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乙女の商会?! にぃ

父さま(エドモンド)視点です

 昨夜、妻から緊急の知らせが舞い込んだ。なんと隣接するバルザック王国の、前辺境伯であるマルク・ベルクール様が、エミリアに多額の金銭を渡そうとしているというのだ。しかもその理由と金額が、義父と全く同じだと聞かされ、頭を抱えた。


 義父の古くからの友人で、今は亡き義母の従兄でもあるベルクール様は、妻を幼い頃から娘のように可愛がっていたらしい。

 今回、義父が送りつけたエミィの似顔絵を見て、わざわざ会うために来訪したという。

 そして妻からエミィが今、行っている事やその理由を聞くやいなや、何が何でも義父と同じ金額を贈ると言って、聞かないらしい。


 しかも、その申し出を聞いた義父が、さらに上乗せしようとするなど、話は一層ややこしくなっているようだ。



 送受信板で何度も妻とやり取りをした結果、ようやく出した結論は、いっそ、エミリアに商会を設立させようというものだった。贈られたお金は、全てその商会への出資金にしてしまうのだ。

 高位貴族の金銭感覚は判らないけど、少なくとも庶民の子供に500万デルなんて、贈って良い額ではない。それに妻曰く、『今後もなにかに付けて、金銭を贈ろうとしてくる可能性があるから、それらも全部、そこに回してしまえばいいわ』とのことだ。

 その意見には、全面的に賛成だ。


 すでに義父のお金は振込まれ、玩具の特許を買う事も決まっているので、商会設立の条件は満たしている。あとは本人がどう思うかだが、その話をしたら、笑いながら躍っていたので、乗り気なのは間違いなさそうだ。


(うん。でもその笑い方は、ちょっと……)


 まぁ娘のことだから、商会頭といっても『玩具屋を所持する』位の認識なのだろうが、別に問題はない。信頼出来る者を数人、付けてやるし、もちろん僕自身が後見人として、目を光らせておく。

 もっとも後見人には、僕以上になりたがっている人が2人もいるようなので、僕がなれない可能性もあるが。

 

(さすがに隠居したとはいえ、前辺境伯2人が相手だと、太刀打ちできそうに無いものなぁ……)


 靴の主任デザイナーの地位の継続を聞いて、両手を上げてクルクルと回り浮かれている娘を前に、苦笑する。


(さっき、注意したばかりなのに……いや、笑ってないし、回っているだけだから、踊ってはいないのか?)


 話はまだ終わってないので、注意をうながすために咳払いをする。慌てて回るのをやめて、すました顔をして見せる娘が、可愛いやら可笑しいやらで、思わず頬が緩みかけるが、なんとか真面目な顔を取り繕う。父の威厳は、大事だからね。


「とりあえず、初期費用に関しては、ハウレット商会(うち)で出資しよう。余裕が出来たら、返してくれれば良いから」


 エミリアが、むずかしい顔をする。いくら位かかるのか、考えているのだろう。


「それから出来上がった商品の販売も、全面的に引き受けるつもりでいる。あと、番頭として一人、出向させる。若いが結構有能な奴だから、たいていの交渉事は、そいつが何とかしてくれると思う。あと、絶対に大きな話になる予感がするから、印刷機や工房は最初っから自前で用意しなさい」


 驚いた娘の目と口が、大きく開いたのは、当然だろう。印刷物が広く普及しているとはいえ、印刷機は非常に高価なため、印刷業は簡単に新規参入できるものではない。

 娘も、どこかの印刷所に外注に出すか、専属契約を結ぶつもりでいたのだろう。しかし、エミィの発想と行動力、そして彼女の後ろについている2人のことを考えると、話が大きくなるのは確定している。


 あんぐりと開いた口を、両手を使って閉じる娘の様子に、笑いをこらえながら話を続ける。


「他には、どんな工房が必要かな?」


「オセローを作るのに、木工の工房が必要かな。あとは、急がないけど縫製も欲しい」


「それなら、まずは木工の工房と印刷所の2つだね。それらを作るためには、かなり広い場所が必要だ。そこらは後見人のことも合わせて、お義父さんと相談したら良い」



 判ったといって、自室に戻った娘は今頃、送受信板で義父と連絡を取っているだろう。おそらく後見人は自分がなると言い、場所もロックベール領内に見つけてくれるだろ。


 できるだけ早く、娘を向こうに送り出したいと思っていたので、あと六日ほどで、こちらの仕事が片付くと判って、ホッとした。


 義父にも一応伝えてあるが、こちらに戻ってきて以来、どうも身辺で、不穏な事が続いていた。客を装った暴漢が店で暴れたり、馬車に細工されたりしているのだ。

 どちらも大した事にはならなかったが、それらが激化しないとは限らない。

 原因の想像はついているが、今のところ、大した証拠もないため、何も出来ない状態だ。しかし、家族に害が及ぶのは嫌なので、妻と娘を暫くそちらに滞在させたいと義父にお願いしたのだ。


 娘や孫娘とできるだけ一緒に過ごしたいから、ちょうど良い。なんならここに住めば良いとまで言われてしまったが、できるだけ早く片付けて、迎えに行きたい。



 原因だと思われる人物が、寄越した手紙を広げる。脅すような言葉が連なり、平民ふぜいという言葉が繰り返し出てくる。

 

 馬車に着けるトイレの事で、『トイレの付いた馬車』を扱っているメザール商会の商会頭からの物で、彼は今回うちが特許を取ったことに対し、苦情を言ってきたのだ。


 こちらとしたら 正式に特許が認められた商品だし、そもそも取り外しが出来る時点で、別物だと思うのだが、相手の考えは、違ったようだ。

 既得権益の侵害だと言い張り、損害分も含め、利益の半分を寄越せと言ってきたのだ。 


 馬鹿げているにも程があるが、メザール商会の会頭は男爵位を持つ貴族だ。しょせん平民相手、少しばかり圧をかければ簡単に話が通ると思っているのだろう。愚かにも程がある。


 しかも、ダンジョントイレに関しても、国相手の交渉は平民には荷が重いだろうから、自分が交渉役を引き受けてやる。その代わり、利権の一部をよこせとまで言い出した。どれだけ厚かましいのやら。


 どちらも丁寧にお断りしてやったが、ああいう輩は、自分の思う通りにならないと、何をするか判らない。この手紙にも、『貴族に平民が逆らっても、ろくなことはないぞ』と書かれている。『大人しく言うことを聞け』とも。


 エミィがロックベール領に発ったら、僕は商会裏手の養父母の家に、エリさん共々、厄介になることにしている。

 あの家の隣には護衛の宿舎があり、アランをはじめとして、商会で雇っている護衛が5人住んでいて、今は両方の家を交代で見回ってもらっている。どちらの家にも、『セレスティン特製の防犯装置』が付いているが、用心するに越したことはない。


 それに、そろそろ僕を襲った連中を取調べた結果報告が届く頃だ。


『セレスティン特製の防犯装置』は、私の別の作品『お父様様たちは今日も賑やか』に出てくる、アレのバージョンアップした物です。

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― 新着の感想 ―
情報戦で負けてる男爵って…………あれ?もしや……モブ伯爵令嬢が泊まったホテルで騒いだ男爵って、こいつでは? そして、この商会に手を出したら、動く前辺境伯が2人くらいいるのだが……
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