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寄合所、完成! さん

「あんた、いったい何さまのつもり?」 


 あの後、無事にラバと荷馬車が村に寄贈された話が終わり、やれやれと思っていたら、なぜか腕を引っ張っられて連れてこられたのが、洗い場の中。他の人達は寄合所の中を見学中だから、いない。


 そんでもって、わたしの前で腕組みしてるのが、たしか村長の娘の……なんだっけ?

 まぁ、いいや。名前聞くほどの相手じゃないよね、こんな失礼な子。それと村の女の子達3人がわたしの腕や、肩をつかんでいる。全員、わたしよりも背が高いから、7歳か8歳ぐらいかな。


 エドガーとマキシムが、少し離れたところでこっちを見ているから、心配いらないよと手を振ったら、それも気に入らなかったみたいで、腕組み娘が足をドンドンと踏み鳴らす。

 

「なんで、あんたなんかが、エドガー様を呼び捨てにしてるのよ!それに、あの男の子は誰?」


 エドガー様ね。ふーん。エドガーが何者かは、知ってるんだ。そんでもって、マキシムのことも気になると。

 そういえば、この村の女の子達って、やたらとエドガーの後ろをついて回っていたよね。


 てことは、早い話が、この子達はあの二人と仲良くしているわたしが、気に入らないわけだ。


「なんで教えて上げなきゃ、いけないの?」


 ニッコリ笑って言う。

 こういう子達は、こっちが怯えるのを期待しているからね。だけど、乙女がこんなくだらない脅しに、負けるわけないでしょ?

 だいいち、怒ったときの母さまに比べれば、こんな子がいくらにらんでも、怖くも何ともない。


 だけど、さっきから肩をつかんでる子の指が、髪に絡んで引っ張ってくるもんだから、痛いのよね。これって、ゼッタイわざとだわ。


 だから。


 ポケットから『ひっかけ君』を取り出すと同時に、


 ベチッ、バチッ、バチンッ!


 わたしをつかんでいる手を、全部まとめて叩いてやった。ついでに『ひっかけ君』をくるんと回し、肩をつかんでいた子の髪の毛を絡めて、引っ張る。


「痛いっ!」 


 うん。私も痛かったんだよ。


 おまけとして、近くに生えていた茨を成長させると、女の子達のひざから下に巻き付けて、動けなくする。


「動いてもいいけど、足が傷だらけになるよー」


 言いながら、『ひっかけ君』を髪の毛から解こうと思って引っ張ったんだけど、


  ブッチン!


 ありゃん……いまの音、もしかして髪の毛が抜けちゃった?テヘッ!

 頭おさえながら涙目で、こっちを睨んでるけど、まぁ、10本ぐらいだから問題ないよ、たぶん、きっと……うん。これは、ちょっとゴメンナサイです。




「大丈夫?」


「なぁ、さっきの、どうやったんだ?」


 マキシムとエドガーが、寄って来る。


 腕組み娘達は、なぜか自分達を助けに来たのだと勘違いしたみたいで、期待にミチミチた顔を2人に向けるけど、それ、ゼッタイに無いからね。


 だってエドガーはわたしの従兄弟だし、マキシムはわたしの友達なんだよ?

 それに、わたしひとりを4人で取り囲んで連れて行くのを、この2人は見てたのに、なんで自分たちの味方になると思えるのか、不思議でならないわ。


 もしもーし、なんで裏切られたみたいな顔して、こっちを睨んでるのかなぁ?



「ふぇえーん」


 ちょっと動くと茨のトゲが刺さるから、動くに動けないせいか、一人が泣き出した。

 すると他の子もいっせいに泣き出したものだから、寄合所の中にいた大人達がその声を聞きつけて、ぞろぞろと出てきた。


 その時、腕組み娘がこっちを見て、ニマリと笑う。


 へぇ、やっぱり嘘泣きなんだ。どうせ『泣いたもの勝ち』にしようと思ってるんだろうけど、ふへへ、甘いなぁ。だったら、そんな風に考えたことを後悔するくらい、徹底的に泣いてもらおう!


 さすがに茨はかわいそうだと思ったから、洗い場の隅に生えているペラの蔓を使う。

 気合を入れて魔力を流すと、本数を増やして成長させながら、4人の腰辺りまでからませる。


 「えっ、なに?」「キャッ!」なんて言うけど、今さら慌てたって、もう遅い。邪魔になる茨を枯らすと、そこからは上に向かって、一気に成長させた。


 ドーン!


「ひいぎゃあぁーー!」「ひぃいぃー!」

「いやあぁ~!」「ぎょえぇー!」


 洗い場から突き出た、4本のペラの蔓柱の上から、叫び声が響き、村長さんをはじめとして、大人たちは目を丸くしている。


「謝ったら、許してあげるよー」


 言いながら振るわたしの指の動きに合わせて、柱が左右に振れる。


「なんで、わたしが!」


「そっちこそ、こんな事をして!」


 うーん。どうやらまだ、揺れが足りないみたいね?なら、もうちょっと大きくしてみよう。

 指というより、腕ごと前後左右に大きく振る。


 ウィーン、ウィーン、ブン、ブン。うん、いい感じ!


「いゃぁぁー」「ひいぃいー!」


 さすがにこれは効いたみたいで、


「ごめんなさい!」


 一人が謝り、その後、すぐに全員が謝った。

 しかたない。約束だからと蔓を少しづつ枯らしながら下げていって、地面に着地させる。

 

 全員、涙と鼻水まみれだし、腰を抜かしたのか、立つことも出来ない。

 そんな4人の側に、エドガーがよっていった。


「エドガーさまぁ…」


 起こしてもらおうと手を伸ばしてくるけど、エドガーの手が、それをつかむことは、ない。

 それどころか、その前にしゃがみ込むと、


「エミィにケンカ売るなんて、俺でも怖くてやらないのに。お前ら、馬鹿なのか?」


 そう言うと、戻ってきた。

 わざわざ、そんな事を言いに行く必要はないだろうと思うけど、まぁ、いいや。


「えっ……」


 パタン……伸ばした手が落ち、腕組み娘はそのまま、動かなくなった。



 ありがたいことに、大人達にはマキシムが説明してくれていた。



 その後、ようやく動けるようになった腕組み娘達は、村長さんからガッツリ怒られていた。

 なんでって顔してたけど、返り討ちにあったからって、大きい子4人で小さい子1人を取り囲んだ事実が、消えるわけじゃないからね。それに大人達は、わたしが領主代行として、かなりの権限持っていることを知っている。


 そんな相手を、自分の娘が先頭に立っていじめようとしたんだからね、そこはまぁ、当然の結果だよね。

 


 翌日のウルス村とセザム村のお披露目会では、わたしがラバと荷馬車について話すと村長さんに言い張ったおかげか、なにも起こらなかった。ホント、やれやれだわ。

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