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まずは仕事だ! いち

 翌日、父さまが商会の本店へ行くというので、一緒に連れて行ってもらうことにした。

 本店は王都の西側にある商業地域の中心部にあって、そこからは特許申請所などの役場街も比較的近い。

 我が家は商業地域と貴族街の中間ぐらいに建っているから、走って行っても良いんだけど、朝の歩行者道はすごく混んでいるのと、王都で余所様の塀や屋根を走ると、すぐに父さまの耳に入るので、ここは大人しく馬車に乗る。


 昨日まで使っていた商会の旅行用馬車は、トイレを含めて整備中なので、今日乗るのは自前の小型馬車だ。これは一頭立てで二人しか乗れないけど、小回りが利くのでとても便利だし、何よりオシャレだ。


「「「「おはようございます」」」」


 三階建ての本店の裏側に馬車を停め、通用口から事務所に入ると、一斉に声をかけられた。わたし達も挨拶を返し、父さまは管理部へ、私は技術部へと向かう。


「おはよう!」


 技術部にはすでにギレスと師匠がいた。


「おかえり、お嬢。またいろいろと仕事を増やしてるんだって?文書管理部がブーブー言ってたぞ」


 それはわたしのせいではないと、一応言い訳してみるけど、ギレスは全く信じてない顔で、ニヤニヤしている。失礼なやつめ。

 とりあえず師匠に夕べ聞いた土魔法使いについて、どのくらい集められそうなのか尋ねることにした。


「今のところ、あと30人てところかしら?ある程度の魔力量を持っていないと、あの『変形』はできないから、どうしても限られてくるの」


 全部で38人。それでどれくらいの派遣料が取れるのかは、わからないけど、そこは父さまに頑張ってもらうしかない。わたしはそれとは別の問題を解決するために、今日はここに来たんだから。


「ところで、デザイン部から絵師を一人借りたいんだけど、誰かおすすめの人っている?」


「今は誰も無理だと思うよ。お嬢のせいで、あそこは今、しっちゃかめっちゃかだからな」


 外まで聞こえていたのか、キリアンが部屋に入って来ながら答えた。後ろからアドルも来て、教えてくれる。

 

「いつもの商品パンフレットの他に、二つのトイレの仕様書に付ける絵を描くのに、絵師だけでなく、デザイナーまで全員駆り出されている状態だ」


 商品パンフレットは年に二回発行され、うちで扱う商品の大半が載っている。もっともすべての商品に絵が付いているわけではなく、文字だけのものも多い。

 主に絵が入るのは、商会の一押し商品や、新商品などで、特に力を入れている商品は色付きだったりする。そして今そのパンフレット制作の、真っ最中だという。


「お嬢、自分で描けば?描くの好きだろ」


 ギレスが言うが、私の絵は子供のお絵かきなので、それでお金が取れるほと、商売は甘くない。


「だったら、斡旋所に行って、求人出すしかないな」


 アドルが言うけど、1日、2日で終わる仕事の求人なんて、応募する人がいるとは思えなかった。最悪自分で描く事にして、あとは小さなプレス加工機だ。キリアンに用途を説明して、使える物を教えてもらう。


「手動で小型なら、ここらへんだな。もっとも使う金属や金型にもよるが」


 私は冒険者ギルドでもらった、臨時のタグプレートを見せる。


「これを加工できるものが、欲しいの」


「これ、冒険者のタグじゃねえか。こんなの加工する馬鹿いるのか?」


 驚くアドルや、みんなにも説明する。


「ううん、これは臨時のタグプレート。この臨時タグって、本当は何度も使用できるんだけども、使用後は加工しちゃって、一回こっきりしか利用できないようにしたいの」


「なんで?」


「もちろん儲けるためよ!」


 親指を、ぐっと突き出す。これはグリヴのギルド長、モリスさんと計画していることで、ダンジョントイレの説明書を付けた臨時タグを、それなりのお値段で発行して、試用後はメダルに加工し、記念品として持って帰ってもらうのだ。

 だから、メダルの柄は3種類ぐらい欲しい。もちろん、加工代は無料にする。まぁ、発行価格に、その分も入ってるんだけどね。ふへへっ。


 でも、この記念品メダル、実はじい様とエドガーの三人でこっそり考えている計画にも、使えるのよね。もっとも、それまでに柄を増やさないと、いけないけど。


 師匠は、やっぱりエミィは面白いと笑うし、ギレスはあきれ顔だ。キリアンとアドルに至っては、口を開けたまま固まってる。


「でもお嬢、そんなことしたら、また忙しくなるぞ?ただでさえ、忙しいって自分でぼやいてるくせに」


「うん、判ってる。判ってるんだけど、思いついたら、やらないとねぇ」


「悪い顔になってるぞ。で、いつからする予定なんだ?」


 どうやら驚きから立ち直ったらしいキリアンが、聞いてきた。


「一つはできるだけ早く欲しいかな。実はダンジョントイレを見学したいって人が、すでに結構いるみたいなの。まずはその人たち向け」


 今は臨時タグは発行せず、依頼を受けた冒険者だけが、ダンジョンに入っている。


「じゃぁ、これだな。少々硬い物にも使えるから。あと、金型の金属はこれを使う。それから元になる……あぁ、だから絵師か」


 アドルも話に混ざってくる。


「そう。最悪自分で書くけど、できればお金が取れる絵が欲しいから」


 できれば来た人達が、全部そろえたいと思う物にしたい。


「急ぐんなら、こっちにいる間に探すか描くかした方が良いぞ。そしたら速攻で仕上げて、送ってやるよ」


 やった!これで大体の目途がついた。今回の帰宅は一時的で2週間後にはまた向こうに戻る。その間に絵を何とかすれば、色いろ間に合いそうだ。


「ありがと、キリアン。何とか頑張る。じゃぁわたし、ハウレットのじい様とばあ様に顔を見せてくるね」


 席を立ち扉に向かう。


「そういうことは、先に済ませとくもんだ」


 後ろでギレスの声が聞こえるが、色いろと上手くいって浮かれた私はスキップしながら、文書管理部に立ち寄った後、本店の裏手にあるにあるじい様たちの家へと向かった。

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