領主代行からの依頼 にぃ
そんなこんなで引き受けることになった、代行様からの依頼のお手伝い。
しかし報酬を貰うからには、中途半端な事は出来ません。追加報酬の為にも、調査、提案、計画、実行!
そこで、じい様に領地全体の地図を用意してもらい、それを使って、独自の調査地図を作る事にした。
ふへへん。見てて、じい様。これが出来上がった時、この領地はわたしの庭と化すから!
さて、まだ何も書いていない地図から判るのは、ここがロックベール辺境伯領の中にある、ロウゴット子爵領で、今、私のいるグリヴの町以外に、ウルス、セザム、シガル、オングルという、四つの村があるという事。
なので、まずはここ、グリヴの町から。じい様にする質問は、昨日のうちに母さまと相談して、まとめてあるから、問題無い。そして、じい様は、意外と町の事に詳しかった。
判った事を、どんどん地図に書き込む。町に住んでいるのは500人程。中心部には、市が開かれる広場があり、それを囲むように、大きな建物が3つ。教会と憲兵宿舎、そして、じい様の屋敷だ。
中でも憲兵宿舎は一番広く、何かあった時の領民達の避難所にもなるんだって。敷地内には、井戸や訓練場の他に、牢屋もあるらしい。
教会には、小さな孤児院が併設されていて、今いる孤児は3人。でも、居られるのは12歳までだと聞いて、大変だなと思っていたら、
「だから、孤児は直ぐに稼げる冒険者になる事が、多いのだ」
そう教えてくれた。
「それで、この屋敷は、何してるの?」
「何、とは?」
「だから、宿舎は避難場所で、牢屋でしょ。教会は孤児院。だったら、ここは?」
何かすごい『秘密の役割』とかあるのかもと、期待して聞いたのに、
「特には、何も……」
「判った」
ちょっとガッカリしながら、大きく『何もなし』と書こうとすると、
「えっ、それ書く?じゃあ、えっと、領主代行!」
思わず手を止め、首を傾げる。じい様、違うよね、それ。嘘はいけない。
「あーっ、正確には、代行の代行?」
ちょっと考え、頷くと、わたしはじい様の屋敷に、『代行の代行』と書いた。
それ以外も、町長さんの家に、医院が2軒、薬師所が1軒、そして斡旋所を兼ねた町役場と、次々に記入していく。
役場の横には『寄合所』なるものが、あった。
ここは『誰でも使える憩の場』で、『自警団の拠点』で、『学校』でと、色んな役割の場所で、これは、ロックベール辺境伯領、独自の物だと、じい様がすごく自慢げに話してくれた。
町の一番端には冒険者ギルドと、3軒の宿屋、5軒の宿屋兼食堂。
そして、町から300フィルト程離れた所に、ダンジョン。
正式名称はあるらしいが、皆、クルヴ・ダンジョンと呼んでいる。
村は特にコレといった建物はなく、領民が集まって暮らしている集落に近いと言われたので、住んでる人の数だけ書いていく事にした。
一番大きな村がウルス村で、100人ほど。次がセザム村。ここは90人ほどで、シガル村とオングル村は、どちらも50人ほど。
ここまでで、判った領民の数を足していくと、全部で800人程になった。これはじい様が言うには、一番多かった時に比べて、300人ほど少ないらしい。
出来上がった地図は、我ながら良い出来だった。
次は、実際に見に行く番だ。じい様の記憶力を疑う訳では無いが、間違っていたり、新しく出来たら物があれば、書き足さないといけないからね。だから、一緒に見て周ろうと、じい様を誘ったのに、
「わしが行くと、皆が萎縮するから、一人で行って来てね」
笑顔で言われてしまった。てっきり一緒に行くと思っていたからちょっと驚いたけど、確かに他の人から見たら、じい様の顔は、怖いかもと納得。だから護衛の騎士さんと二人で出かける事にした。
騎士さんの名前はアルノーさん。子供の私にも、とても丁寧に接してくれる、素敵なおじさんだ。
まずは、ご挨拶。
「今日は、宜しくお願いします」
「こちらこそ。出来る限り、お役に立てるよう頑張りますね」
最初に向かったのは、町長さんのいる町役場だ。子供が訪ねて大丈夫かと、ちょっと心配したけれど、アルノーさんが一緒のおかげか、問題なく話が聞けた。そして、メモを取るのも、アルノーさん。
わたしも字は書けるけど、速くは書けないので、お願いした。
「こちら、ラベル様のお孫さんの、エミリアさんです」
「はじめまして。ハウレット商会のエミリアです。今日は、お話しを聞かせてもらいに来ました」
挨拶にさり気なく、商会の名前を入れておく。何が商売に繋がるか、判らないからね。
「ようこそ。はじめまして」
町長のヨアンさんは気の良いおじさんで、子供の私にも丁寧に話をしてくれるし、質問にも嫌な顔をせずに答えてくれた。
そこで判った事は、ダンジョンに子供が勝手に入ってしまうことが、昔からの問題だという事。
「ダンジョンって、誰でも入れるんだ」
「そうなんだ。特に冒険者に憧れている男の子が、ちょっとした小遣い稼ぎを目当てに、入って行く事が多くて。数年前には、大怪我をした子もいたんだよ」
ダンジョンに来る冒険者のおかげで、生活できている人も多いため、あまり声を大にして言う者はいないが、前々から皆、何とかして欲しいと思っていると、話してくれた。
「あとは、この町を訪れる冒険者の数が、最近減っているって事かな」
えっ、それって大問題では?