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王都に戻るぞ! にぃ

 わたし、エミリアは現在、父さまと師匠、そしてなぜかエドガーと一緒に、馬車に揺られております。


「エドガー。じい様のとこでの訓練は、もう良いの?」


「だってエミィがいないと、打ち合いが出来ないだろ。それに、エミィより強い子供もいないし」


 一緒に帰っても、打ち合いが出来るとは思えないけど、黙っておこう。そのおかげで、アルノーさんも護衛として、一緒に来てくれたからだ。少し前に父さまが乗った馬車が襲われていたので、アランさんだけだと、ちょっと不安だったから、これは凄くありがたい。


 じい様の屋敷から王都までは、馬車で大体5日かかるけれど、今回は野宿は無い。なので、『組み立て式トイレ』の出番はないけど、『馬車につけれるトイレ』は大活躍だった。主にエドガーに。

 行きの私と同じで、休憩の度にトイレを使っていたのだ。それはもう、楽しげに。

 どうやらじい様のところに来るときは、同行者が全員男性だったこともあり、『穴を掘って埋める』だったらしい。あー、なんか判るわ、それ。

 

「良いなこれ。父様に頼んで、うちの馬車にも着けてもらおう」


 まいどあり。1個売れましたよ、父さま。


「エドガーの家には、トイレが付いた馬車は、無いのかい」


「母様が一緒で、長い時間移動するときは借りるけど、うちには無いや」


「えっ?!あのかっこ悪いの、わざわさ借りてたの?」


「かっこ悪いって……」


「エミィはね、あのかっこ悪いのに乗りたく無いからって理由で、このトイレを考えたのよ」


 師匠が笑いながら言う。


「そうなんだ。すごいな、おまえ。トイレばっかり何個も作って」


 エドガー、それ、ちっとも誉め言葉には聞こえないよ!



 ありがたいことに移動中は天気も良く、順調に進んだため、5日目の昼過ぎに王都に到着した。父さまは仕事があるからと言って、本店前で馬車を降りた。師匠も一緒だ。どうやら二人で土魔法の使える人を、抱え込む計画を立てているようだ。


 あとはエドガーを送っていけば、家に帰れるはずだったんだけど、


「なぁ、今日はうちに泊まらないか?」


 何故かエドガーの家族が住むお屋敷に着いた途端に、屋敷に泊まるように言い出した。 


「何で?」


「父様に紹介しようと思って。絶対会いたいと思うんだ。それに泊まれば明日の朝、打ち合いができるし!」


 うん。それって、打ち合い最優先に聞こえるけど、気のせいじゃないよね。確かにクロード伯父さんには会ってみたいけど、別に急ぐ必要もないし、今日は自分のベッドで寝たい。

 結局、後日遊びに行くという約束をして、何とかあきらめてもらった。その後日が明後日で、しかも2日間泊まる約束になったけど、それはまぁ、仕方ない。


 アルノーさんもエドガーと一緒に降りたので、自宅に到着した後は、アランさんが馬車を本店の馬車置き場まで運んでくれる事になった。


 さあ、久しぶりのお家だー!


「エリさん、ただいまぁ!」


 エリさんはうちの家の一切を切り盛りしてくれる、住み込みの家政婦さんだ。


「おや、エミィお嬢さん、お帰りなさい。あら、エドモント様は?」


「父さまは、お仕事だって。なんか悪い顔して、師匠と相談してた」


 今回の荷物が入った、大きめの鞄3つを運び込みながら、答える。


「悪い顔って……とりあえず、どうされます?お食事になさいますか、それともお風呂に入られます?」


「お風呂がいいかな。そのあと、ご飯を食べる!」


「判りました。お風呂はご自身で大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。1人で準備できる。ありがと」


 うちのお風呂は最新式の魔道具がついているから、私一人でも準備ができる。水の魔石と火の魔石が付いた円盤についているメモリを、好みの温度の数字に合わせ、魔力を少し流すだけで準備ができる優れものだ。あっという間に、湯舟がお湯でいっぱいになる。


「あぁ、なんか落ち着く……」


 お湯につかりながら、思わず声が出た。旅先の宿屋や、じい様のお屋敷も楽しかったけど、やっぱり家が一番落ち着くわ。


お風呂から上がってご飯を食べていたら、父さまが帰って来た。仕事は上手くいったようだ。今日だけで8人の土魔法使いと、2年契約を結んだという。


「最低50人は、欲しいかなぁ」


「なんで、そこまでいるの?」


「実はさ、ダンジョントイレの特許に関して、国が出てきそうなんだよ」


「国?」


父さまの話では、ダンジョンのトイレ問題は我が国だけでの物では無く、他国でも大きな需要があるらしい。そのため、国が特許を買い取り、国家間の取引先材料にしたいらしい。


「えっ、じゃあ商会(うち)の儲けは?」


「国からそれなりのお金はもらえるけれど、大幅に減るね。だから、土魔法使いなのさ。彼らを押さえおいて、派遣料を取ってやる!」


「おー!父さま、さすが!」


思わずパチパチと手を叩く。


「まぁ、その前に特許の売買契約で、出来るだけぶん取るけどね」


「頑張れ、父さま!」


 さすが、商会長が直々に口説いた人だ。父さまは子供のいなかったハウレット商会長夫妻に乞われて、養子になった。まだ学生の頃にだ。継ぐ物が何も無い三男だった父さまは、二つ返事で引き受けたそうだ。

 今も現役の商会長であるハウレットのじい様とばあ様は、どちらも小柄で柔らかな雰囲気の人で、とてもやり手の商人には見えないけど、父さまいわく『人は見かけによらない』らしい。わたしには優しい、じい様とばあ様だ。


(明日は久しぶりに、顔を見に行こうかな?)


 ご飯をすませ、エドガーのところに泊まりに行くことを父さまに伝えると、あくびが出た。

 疲れただろうから、早めに休むよう言われ、部屋に戻ったわたしは、久しぶりに自分のベッドへと、もぐり込んだ。馴染んだ枕に、お気に入りのヌイグルミ、そして見慣れた天井。


 ふへへっ、やっぱ、自分のベッドが一番だ。

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