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乙女の商会?! ご

 じい様の屋敷に着いたとき、真っ先に出むかえてくれたのは、ウォルドだ。馬車の扉があく前から、しっぽブンブンで待っている。あぁー、なんて可愛いの!

 馬車から降りて、飛びついてきたウォルドを抱っこしてクルンと一回転する。


「いてっ」


 後から降りてきたエドガーに、ウォルドの尻尾が当たったみたい。


「可哀相に、ウォルド……」


「なぁ、エミィ。当たったのは、俺なんだけど」


「知ってる。痛かった?」


 聞きながら、ウォルドの尻尾をナデナデしてたら、屋敷の扉が開いて、祖父様と母さま、そしてもう一人、祖父様と同じ年頃の男の人が出てきた。誰だろう。

 マキシムが驚いて、アランさんから受け取ったばかりの鞄を落としたけど、知り合いかな?


「おじい様、いらしてたんですか?」


 なぁんだ。マキシムのおじい様だったのか……えっ、てことは、お隣の辺境伯様?何で、ここにいるの?

 しかも驚くマキシムの前を通り過ぎてわたしの前に来ると、しゃがみこんでマジマジと顔を見てくる。


「ほんとに、そっくりだ……」


 えっ、涙ぐんでる?あれ、なんかこれって、前にもあったような……もしかして、わたしが困った状況になるやつでは?


(ほら、やっぱり……)


 なんで悪い予感って、当たるんだろ。

 マキシムのおじい様は、わたしをぎゅっと抱きしめた。その後はずっと無言だけど、泣いているのが判る。湿っていく肩が、あったかいもの。


 ライドさんの顔が、驚いたまま固まってるけど、コレ、わたしのせいじゃないからね?


 そして祖父様。「わしの孫だ、離せ」と言いながら、わたしの両足をつかむのは、今すぐ止めて!乙女の足は地面に着いていたいの!浮かすな!


 困っているわたしを助けてくれたのは、母さまだった。


「お父様、おじ様。先ずは皆さんをご案内しないと。それから、ゆっくりお話ししましょう。ほら、エミィ、いらっしゃい」


 言いながらじい様の手をほどき、マキシムのおじい様から、ペリンとわたしを引きはがす。


 おかげで、やっとウォルドをおろしてあげることができた。ワンちゃんは怖がりさんが多いから、気を付けてあげないとイケないのに、ホント大人たちと来たら無神経なんだから。


 家令のレノーさんが、みんなを部屋に案内するのを見ながら、応接室へ向かう。かわいそうに、くたびれたのかウォルドはその場にうずくまっていた。


 **


「ばあ様の従兄弟?」


「そうなんだよ。私の父と、君たちの曾祖母は兄妹でね。エルヴィーヌの母親が早くに亡くなった事もあって、私達は実の兄妹のように育ったんだ」


 マキシムのおじい様は、マルク・ベルクールという名前で、前辺境伯だった。 


「マルク翁と呼んでくれ。近しい者達は皆、そう呼ぶからな」


 平民のわたしが呼んでも、良いのかな?でもまぁ、親戚だし、本人が良いって言うんだから、良いんだろう。


「エルヴィーヌと初めて会ったのは、今の君よりずっと小さな頃だったけど、それは可愛くてね」


 懐かしそうに話すけど、少しさびしそうに聞こえるのは、ばあ様がもうこの世にいないからだろう。


 それにしても、まさか母さまがお隣の辺境伯と親戚だったとは。エドガーから親戚だって聞いた時、てっきり伯母様側の親戚だと思っていたから、ほんと、びっくりだ。

 おまけにマルク翁は商会にも、かなりの額の出資を申し出てくれた。助かる〜。元手はいくらあっても良いからね。


「なんなら、こちらの国での販売に際して必要な保証人を、うちで引き受けよう」


「いいの?」


「もちろんだ」


 やったね!国外販売の保証人、確保!

 ふへへっ。これでわたしも、大陸を股にかけた、すご腕商人の仲間入りよ~。まだ、何も売ってないけど。


 でも丁度いいから、これからしようと思っていることを、話すことにした。


 ダンジョンツアーと、木製遊具だ。

 ダンジョンツアーは少し前から、じい様とエドガーと一緒に考えていたもので、これは何らかの理由で引退した冒険者をツアーガイドとして雇って、5階層までを見て回る、子供向けツアーだ。

 ガイド3人に対して、お客は5人まで。そして8歳以上を対象と考えている。


 それとは別に、エドガー達に聞いた『楽しい訓練道具』を、遊具として設置しようと考えていた。

 これは、遊びながら訓練出来る優れ物になる予定で、これから冒険者になる子供や、なりたて冒険者の訓練にも役に立つよう、安い値段で利用出来るようにしようと思っている。


 もちろん、領地の子に無料開放する日も、作るつもり。だって眼の前に楽しそうな物があるのに、お家のつごうで使えない子が出るのは、悲しすぎる。ただし、使えるのは6歳以上だ。一応、訓練道具だからね。


 そして領地の子供たちは、8歳になったら一回だけだけど、希望者全員をダンジョンツアーに招待したい。


「訓練道具を作るのか。なら、ベルクール領(うち)の職人をこちらに派遣してあげよう」


「いや、職人なら、うちの領地にもいるから、必要無い!」


 それまで母さまの横で静かにしていたじい様が、口をはさんできた。


「ガストン、もうボケたのか?今年の春季合同訓練はこちらでするから、ロックベール領の職人たちは、今はその準備に忙しいはずだ」 


 勝ち誇ったように、翁が笑いながら言う。 


「その点、こちらは人手に余裕がある」 


「準備って、そんなに大変なの?」


「あぁ、図面を作る所から始めるからね。どの器具をどこに置くか、どれくらいの大きさにするか、その為に必要な材木の量や予算まで、計算して作られる。物事というのは、準備がもっとも大事だからね」


「なるほど」


 じい様が悔しそうに「ぐぬぐぬ」言っているけど、余裕がある方に仕事をお願いするのは、当然の話だ。

 領地の人達を、日雇いで雇うつもりだと言ったら、問題ないと返されたので、わたしはマルク翁と、さっさと握手を交わした。


 **


「それはそうと、商会名をいいかげん、決めないとね」


 母さまが笑いながら言うけど、これって結構悩んでいるのよね。今は『E・H商会』という仮名で申請してある。

 でも『乙女商会』や、『エミリア商会』だと、売り出す製品に比べて、商会の名前が可愛い過ぎるのよね。

 わたしが首をひねって悩んでいると、翁が提案してきた。


「ならば、パシェットはどうかな?」


 パシェット商会……響きとしては結構好きだけど、なにか意味があるのかな??

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は4月3日午前6時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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