お家訪問! さん
ロメリア伯母様から、運動小僧を持つ母の意見や希望を一通り聞き出した結果、だいたい、3歳が分かれ目だと判った。
それまでは男女共に、フリルやレースの付いた衣服を着ているけど、3歳過ぎたとたんに、男の子の衣装は色が限定されて、飾りが無くなるらしい。
「確かにすぐに汚したり破いたりするから、飾りが無いのは判るのよ。でも、色ぐらいは選びたいでしょう?なのに仕立て屋まで、決まった色ばかり勧めてくるものだから、ホント、つまらなくて」
確かに同じような色に似たようなデザインでは、買い物していても、つまらないかも。ついでにマキシムの意見も聞いてみた。
彼が今着ているのは、白いシャツに紺色のベストと白いズボンで、伯母様の嘆きに近い格好だけど、着る方の意見も大事だからね。後でエドガーにも、話を聞くことにしよう。
「僕や兄さんの服は、たいてい城内の仕立て職人が作った物だから、気にしたことは無いかな。周りも同じような服を着てるし」
ん?城内って事は、マキシムも貴族なのかな?
「もっと色んな形や色を着たいとは、思わない?」
「うーん。正装の時に着る服って、結構装飾が多いけど、正直動きづらいし、汚さないように気を使うから、今みたいな格好の方が気楽かな。でも、明るい色のシャツや、小さな刺繍のされている上着なら、着ても良いかも」
あー、庶民の子供は正装なんてほぼしないから、お貴族様決定だわ。だけど、刺繍かぁ……名前や頭文字の刺繍を入れるのは、仕立て屋で頼めばしてくれるし、それ以外だと、専門の職人に頼む事になる。
でも手の込んだ刺繍は、運動小僧にかかれば、直ぐに汚したり、ほつれたりしそうだから、どう考えても、不向きだ。
ならいっそ刺繍の部分だけ、後から付けたり外したり出来るようにしたら、どうだろう?そんなに大きくないもので、胸もとや衿に付けられたら良いかも?よし、忘れないよう、後でノートに書いておこう。
ふと伯父様の方を見ると、2箱目の焼き菓子が、空になっていて、3箱目に伸ばした手が、ピシャリと伯母様に扇子で叩かれた。
そのあとは、伯母様が用意してくれた部屋へと向かった。後ろには箱を抱えた侍女さんたちが、ぞろぞろとついて来る。階段を上がると、朝とは反対方向へと進む。
「ここよ」
扉の先には、エドガーが案内してくれた部屋とは、全然違う空間が広がっていた。あそこは全部が簡素な感じだったけど、こちらは全体が淡いピンクと白で統一されていて、とても可愛い。
カーテンやベットカバーにはフリルがたっぷり付いているし、置かれているクッションも花柄の可愛い物ばかりだ。
「わぁ!可愛い!」
「気に入った?」
「はい。とても可愛くて、ステキです!伯母様、ありがとうございます!」
こんな部屋に、2日も泊まれるなんて!薔薇模様のクッションを抱え、つま先立ちでクルリと回る。くふふんっ、これぞ、乙女の夢の部屋!まるでお姫様になったみたい!
しかも専用の衣装部屋では、先ほどの箱から取り出されたワンピースや帽子が、侍女さんたちの手によって、並べられている。伯母様は靴下や下着まで、たっぷり買っていて、それらは引き出しにしまわれていく。
(わたし、何日泊まるんだっけ?明後日には帰るのよね?)
「あぁ、箱は残しておいて。いくつかは持って帰ってもらうから」
(あっ、持って帰っていいんだ)
特に伯母様おすすめの5着程は、試着するよう求められたけど、全部可愛かったから、楽しい時間でしかなかった。
エドガーに会えたのは、夕食の席だった。だけど、ほとんど喋らないで食べていたから、聞きたいことは、聞けなかった。そしてなぜかマキシムも、同席していた。うーん、いったいどういう関係なんだろう?
食後は、みんなで遊戯室へと向かう。だけど部屋に入った途端にエドガーが、大きなあくびをしながら、ソファに寝転んだと思ったら、寝息をたてはじめた。
「よっぽど疲れたんだな」
伯父様は笑うように言うと、エドガーを抱えて運んでいった。
遊戯室の棚には、シヨウギ盤やチェイス盤といっしょに、イーゴによく似たゲーム盤があった。片面が白で反対側は黒のコマで、盤の色は緑だ。
「これ、イーゴじゃないよね?」
「あぁ、それはオセローだよ。陣取りゲームの一種だけど、知らない?」
マキシムが説明してくれる。
「名前だけは知ってるけど、実物は初めて見た」
「やってみる?」
「うん」
ゲーム盤を、テーブルに持ってきて
「ルールは簡単で、先ず真ん中にこうやって中央に白と黒、2枚づつ並べて、後は交互に並べて行くんだけど、こんな風に同じ色で挟んだら、引っくり返す事ができるんだ」
黒に挟まれた白いコマを、ひっくり返し、黒にする。
「縦とか、横で挟めば良いの?」
「斜めも挟めるよ」
「ならコマは、どこでも好きな所に置いて良いの?」
「ううん。すでに置いてある横にしか、置いちゃいけないんだ」
ルールを聞いて、ゲームを始める。最初は確かに面白かった。互いにコマを置くたびに、ひっくり返していくからだ。でもある程度盤が埋まって来ると、とたんにつまらなくなった。
互いに挟まれる心配の無い、端や角に置くようになったからだ。結果は2枚差でわたしが勝ったけど、もう一度ゲームをしようとは、思わなかった。
(アドルが言ってたのは、この事なんだ……)
***
その夜、久しぶりに夢にトモヨさんが出てきた。いつもの赤色の布が敷かれた台には、オセローが置かれている。でも、今日マキシムと遊んだ物とは、少し違って見えた。
「懐かしいわね。これ昔、すごく流行ったのよ」
「あっ、これコマが大きい……」
「これは牛乳瓶のフタの大きさなの。考えた人が、最初に作るときに、それを使って作ったこともあって、この大きさが正式に採用されたの。それに、囲碁好きの人だったからか、コマじゃなくて石と呼んでいたわね。ルールは知ってる?」
「今日、教わった」
聞いた内容を話すと、トモヨさんは少し首をかしげ、
「あら、私の知っているルールとは、少し違うわ。それだと、途中からつまらなくなってしまうでしょうに。でも、何でそんなルールになったのかしら?」
言いながらゲームの準備を始め、トモヨさんの言うルールでやってみた。違いはいくつかあり、『黒が先手』で、『必ず挟めるところに置く』のと、『置けなかったら、パスと言って相手が置く番になる』だ。
確かに、コッチのほうが面白かった。ひっくり返されるのが判ってるのに、置かないといけなかったりして、悔しい思いしたあげくに、5戦5敗したけど、最後まで楽しめた。いや、負けたのは悔しいよ、スゴく!
でもこれで、特許を買う決心がついた。ついでに他のものもまとめて買って、可能性を考えようっと!
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次作の投稿は1月17日午前6時を予定しています。
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『オセロ』と『リバーシ』は、同じ物のように扱われますが、実は別の物です。歴史はリバーシのほうが古く、19世紀のイギリスが発祥と言われており、一方オセロは1970年代の日本です。
どちらも相手のコマを挟んで、ひっくり返していくのは同じですが、リバーシは正式なマス目の数は決まっていない上に、ルールも地域によって少しずつ違うようです。
オセロはメガハウス(昔はツクダオリジナル)の登録商標のため、勝手に使用できません。そのためか、リバーシと言う名で同じようなゲームが売られているので、今の様な認識になったと思われます。
一般的には、ルールが統一されていなかったリバーシのルールを、キチンとルールを決めて商品化したのがオセロだと認識されているようです。
ちなみにオセロの名は、開発者の長谷川五郎さんのお父様が名付けられたそうで、シェークスピアのオセロから来ているそうです。
誤字報告、ありがとうございます。




