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領主代行からの依頼 さん

 町長さんから、ダンジョンに冒険者が来ない、と聞いたわたし達は、冒険者ギルドに行くことに。でもギルドって、じい様のお屋敷を挟んで反対側だから、結構遠いのよね。

 地図を見ながら、考える。


(うーん。これって走った方が、絶対良いよね)  


 ちょっとだけ、父さまの怒る顔が浮かんだけど、道も混んでないし、『時は金なり、急がば走れ』だ。なので。


「アルノーさん、走って行っても良い?」


 横を歩くアルノーさんに声をかけると、「どうぞ」と返って来たので、ふんっ、と気合を入れて身体強化をかけ、一気に走り出す。


 アルノーさんはというと、直ぐにわたしの前に出て、危なくないようにガードしながら走ってくれる。さすが、じい様お勧めの騎士さん。しかも、すごく楽ー!ふへへっ、これなら、いくらでも走れそー!


 おかげで、あっという間にギルドに着いた。


 冒険者ギルドは、本部、支部関係無く、全部、同じ見た目、同じ作りにするよう決められている。まぁ、場所によって、大きさはかなり違ったりするけど、おかげで字が読めなかったり、言葉が通じなくても、間違える事がない。剣とタグプレートが描かれた扉を開けると、カランっと音がする。これも、同じだ。



「すみません。ハウレット商会のエミリアと言いますが、少しお話を聞いても良いですか?」


「あら、可愛いお客様ね。大丈夫よ。なんのお話かな?」


 にこやかに対応してくれた、受付のお姉さんの名札をチェック。『ライラ』さんね。


 ライラさんに、町長さんから聞いた話をすると、確かに減っていると返ってきた。


「ここのダンジョンって、10階層までは新人(ランクD)向けとなっているから、少し前までは、冒険者になった人達は、必ずここのダンジョンに来てたのよ」


 だけど最近は、その新人冒険者たちが、あまり来ないらしい。


「冒険者ギルドとしても、新人冒険者にはある程度、危険度の低いダンジョンで経験を積んでから、次のステップに移って欲しいの。だけど、最近の新人は自分を過信しているのか、すぐに難しい依頼やダンジョンに行きたがる人が多くてね。そのため、依頼の未達成の割合や、新人の死亡率が上がっていて、困っているのよ」


 それを聞いて、商会頭の祖父さまが、ぼやいてたのを思い出す。


『最近の若いのは、碌に仕事も覚えとらん癖に、直ぐにもっと大きな取引を任せて欲しいと言ってくる。掃除も小さな仕入れも全て、大事な仕事だと判らない者に、大きな取り引きを任せる筈が無いのに。そんな事にさえ気づけ無い者は、うちには要らない』


 多分、似たような物だろうと思った。まぁ、商会をクビになるのと、死ぬのとでは、結果が全然違うけど。



(なんだか、色々と問題がありすぎて、頭がこんがらがってきた……)


 だけど、このダンジョンの抱えている問題は、これだけでは無かった。それは近くに居た冒険者のお姉さんから話を聞いた時に、判ったのだけど、それは……



 〈トイレが無い〉という事だった。

 お姉さん達が、口をそろえて言う。


「それこそが、ここのダンジョンの最大の問題点よ!」


「ま、正確に言えば、どこのダンジョンにも、トイレは無いんだけどねー」


(えっ、ダンジョンって、トイレ、無いんだ。初めて聞いた!)


「そうなの?どこのダンジョンにも無いの?」


「無い、無い!」


それでも、他のダンジョンではあまり問題にならないのは、転移ポイントの場所と数だという。


「だからね、5階層ごとに転移ポイントがあれば、とりあえず5階層分だけ進んで、いったん戻ってきて、その後また、元居た場所から始められるのよ。でも、ここのダンジョンには転移ポイントが5階層と、10階層の次は、23階層にしか無いの」


「その間、ダンジョンに潜りっぱなしだからね、結構きつい。しかも、その後は30階層でさ、やっぱり7階層分、潜りっぱなしなる」


「そうすると、当然ながら食料や水の量は増えるし、テントや寝袋を合わせたら大荷物になるの。しかも、飲み食いすれば、出るものは出るでしょ?」


「そうだよね!」


 ウン、ウンと頷くわたしの横で、アルノーさんは、なんだか居心地が悪そうだ。


「だけど、いつ魔獣が襲って来るか判らないし、寝るのだって交代だから、小っさい方はともかく、時間のかかる大きい方は、ついつい我慢するのよね。で、便秘になっちゃうの」


 だからダンジョン後はいつも、薬師のバァちゃんの店に直行だとお姉さん達が笑うが、いつの間にかアルノーさんが、3歩程離れた場所に移動していた。少し顔が赤いけど、熱でもあるんだろうか?


「でも、そしたらトイレに行きたくなったら、どうするの?」


「「その場で、穴を掘って、用を足して、埋める!」」 


「えっ」


 驚きのあまり、口が開いたまま、固まってしまった。


「あっ、衝立は、一応立てるよー!余裕があれば、だけど」


 開いた口が、さらに開く。

 

(いや確かに、他に方法は思い付かないけど……)


 そしてアルノーさんは、わたし達に背を向けて、座り込んでいた。

  




 お屋敷への帰り道。顔色が普通に戻ったアルノーさんに聞いてみた。


「ねぇ、なんで誰もダンジョンにトイレを作らないの?」


「作らないのではなく、作れないんですよ」


「なんで?」


「まぁ、見た方が早いでしょう」


そう言って回れ右して、ダンジョンへと誘われる。確かにそうだ。



 ダンジョンはギルドから見ると、ちょっとした岩山のように見えていて、それほど遠くはなかったけど、道は石ころだらけで、歩きずらい。

 入り口は洞窟の入り口そのままで、確かに誰でも入れる状態だ。今も保護者付きとはいえ、6歳児が入るしな。


 中に入るとアルノーさんは、小さな木の箱をいくつか懐から出して並べだした。ギルドの向かいにある雑貨屋で買った物だ。一つは引っこ抜いた草の上に、一つはナイフで切った草の上に、そしてもう一つ剣の柄で砕いた岩の上に置く。首をかしげるわたしに、

 

「明日になれば、判りますよ」


 笑いながら言われたので、とりあえず、今日は帰る事にした。明日がちょっと楽しみだ。

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