「自衛団と言っても、戦うというより、この場所(寄り合い所)に逃げ込むためのものだと思ってくれたらいい。ここに入ってしまえば、安全だからな」


 自衛団と聞いて、不安そうな顔になった数人のおばさんたちに、ジャックさんが説明する。

 だから剣とかじゃなくって、槍なんだって。長いから、それで魔獣を威嚇しながら、寄り合い所まで逃げてくるのが目的だって。それぐらいなら、そんなに危なくないし、俺にも出来そうだよな。

 盗賊なんかは、また別の方法で対処するらしいけど、寄り合い所に逃げ込んだ方が安全なのは同じらしいから、安心だ。



 寄り合い所を作る際に貰った日当があるから、最近はちょっと良いものが食べられるし、自衛団のパンは焼き立てで、すごくうまい。

 来年からは野菜も売りに行ける。ほんと、エドガーたちには、感謝しないとな。


 冬の一月に入ると、父さん達はいつもなら家の中でちょっとした内職をして金を稼ぐけど、今年は違った。街で人足を募集してるらしい。


 土の日以外の毎日、父さん達は交代で、出稼ぎに行く。おかげで荷馬車は大活躍だ。みんなで荷馬車の荷台に乗って、また荷馬車に乗って帰って来る。


 俺にも楽しみができた。仕事は夕方前に終わるから、父さんがもらったばかりの給金で、市場でいろんな物を買ってきてくれるからだ。

 この間は、その日もらった給金全部を使って雌鶏を買ってきて、えらく母さんに怒られてた。

 だけど、あれから週に何回か卵が食べられるから、俺としては良い買い物だったと思う。

 当然、鶏小屋は父さんの手作りだ。


 ずっとこんな幸せで平穏な日が続く。そう思っていた。でも、そうじゃなかった。

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