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まずは仕事だ! にぃ

「こんにちは、ばあ様、じい様!」


「あら、いらっしゃい」


「おう、よくきたな」


 現在ハウレットのじい様とばあ様は、『楽隠居』をしているのだけど、先日のように父さまが視察に出ていたりすると、事務所に顔を出して、いろいろと采配を振るってくれる。今日は父さまがいるので、家でのんびりしていた。


 最近は自由に使える時間が増えたからと、二人とも趣味を楽しんでいて、じい様は木彫りの小さな動物を作っているし、ばあ様は小さな布をつなげた、パッチワークをしている。今一番のお気に入りらしい。それを眺めながら、ばあ様がいれてくれたお茶を飲む。


「ねぇ、そんな小さな木切れや布って、どこで売ってるの?」


 ふと、疑問に思ったことを聞いてみる。すると、じい様とばあ様は顔を見合せ、笑った。


「これは知り合いの大工からもらったもので、お金はかかって無いよ。ばあさんのこれも、うちの縫製部の余りもんだ」


 びっくりした。大商会の会長夫妻の趣味が、共に材料費タダとは思わなかったからだ。でもよく考えたら、無駄を省き、丁寧な商売を続けることで、小さな商店を大きな商会にした二人らしいと思った。


「そっか。お金を使うばかりじゃ無いんだ」


「そうよ。それに出来上がった物を買うのも楽しいけれど、自分で作るのは、また違う楽しさがあるのよ」


 その言葉に、ふと思いつく。


「ねぇ、ばあ様。少しの布でも、飾り物やお人形なんかが作れたりする?もし作れるなら、教えて!」 


「あら、あなたが作るの?」


「ううん。でも提案しようとは、思ってる。だから、いろいろ知っておきたいの。それとじい様、簡単な木彫りの見本があれば、幾つか欲しいんだけど、ある?」


「作り始めた頃の、ちょっと不格好なもので良ければ持っていけ。確か……あぁ、これだ。この中に入ってるから、これごとあげよう」  


 じい様が部屋の隅にある棚から、くたびれた紙箱を取り出し、渡してくれる。中をのぞくと直立した動物や、平べったい花などが入っていた。少しカクカクしていて、今作っている物とは全然違うけど、これはこれで、いい感じだ。


 エドガーがこだわっていた、寄り合い所のおもちゃだけど、これで行くことにした。たぶんエドガーが思っている物とは、違う形だけど、きっとこの方が良いと思う。


 ばあ様も、いくつか紙片を渡してくれた。布のボールや小さなリボンの作り方が、絵入りで書かれてあって、すごく判り易い。手のひら位の小さなお人形は、簡単な着せ替えの作り方まで描かれている。

 それを見ているうちに、顔見知りになった村の女の子達の姿が、思い浮かぶ。


(ふへへっ、これ、喜んでくれたら良いな……)



 お菓子を食べながらおしゃべりした後、箱と紙片を持って技術部へと向かっていると、文書部副主任のライドさんが声をかけてきた。


「あっ、サイテ……ふへほほほっ。ライドさん、今日は良いお天気で!」


 思わずサイテイ魔人と言いそうになったのを、笑って誤魔化す。


「そのあだ名で呼ぶのは止めるようにと、言ったはずですが。それにしても、また面倒な事を起こさないで下さいよ」


 眉間にシワを寄せ、ため息をつきながら書類を渡してきた。さっき頼んでおいた、卓上ゲームの特許についての調査報告書だ。


再提(サイテイ)魔人は態度も言葉も全部が嫌味だけど、仕事は早いよね)


 お礼を言って受け取ると、それ以上嫌味を言われないよう、技術部へと急いだ。


 機械の調整をしているキリアンの横で、書類を広げる。

 昔からあるチェースやスゲロク、イーゴ、シヨウギなどは、既に特許は切れていて、誰がゲーム盤を作っても問題はない。

 ただ、この4つは競技としても人気で、それぞれに協会がある。協会はレベル認定をしたり、大きな大会をいくつも開いたりしている上に、協会公認のゲーム盤を販売しているのだ。そして、これが結構な値段がする。


(安い認定外品、一応うちでも扱ってるけど、今回の場合、それはちょっと違うしなぁ……)


 今計画しているのは、それなりの身分だったり、お金のある家の子供達が対象だ。そして、そんな家には少なくとも4つのうち、1つはあったりする。


(あまり知られてない物で、簡単だけど、面白いなんて都合の良い物は、やっぱり無いか)


 ペラペラと書類をめくっていると、売却価格という文字が目に入った。『オセロー』、『エカルタ』、『バトルカード』の3品目で、特許の期間はまだ20年近く残っている。


(申請は、10年ほど前かぁ。その頃まだ子供だったのは……)


「ねぇアドル、オセローって知ってる?」


「あぁ、確かガキの頃に少しだけ流行ったっけ。友だちが持ってたけど、すぐに遊ばなくなったな」


「なんで?」


「最初は面白いんだけど、慣れるとつまらなくて」


「ふぅん。じゃあ、エカルタとバトルカードは?」


「それは、どっちも知らないな」


 今の話だと、あまり期待は出来そうにないけど、なにせ売値がすごく安いのだ。はっきり言って、靴の主任デザイナーをした時にもらったお金で、買えるのよ。


(うーん………)


 頭から煙が出そうなくらい悩んだ結果、家に帰ってから、父さまに相談することにした。



 悩み事の後まわしを無事決めたので、後は明日の準備に取り掛かることにした。 


 いくら身内とはいえ、お貴族様のお宅に、お泊り訪問するのだ。手土産の10個や20個は持って行くべきだろう。商会(うち)が舐められない為にも、ここはわたしが頑張らないと!


 ふへへへっ。クロード伯父様、庶民の見栄張り力を、その目に焼き付けるがいい!


 まずは焼き菓子から。これは伯父様の好物らしく、昨夜、通信機を使って母さまから必要な種類と数を聞いてある。それらを馴染みの焼き菓子店に注文し、ついでにわたしのおやつも買う。


 次に玩具屋に寄って、エドガーに何か買うついでに、エカルタとバトルカードがどんな物か、調べることにした。

 入った玩具屋では、エカルタは扱って無いと言われたけど、バトルカードはあった。だけどそれは、あまりにも残念な代物だった。

 魔獣が描かれたカードが10枚で一組なんだけど、絵は綺麗だけど迫力がないし、紙も印刷も、あまり質が良いとは言えない。しかも、遊び方の説明を見ると、1つ買えばみんなで遊べるわけでも無かった。


(玩具は贅沢品だもの。これを幾つも買うくらいなら、『トレランプ』を買うよね……)


 トレランプは昔からあるカードゲームで、4つの絵柄の1から13までのカードと、魔王が描かれたカードの合計53枚で、色んな遊びができる。遊び方を紹介した本まであり、どこに行っても、それでゲームを楽しんでいる人の姿が見られた。 


(回った村でも村長さんが持っていて、仕事が終わったおじさん達が、借りに来てたな)


 店員さんにお礼を言って、店を出る。結局エドガーには、露天で見つけた兜と木剣のセットにした。兜に動物の耳が付いているのが、なんだか可愛かったからだ。

 隣の大陸に昔からある人気のお土産で、第2王子の誕生祭のために、わざわざ仕入れた物らしい。露天のおじさんが、自慢げに教えてくれた。


 後はエドガーの母さまの分だ。婦人用で最近の売れ筋は、『乙女の快足・大人向け』だけど、サイズがわからないから、これは却下。化粧品や香水も考えたけど、好みが判らないので、結局お茶にした。お貴族様も利用するお店の物だから、大丈夫!……だよね?

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