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ある少年の話 1

 俺が住んでいるのは、オングル村ってちっさな村で、家の数は16軒。人も50人ちょっとしかいない。そんな所に、秋の一月(いちつき)になってすぐ、2人の子供が護衛を連れて来た。

 1人は不思議な目の色をした女の子で、俺でも知っている商会の者だという。そしてもう1人は、新しい領主代行の息子らしい。  


 どちらも、ここらでは見かけない、キレイな格好をしている。


 どうやら2人は村長に村を案内してもらうみたいで、4人で連れ立って歩き始めたその時。



「俺はアイツラに、話を聞いてくるよ!」 


 女の子が止めるのを無視して、領主代行の息子が俺たちの所に走ってきた。


「俺はエドガーだ。よろしくな」


「なぁ、なんか怒ってるみたいだけど、いいのか?」


 女の子を見ながら、姉貴が2人いるリドが心配そうに言うけど、


「大丈夫だよ、これぐらい。それより、もっと広いところで遊ぼうぜ。ついでに村の案内もしてくれよ」


 そう言って、エドガーは俺たちと一緒に走り出した。



 俺等はエドガーと鬼ごっこや、剣士ごっこをしながら、いろんな話をした。好物や好きな遊び、そして冬場に現れる魔獣や、雨の日や寒い時期の遊び場がないことなんかだ。


「家ん中で騒ぐなー!って母ちゃんは言うけどさ、だったら、どこに行きゃあ良いんだよ」


「ホントだよなぁ」


「家の中で遊べる遊具とかは、無いのか?」


 エドガーが不思議そうに聞いてくる。これだから、お坊ちゃんは。


「そんなもんあったら、苦労しないって」


「うちはあっても、兄ちゃんが独り占めするだけだし」


「じゃあ、俺がなんとかしてやるよ。そのために、来たんだし」


「ホントかよ!?」


「あぁ。領地の問題を解決するのが、俺の仕事だからな」


「へぇ、すげえな」


「まあね」


 得意げに笑うエドガーと一緒に村長の家の前に戻ると、ちょうど案内が終わったんだろう。女の子と護衛もいた。


 しかも女の子は、カンカンに怒っていた。そして、すげぇパンチでエドガーに尻もちをつかせた上に、説教までくらわせるのを見て、俺たちは全員、あの子には何があっても、逆らっちゃダメだと思った。

 


 **



 それからしばらくすると、エドガーたちは2台の荷車と一緒に、また村に来た。それを使って、俺達は大人の頭ぐらいの大きさの石を集めるよう、言われた。


 集めた分だけ、魔獣避けに加工してくれるらしい。これには村長が喜んだ。村で欲しい分だけの魔獣避けが手に入るからだ。

 しかも、その荷車はそのまま村に貰えるらしい。重量軽減の魔方陣が描かれている荷車が2台だ。これで手伝いが楽になると、俺たち子ども連中は喜んだ。



 次の日から、石集めが俺達の仕事になった。大人の頭ぐらいの大きさの石は結構重く、荷車に乗せるのに、2人がかりでないと無理な物もある。

 でも、小さいと魔法陣が描けないから、役に立たない。


「これ位デカけりゃ、良いよな」


「使えなけりゃ意味がないんだから、できるだけ大きいのにしとけよ」


「くーっ、重い!」


 それでもみんなで頑張って、集めまくった。10個の山が全部で10個、合計100個だ!


 これが全部魔獣避けになったら、村はすごく安全になるよな!



 **



 石を集め終わった頃、今度は変な機械や、金属の板を持ってエドガー達が来た。護衛の他に、茶色い髪のおばさんもいっしょだ。


 女の子は村の人たちを集めると、


「これから集めてもらった石を、魔獣避けに加工するので、手伝って下さーい」


 笑顔で言うのを聞きながら、俺たちは、ウンウンとうなずく。

 何をさせられるのかとちょっと心配だったけど、石を動かしたり、魔獣避けの魔法陣を、型を使って描くらしい。まぁ、荷車ももらったし、自分達の村のためだから、それくらいはしないとな。そう。けっして、あのパンチが怖いからじゃない。



 ギィ、べったん! 「ほい、次!」

 ギィ、べったん! 「はい、次!」


 変な機械にエドガーが石を置いたら、女の子がレバーを下ろす。そしたら石が平べったくなった。しかも、なんだか表面がすべすべしている。

 そうして出来上がった石を、女の子は重さなんて関係ないように、ひょいひょいと動かすもんだから、もしかしたらあの機械にかけたら軽くなるのかと思ったけど、そんな事はなかった。


 平らになった石を、護衛のおじさんに指示された場所に運ぼうとして、ちっとも軽くなんてないことが判ったからだ。やっぱり、あのコには逆らっちゃいけないな……


 そこからは護衛のおじさんと、茶色い髪のおばさんが説明してくれた。


 護衛のおじさんが模様が切り抜かれた金属板を3枚出し、それが魔獣避けの魔法陣だと言いながら石に乗せると、しっかりと押さえる。

 そこにインクをつけた刷毛を持った茶色い髪のおばさんが、金属板にあいた文様にそって、色をつけていく。


「こんな感じて、塗ってくれれば良いわ。あと、インクはつけすぎるよりは、少ない位の方が良いわよ。掠れた箇所は後で重ね塗りをすれば良いけれど、潰れてしまうと、直せないから」


 茶色い髪のおばさんの話を、みんな真剣に聴いていた。自分達の村の安全に係ることだからな。普段はふざけてばかりの俺だって、ここはちゃんとやらないといけないと思った。


 できるだけ動かないように、2人がかりで金属板を押さえて、もう1人が刷毛で色を付けていく。できるだけ丁寧に。

 抜けがあったり、模文様が潰れてしまうと、魔獣避けにならないと言われたから、みんな一生懸命だ。全部を塗り終わった時には、歓声が上がった。


 エドガー達が帰った後も、俺たちの仕事はまだ残っていた。インクが乾いた石を今度は荷車に乗せて、村の畑の外側の村長が指示する場所に、置かないといけないからだ。


 これは一度に全部は無理だから、先ずは近い畑に20個置いて、残りは明日になった。


 ただ、強めの魔獣避けが描かれてる大きめの石10個は今日中に置きたいからと、父さんたちが戻って来るのを待って、元からあった魔獣避けと交互に、村を囲う柵の外側に等間隔で置いていった。

 村の家は全部柵の内側にあるから、これで二重の防御になると、父さんたちと村長が嬉しそうに笑った。

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