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ツァー開始とオバケのうわさ いち

 ちょっとのつもりが、ウォルドとガッツリたっぷり遊んでしまい、気が付けばとっぷり陽が暮れていた。


「エミィ、じきに夕食ですよ」


「はーい」


 母さまの声に返事をしながら、ギルド長の伝言を思い出す。

 ありゃりゃ、しまった。でもまぁ、今日行くという伝言は出してないし、大丈夫よね。仕事は、明日からガンバロ〜!



 翌朝、エドガーとマキシム、そしてアルノーさんの4人で冒険者ギルドに向かうと、ギルド長のモリスさんが、手を振っているのが見えた。


「色々とお忙しいでしょうに、わざわざすいません」


 そう言って頭を下げるギルド長の横で、受付けのライラさんが、 


「ギルド長、昨日からずっとソワソワして待ってたんですよ」


 こっそり教えてくれた。うぉぅ……大丈夫じゃなかった。昨日遊び過ぎて来れなかった自分に、頭の中でゲンコツを落とし、反省文を書かせる。 ゴメンナサイ……



「メダル製造機は、こちらです」


 届いた2台のメダル製造機は、ダンジョンの入口近くに建てられた、ツアー用の受け付け小屋の前に設置されていた。


「私は昨日設置した時に試しましたので、よろしければ、どうぞ」


 ギルド長が鎖の付いたタグプレートを、人数分渡してくれる。


 やった!やっぱし出来上がりの確認は、大事だものね!

 受け取ったプレートをみんなに配ると、さっそくためしてみる。製造機には出来上がりの図案が貼られていて、わたしは『ダンジョンの扉とペラの葉』の柄にした。

 少し背が足りないわたし達のために、受付のライラさんが踏み台を持ってきてくれたので、それに乗る。


 チェーンを着けたままのタグプレートを、指定された場所にカチリとはめ込んで、横の操作棒を両手で握って一気に下ろす。


 ガッキョン!


 ちょっとドキドキしながら操作棒を上げると、そこには図案どおりの丸いメダルが出来ていた。

 子供の力でも操作できるよう、キリアンに頼んでいたから、わたしでも問題なく操作できる。横ではエドガーが『グンニーラの葉とトイレ』柄の機械前で、同じ様に操作棒をおろしていた。


 ガッキョン!


「すごい!丸いメダルになってる!」


「僕はこっちの柄にしよう」


「では、私はこちらに」


 マキシムとアルノーさんも、それぞれ試す。


「へぇ、こんな風になるんだ。ほら、エミィとお揃い!」


 出来上がったメダルを首にかけているわたしを見て、マキシムがうれしそうに笑う。 


「俺は、アルノーとお揃いか……」


 エドガー、なに微妙な顔をしてるのよ。心配しなくても、これから沢山のおじさん達とお揃いになるんだから、もっと、喜びなさいよ。


 宣伝は各地の主要な新聞に、一週間おきに3回載せる事が決まっている。それ以外は、各地のギルド支部に大きな宣伝用紙を貼るのと、それより小さい物をハウレット商会の各支店にも貼っておく。もちろん問い合わせをくれた人たちには、ツアー開催のお知らせを送ってある。


 ツアーは1日5回、1回6名までの人数限定だ。値段はタグプレートとギルド長が書いた冊子、それとガイドが付いていて、1人3,000デルだ。

 ガイドなしの見学は、タグプレートと案内用紙がついて、2,000デル。どちらも、記念メダルが作れる特典付きだ。


 案内係は引退した元冒険者で、ギルド前で宿屋を営んでいるワタリさん。

 メガネをかけて、ひょろりとしたおじさんだけど、とてもお話が上手な人だ。

 ギルド長が頼み込んで、1年だけの契約で引き受けてもらったらしい。


 先日の打ち合わせの時に、


「どんな風にするか、少し聞いていきますか?」 


 申し出てくれたので、みんなで聴くことにした。付属の冊子に書かれている話を元に、ダンジョントイレ誕生までを物語のように語ってくれた。

 笑いあり、涙ありの語りは、全部知ってるわたしでも、すごく感動して、最後には涙ぐんでしまった。

 ワタリさん、恐るべし。



 それから2日後。

 新聞に一回目の宣伝記事が載っているのを見ながら、わたしはこれからの事を考えていた。


 父さまの読みでは、トイレのツアーで稼げるのは、半年が良いところらしい。理由は1年も経てば、他でもダンジョントイレが出来るから、珍しい物ではなくなるからだって。

 確かにそうだろう。だからこそ、その次の『ダンジョン冒険ツアー』だ。トイレツアーで稼いでいる半年の間に準備を進めて、目指すは春の3月開業!


 こちらは貴族や、裕福な平民の8歳以上を対象としていて、『冒険者と一緒にダンジョンの5階層まで行って、戻ってくる』2時間ほどのものだ。


 安全度が高くて簡単なものと、少しだけ難度が上がる経路の2つを予定している。それぞれ1日2回、一回5名までの限定ツアーだ。


 おまけにツアーの前後には、『楽しい訓練道具』で遊びたい放題!どうよ、運動小僧たち!あんた達の好きなものばっかりよー!

 もちろん『楽しい訓練道具』だけでも、遊べる。有料だけど。


 そして天気が悪い時用の遊び場も、建設予定だ。こちらも、ツアー参加者は無料で使える。

 トレランプやイーゴ、シヨウギの他にもオセローや、バトルカードを置く予定。もちろん売店つき!遊んで欲しくなったら、すぐに買えるようにね!


 ちなみに、冒険者ギルドでは冒険ツアーに向けて、ちょっと豪勢な宿泊施設も作るらしい。そこの管理・経営はもちろんワタリさん。


「面白い宿にするつもりです。完成したら招待しますので、楽しみにしていて下さい」


 なんて言ってくれたので、今から楽しみだ。

 あー、今のところ、全部順調!なんて思っていたのに、世の中、そんなに甘くなかった。


 砦に木材を運びはじめたころから、オバケが出るという噂が少しずつ広がっていったのだ。

  誰もいないはずの場所から物音がしたり、通路を白い影が横切ったりするという。

 何人もの人が目撃していて、今日、ついにケガ人まで出た。突然上の階から聞こえた大きな物音に驚いて、はしごから落ちて足をひねったらしい。


「心配いりません。うわさ話(そんなもの)で、工事が止まるなど、絶対にさせませんから」

 

 なんてライドさんは言うけど、職人さんの中には怖がって仕事を休む人も出てきていると聞いたマルク翁が、 


「ならば、明日わしがちょっと出かけて、解決してやろう」


「お祖父様、僕もご一緒します!」


「あっ、俺も行きたい!」


 マキシムとエドガーが手を上げ、おまけにわたしの方をじっと見てくる。これは、あれだよね。『お前ももちろん行くよな?』って、やつ。はー、オバケは嫌だけど、わたしの商会のためだもの。ここは行かないとね。


「もちろん、わたしも行きまーす」


 棒読みになったけど、わたしは悪くない。たぶん。


 

 夜、わたしは明日にそなえて、持ち物をベットの上に並べて考えていた。


(噂のオバケの正体が、ホーンウルフの場合は、やっぱり金槌くんがあった方がいいよね。でも人の場合は、引掛け君も必要かも。ロープは絶対いるわね)


(もしホントにオバケだったら……)


 わたしは金槌君の横に置いた紙を見て、ニヤリと笑った。


 ふひょほほほほほ!秀でた乙女は、準備を怠らないものよ!

 こんな事もあろうかと、砦に行った日の夜に、送受信板を使って師匠に連絡しておいたのよ。もちろん、オバケ退治のおまじないを教えてもらうために!

 そして、昨日受信した紙の文字を読み上げた。


『おい、(あぶら)アンケンと()っか』


 これは3回唱えると、どんなオバケも逃げ出すという、すごい呪文だ。


 師匠の説明では、歴史の本に載っていたもので、今から八十年ほど前に、となりの大陸のイナリヤシロ神国から、当時の神王様が親善のために訪れた時、オバケが怖くて眠れないこの国の王女様に、『寝る前に、3回唱えなさい。さすれば怖いものは、そなたの前から逃げ出すであろう』そう言って、教えた呪文なんだって。ふヘヘっ、なんだかすごく効きそう。


「おい、(あぶら)アンケンと()っか。

おい、(あぶら)アンケンと()っか。

おい、(あぶら)アンケンと()っか」


 よし、覚えた。くへへへっ、 これでもぅ、オバケなんて恐くないもんねー!


エミィちゃんの唱えている呪文の元となった物は、『オン アビラウンケン ソワカ』で、大日如来の真言です。

神王様は、そう教えたはずなんですが、伝聞の伝聞によって、おかしな形で後世に伝わることになりました。

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