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街にお出かけ いち

 3日目の午後、侍女さんたちの手を借りて、持って帰るワンピースを選んでいると、エドガーとマキシムが部屋に来た。


「もう1日、泊まれば良いのに」


「もうじき父さまが迎えに来るし、明日は商業地区に行くことになってるから、無理だよ」 


 赤いワンピースを見ながら、不満顔のエドガーに答える。


(うーっ、これはさすがに着ていく場所がなさそうだから、置いていこう……) 


 テーブルの上に置くと、次のワンピースを手渡される。昨日着た虹色ビーズのやつだ。これも着ていく場所に悩んだけど、『春祭り』用にしようと決めて、鞄の上に置くと、すかさず侍女さんが揃いの手袋をその上に並べ、箱に詰めてくれる。


「誕生祭の見物に行くの?」


 クリーム色にピンクの花模様のワンピースを手渡しながら、マキシムが聞いてくる。今日から5日間、王都では第2王子の誕生祭が行われていて、多くの観光客が押し寄せていた。

 しかも今夜は王宮で祝賀会が開かれるから、招待されている伯父様達も、午後からその準備にかかりきりになっている。


「それもあるけど、文房具屋さんに行く用事があるの」


 これは嘘じゃない。オセローの特許を持っているテリエさんは、文房具屋を営んでいて、明日はそこで話をすることになっていた。


「買い物?」


「そんなとこ」


 これも、嘘じゃない。ただ、買うのが文房具じゃなく、特許なだけだ。 


「なら、僕も一緒に行って良い?ちょうど新しいレターセットが、欲しいと思っていたんだ」 


「あっ、マキシムずるいぞ。エミィ、俺も誕生祭に行きたい!」


 行きたいと言われても、はい、どうぞと連れ出すわけにはいかないから、伯父様に許可を取るように言って、部屋から追い出す。

 せっかくの衣装選びなんだから、じっくり、しっかり考えたいのに、横でしゃべられると気が散ってしょうがない。黙ってられない運動小僧は、追い出すのが正解だ。


 そして、すごーくがんばって悩んだ結果、衣装箱6つと帽子箱3つが、鞄と一緒に積まれていた。


 それを玄関横まで運んでいると、エドガー達が、アルノーさんと一緒なら良いと言われたと、報告に来た。



 **



 今日は誕生祭だけじゃなく、商会の代表として特許の商談にも行くので、エリさんに手伝ってもらって、抜かり無く準備をする。

 淡いピンクのワンピースは、細いレースのリボンがいくつも付いていて、お気に入りの1着だ。足元はモチロン『乙女の快足』で、レースの花飾りがすごく可愛い。

 髪は動きやすいように、エリさんがハーフアップにしてくれた。

 財布と必要な書類をピンクの肩掛け鞄に入れて、斜め掛けにすれば、準備完了だ!


 家までは、エドガー達に馬車で迎えに来てもらう。


「おはよう。今日は一段と可愛いね。髪型もよく似合ってる」


 玄関で待っていたマキシムが、顔を見るなりほめてくれたので、嬉しくなる。ふへへっ。

 マキシムは白いシャツに、銀色のボタンの付いた濃紺の上着とズボンで、ちょっと良いとこの坊っちゃん風だ。


 エリさんに見送られ馬車に向かうと、中でエドガーがアクビをしながら、だらしなく座っていたから、その足を踏んづけながら乗り込み、アルノーさんにあいさつしたら、出発だ。


 商業地区入口の広場前で、馬車を降りる。ここから先は、第二王子の誕生祭の間、昼から夕方にかけて、馬車の乗り入れが禁止されているからだ。


 馬車道までぎっしりと並んだ露店や屋台の間を、たくさんの人たちが買い物を楽しんでいるのが見える。その中を、はぐれないよう、わたしを真ん中に三人で手をつなぎ、その後ろをアルノーさんがついてくる。


 広場にも、屋台がみっちりと並んでいて、今だけの限定商品も多い。見ているだけでも楽しいけど、ここはやっぱり、食べ歩かないとね!


「この広場から、この先にある噴水広場にかけてが、1番にぎやかなんだよ」


 説明しながら、イナリヤシロ神国の串団子の屋台を見つけたので、さっそく買いに行く。


「おじさん、4本ちょうだい!」 


 財布から、手早くお金を払う。  


「あいよ!毎度あり」


「なんですか、これは」


「隣の大陸にある、イナリヤシロ神国のおやつでね、美味しいよ」


 茶色いタレのからんだ団子を、みんなに1本ずつわたして、一口、かじってみせる。うん、甘辛いタレがもっちりとした団子にからんで、美味しい。

 わたしが食べるのを見て、みんなも食べ始める。


「へぇ、ほんと美味しいや」


「食感が面白いね」


 他にも果物のジュースや、フライドポテトも買って食べたけど、その代金は、伯父様からお金を預かっているからと言って、アルノーさんが全部払ってくれた。


 しばらくすると、エドガーがトイレに行きたいと言い出した。


「さっき、ジュースを2杯も飲むからだ」 


「マッキー、うるさい。美味しかったんだから、しかたないだろ」  


 近くの街中トイレは行列が出来ていたので、少し離れた場所のトイレを探すと言う。アルノーさんが一緒に行くというので、少し先にある噴水広場で待ち合わせる事にした。


 少しだけ出店を見て回り、噴水近くのベンチに座って、エドガーたちを待つけど、いっこうに戻って来ない。しかたないから、迎えに行こうと立ちあがったその時。


「ひったくりよ!誰か捕まえてぇ!」


 女の人の叫び声がした。見ると男が二人、こちらに向かって走ってくる。一人は婦人物の手提げ鞄を、持っていた。


「マキシム、しっかり握って、わたしと同じようにしてね」


 うなずくマキシムに、『新・ひっかけ君(特殊仕様)』の持ち手側を渡すと、反対側を持ってスルスルと伸ばしていく。


「はい、しゃがむ」


 うまい具合に、男達が近づいて来る。直ぐ側まできたときをみはからい、身体強化をかけて、


「ホイっ!払う」


 ガッ、ゴン!


 浮かした引っ掛け君で足を払うと、勢いよく走ってきた男たちは、顔面から地面に突っ込んだ。


「びでぶっ」 「げべっ」


 周りから、歓声が上がる。


「はい、次はこう持って」


 起き上がろうとする男の腕を取り、その手のひらを両手でつかむ。


「こうヒネる」


 そして身体の外側に向けて、しっかりと捻ってやる。これは、護衛のアランさん直伝の技だ。もちろん、もう一人の男の腕は、同時進行でマキシムが捻っている。


「「ギアーッ、アーッ!アーッ、アー!」」


 汚い二重奏(叫び声)に、思わず耳を塞ぎたくなるけど、困ったことに二本しかない手は使用中だ。仕方ない、ガマンしよ。


 近くの売店のおじさん数人が縄を持ってきて、引ったくり犯をしばるまで、二重奏は続いた。

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