表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/115

辺境伯様! いち

 ダンジョン前の空き地には、朝からツアーや見物客目当ての屋台が、準備を始めていた。


(串肉に、塩肉サンド、焼き栗に揚げ芋かぁ。あっ、果汁のお店もある。ふへへっ、なんかお祭りみたいで良いなぁ)


 ギルド長との打ち合わせも全部すんだから、わたしのすることは、もぅ無い。看板をながめながら歩いていると、見覚えのあるおじさんを見つけたので、声をかける。オングル村の村長さんだ。


 村長さんは村で採れた芋を使って、揚げ芋屋をするのだと教えてくれた。寄合所の管理人になるために、次男夫婦が村に戻ってくるのだといって、ニコニコしている。


「2番目で、受け継ぐ物が無いこともあって、領都に出て衛兵をしてたんですがね。帰って来れる事になったと連絡がありまして。だから、色々と揃えてやりたくてね。そのための、ちょっとした小遣い稼ぎといいますか……」


 少し照れくさそうに、芋の袋を持ち上げる。中身は少し赤っぽい皮のサッチ芋だ。


 揚げ芋は、皮を剥いて細長く切った『フライドポテト』と違って、切り方も味付けも自由だから、芋と油と調味料があれば、誰でも作れる手軽なお菓子だ。芋の種類も決まっていないので、その時に採れた芋で作れる。

 村長さんの屋台には、揚げ芋の文字といっしょに、塩・ハチミツと書かれてあった。


(ほんのり甘いサッチ芋なら、どっちが良いかなぁ……塩は甘じょっぱい感じでおいしいだろうし、でも、ハチミツでしっかり甘いのも、良いよね〜)


 想像しただけで、顔がユルむわ。帰りに買って帰ろう!


 後から手伝いの者が来るというので、それまでの間、手伝うことにした。小型の置型かまどに炭を容れて、筒型鍋を乗せると、村長さんが樽からゆっくりと油を入れる。

 トロトロと流れる薄黄色の油は、村で採れた日向実(ひなたみ)油だ。この油を採るために、村では庭や畑の隅に日向花(ひなたばな)をできるだけたくさん植えるらしい。


 芋はあまり早くから切ると色が変わるというので、汚れを落とすだけにする。

 そこまでした時、見たことのある男の子がエプロンを手に駆けてきた。せっせとラバの面倒をみていた子の中の1人だ。


 その子と交代して暇になったので、ダンジョン前に並んでいる人達を観察することにした。


(あの人が、辺境伯さまかな?)


 揚げ芋の屋台の横に積まれた芋袋の影から顔だけ出して、辺境伯らしき人をこっそりと見る。


 ダンジョンの扉前に作られたトイレツアー受け付けには行列が出来ていて、その先頭には、2人の男の人が並んで立っていた。

 白髪のおじいさんと、金髪の大きなおじさん。どちらもちょっと裕福な市民って感じの服装だけど、周りの人たち気の使い方がね、ハンパないのよね。だから、すぐに特別な人達だって判る。


 あれ?でも、おじさんの方はどこかで見たことがあるような……あっ、そうだわ!クロード伯父様に似てるんだ。伯父様よりも、ごっついけど。ってことは、もしかしてシモン伯父様?

 なら、やっぱりあのおじいさんが、辺境伯様ね。


 それにしても、祖父さまもこの街で1番大きな屋敷に住んでるし、クロード伯父様もここの領主代理を任されている。


(うーん、もしかしたらラべル家って辺境伯様の部下の中では、それなりの名家なのかも?)


「おい、エミィ。なんでそんなとこに、隠れてるんだよ」


「ひゅうんっ」


 いきなり後ろから声をかけられたせいで、びっくりして、変な声が出たじゃない!思わず上がった左手と右足を下ろしながら振り向くと、エドガーが塩と書かれた揚げ芋の袋を手に、首を傾げていた。


(あっ、塩味買ったんだ)

 

「辺境伯様を観察してたの」


 揚げ芋に気を取られて、うっかり、ホントのことを言ってしまった。まぁ、いいか。そういえば、エドガーは親戚だったっけ。


「なんで?どうせ後で屋敷に来るから、いくらでも見れるのに」


「あ?!今、なんて?」


「ツアーが済んだら、屋敷に寄るって連絡あったからさ」


 言いながら芋を口に入れると、手に付いた塩と油を上着の裾で払う。


「ねぇ、ハンカチくらい使いなさいよ」


 するとエドガーは、黙って手を突き出してきた。


「なによ、この手は」


「貸して!」


 はぁ?なに言ってんだ、こいつは。

 今日のハンカチはわざわざ母さまにお願いして、ウォルドの横顔を刺繍してもらった物で、お気に入りの一枚だ。それを運動小僧の手に付いた油と塩で、汚されてたまるか!油染みは、取れにくいんだから。


「い・や・だ!」


「ケチ。あっ、伯父上!」


 エドガーがつき出していた手を、そのまま上げて振る。せっかく隠れて見てたのに、何してるのよ。あっ、こっち見て笑ったってことは、ワザトか!ハンカチ貸すのを断ったから、嫌がらせか!なんてヤツ!そしてやっぱりあれは、シモン伯父様だったんだ。


 シモン伯父様は大きく手を振り返したけど、すぐに固まって動かなくなった。横のわたしに気づいたのだろう。じっとこっちを見てるからね。


 あー、うん。これはアレだわ。クロード伯父様の時と同じで、抱きつかれて、泣かれるヤツね。


 こんな所でそんな事になるのは、勘弁してほしい。なんて思っていたら、ギルド長のツアーの開始宣言が始まった。ふへへっ、ラッキー!


 こっちを見ながらグズグズしているシモン伯父さまを含む、最初の一組と見物組が入っていくのを手を振りながら見送ったので、とりあえず、戻ろう。


 その前に村長さんの揚げ芋屋で、忘れずお買い物。塩味とハチミツ味を、それぞれ2つずつ。そして調味料なしを1つ。

 最後のはウォルドへのお土産だ。ワンちゃんだって、きっとお芋は好きよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ