おじいさんの正体は?! さん
もう一つの問題。
じつは冒険者のお姉さん達から、ダンジョンにはトイレが無いって教えてもらった時に、問題はそれだけじゃないと言われていた。
それは女性特有の『生理』という物で、月に一度、数日間、出血と腹痛に悩まされるという。わたしはまだ小さいから、何のことかよく判らないが、とにかく大変らしい。
「薬師のばぁちゃんの薬茶はよく効くけど、それでもしんどいからね」
人によっては、動けなくなったり、寝込んだりするらしい。なんか怖いな……
「私の場合、たいていは予兆があるんだけど、たまに突然来たりするのよね。そうなると、もうお手上げでさ」
「そうそう。それについ買い忘れたり、入れ忘れたりって、あるからねぇ」
ギルド受付のライラさんも、お姉さんたちの会話に加わってきた。
わたし達に背を向けて座り込んでいたアルノーさんは、両手で耳をふさいでいた。そしてしゃがんだまま、少しずつ離れていく。もしかしたら、怖い話が苦手なのかもしれない。
「薬師のばぁちゃんとこで、薬茶といっしょに小袋に入れてるの、売ってるだろ。アレを必ず入れるようにしてるんだけど、使ったの忘れてカラの小袋が出てきた時は、泣きたくなった……」
「だよね~。ただでさえ腹は痛いし、身体はだるいわで最悪なのに、アレが鞄に無いって判ったときの衝撃ときたら!今すぐ家に帰りてぇー!て、なるもの」
お姉さん達がそろって、ウンウンとうなずいている。
「おまけに、そんな時に限って魔獣が出たりするしね」
「ホント、それな!」
「はい質問!」
そこでわたしは手を上げた。
「何がないと、困るの?」
さっきからお姉さん達の話題の中心となっている物が、何か判らなかったからだ。
「あぁ、そっか。ごめんね。話していたのは、『カップスの実』のことだよ」
『カップスの実』は、分厚いスズランの花のような形をしていて、中の種を出して乾燥させた物を、水かぬるま湯で戻して使うらしい。生の実も使えるけど、収穫時期が短いから、あまり使わないのだと教えてもらった。
でも、どうやって使うかは、不明のまま。
詳しい話を聞こうとしたら、「あと5年程したら、お母さんが教えてくれるよ」って言われてしまったのよね。
うん、やっぱりよく判んないや。
判っているのは、この実は使い捨てで、ヘンチョがもれなく分解してくれるってことぐらい。
あと、『カップスの実』は『ペラの葉』と同じように、普通に薬屋や雑貨店なんかで売ってるけど、『ペラの葉』と違って、 ダンジョン内にはほとんど生えてないんだって。
「もし生えていても、都合よく実がなっているとは限らないから、当てにはできないんだよね」
「だったら無い時は、どうしてるの?」
「前回は持ってた肌着を切って、あてた」
「わたしはタオル。でもオススメしない。だけど1番やっちゃいけないのは、『乾燥ペラの葉』。アレだけは絶対ダメ」
「そうなのよね。一瞬いけそうな気がするだけに、あの結果は……」
「うん。泣きたくなるほど、悲惨だったわ…」
みんな試した時のことを思い出したのか、すごく落ち込んた顔をするもんだから、どうダメだったのか、聞くに聞けない。
気になるけど、あきらめた方が良さそう。まぁ、『乾燥ペラの葉』だけは使っちゃダメだって、覚えておけば良いか。
***
あの時の会話を思い出す。
そうか。冒険者のお姉さん達の問題を解決するには、転移装置を使って『カップスの実』を販売すれば良いんだ!
その為には女性専用のダンジョントイレがあった方がいいのかな?値段はどうしよう。たしか乾燥させたもの10個が銅貨5枚で売ってるって言ってたから、2個で銅貨5枚でどうだろう。
だって、物の値段は需要と供給。場所と状況で変えるのは、商売の基本よ!
(あっ、これってもしかして街中トイレでも使えるかも?)
どうせ補給場所を作るんだから、ついでにいくつか有料の街中トイレを作っても、良いかもしれない。
うん。まずはグリヴの街から作ってみよう。市場にある街中トイレ、評判があまり良くないから、試すにはちょうど良いよね。
市場の街中トイレは無料で、お店を出している人達が交代で掃除と手洗い用の水汲みをしているけど、使う人の数に比べて、トイレの数が少ないせいか、あまりキレイな感じがしない。
そこにキレイだけど、有料のトイレを作っても、最初は無料トイレを使う人の方が多いかもしれない。だけど便利さ、快適さの前には僅かな出費なんて、すぐに気にならなくなるはず。
ふひょほほほっ!市場の客よ、快適さもお金で買えると知るがいい!
「エミィ、楽しそうなところを邪魔して悪いんだけど、声に出てるわよ」
「へっ?」
声に出てた?どこら辺から?
「市場の辺りから、かしら」
「まぁ、快適さは金で買えるというのは、わしも同意じゃな」
師匠とオーベルさんに言われてびっくりすると同時に、恥ずかしくなる。これは乙女としては、大失態だ。うーっ、穴があったら潜りたい……
すると、肩にそっと手が置かれた。マキシムだ。
「大丈夫。それ程変なことは、言ってなかったから」
ほほ笑みながら、なぐさめてくれる
ありがとう、マキシム。その優しさが、凹んだ心にしみる……
よし、気を取り直してオベールさんとの専売契約書作成、いってみよー!
諸々全部の事を書いて父さまに送ると、翌日の朝、送受信板からは真っ白な紙が5枚続けて送られたあと、『今から半年間、新しい事業の提案は禁止!』と大きく書かれた紙が来た。
なんで??
『カップスの実』は、生理用カップのような物だと思っていただけたら良いかと。シリコン製で鐘のような形をしています。




