木製遊具だ! いち
祖父様の説明によると、訓練器具は30種類以上あって、その全部が両辺境伯によって、『特種訓練器具・木』という名で特許登録してあるらしい。
「ねぇ、祖父様。これまでに特許を使いたいって言ってきた人はいるの?」
「一人もいないな。だがここは辺境伯領だから、どれだけ使おうと、特許料はかからん。だから好きなだけ、作っていいぞ!それにここ以外でも、パシェット商会ならば、使用は大歓迎だ!」
どうやらパシェット商会に、『特種訓練器具・木』の独占使用許可をくれるらしい。ディディエさんがニコニコしながら、書類を出してきた。
「あれ、同じ書類が2枚あるよ?」
「1枚はバルザック王国の分です。こちらはマルク様が手配されました」
(バルザック王国かぁ……お隣さんだけど、今のところ、行く予定はないんだよなぁ……)
なんて思いながら、商会名と名前を書いていると、ディディエさんが、
「近いうちに、ぜひ我が国にお越しください。ベルクール領はこちらとあまり変わりませんが、交易の盛んな南部地方は、色々と面白いですよ」
そう言って、華やかな刺繍がされた直線的な衣服や、中が空洞の木を使った細工物の話をしてくれる。確かに、面白そうだ。
「それにうちの両親は、非常に愉快な人達なので、一度お会いいただけたら、ありがたいです」
「あの夫婦は愉快ではなく、騒がしいだけだろうが」
ディディエさんの言葉に、祖父様が口をへの字にしながら言う。
「祖父様、知ってるの?」
「あぁ。どちらも、エルヴィーヌに仕えていたからな」
「祖母様に?」
「そうだ。特にこやつの母親は、エルヴィーヌの熱心な信望者だったからな」
「それは、今も変わりませんね」
ディディエさんは、困ったような顔で言う。
あー……それ、なんか判るわ。エルヴィーヌ祖母様の事が好きな人って、わたしが困った状況になっちゃうやつだもん。ディディエさんには悪いけど、ちょっと、遠慮しておこう。
***
「エミィ、エドガー!」
屋敷の前に馬車が2台停まり、前の馬車からマキシムが降りてきた。手には丸めた大きな紙を持っている。
「マキシム、おかえり!」
「遅いぞ。何やってたんだよ」
「ただいま。まぁ、色々とね」
後ろの馬車から降りてきたおじさん3人は、マルク翁が手配してくれた職人さんたちで、設計士と施工士、そして資材係だって。
マキシムが持っている大きな紙を広げて見せてくれる。それは、設計図だった。
「ツアーの対象者と同じ年頃の者たちに、色々と話を聞いたんだ。その中で、特に楽しかったものや、難しいけど、やりとげた時に嬉しかった物を中心に選んでみたんだけど」
くわしく聞きたいから、おじさん達も一緒に、応接室へ向かう。
マキシムの設計図は、外側から中心に向かって高くなっていく形で、いろんな器具が組み合わせてあった。
設計士さんが、1つずつどんな物か説明してくれる。その中で一番気になったのが、『滑り板』と『ユラリンコ』と呼ばれる物だ。だってエドガーが
「これ、すっごく面白かった!」
って、何度も言うんだもん。
「でしたら庭に1つ、作ってみてはどうでしょう?」
「うわぁ、やったー!」
実際に試してみるのが良いだろう判るだろうと施工士さんが言うと、エドガーが飛び上がって喜んだ。
(おやん?これはお金の匂いがするわ……)
簡単な訓練器具を3つか4つ組み合わせた物を、庭に設置するとか、運動小僧たちにウケるかも。
あっ、でも今は新しい事業の提案は、禁止だったわ。うーっ、とりあえず忘れないよう、どっかに書いとこ。
『滑り板』と『ユラリンコ』が出来上がるのに、2日もかからなかった。
さっそく使おうとするわたしを、エドガーが止める。
「まずは、俺が見本を見せてやるよ」
言いながら、意気揚々と『滑り板』のハシゴを登っていく。うん。ぜったい、一番先に使いたかっただけだよね、これって。
そして上の見張り台みたいな所に着くと、
シューン、ドスン!
板を滑り降り、見事な尻もちをついた。
「痛っ!」
「あれは、悪い見本ね」
マキシムが痛がるエドガーを見て、笑いながら教えてくれる。よかった。尻もちの訓練器具かと思うところだったもの。でも、おかげでやり方は判った。
「つぎ、わたしね!」
ハシゴを登ると、意外と高く感じた。斜めにつけられた板を見る。両側に手すりがついていて、今の最後は少し平らになっていた。
(あそこで、上手く止まればいいのよね)
手すりを持って、イッキに滑り降りる。
シュイーン!
(えー、なにこれ、気持ちいい!)
すぐに下まで来たので、少し足を広げて手すりに当てると遅くなった。そして。
ストン
平らな場所に座った形で止まる。ふへへっ、これって成功よね。なにがっかりした顔をしてるのよ、エドガー。
あんたと同じ失敗を、わたしがするはずないでしょ?
よし、次は『ユラリンコ』だ!




